異世界の姫さまが空から降ってきたとき

杉乃 葵

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第四章 麗美香

第三十九話:Silence wall

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 屋上の中央に立ち、麗美香は、右手の人差し指と中指を揃えて身体の前にピンと伸ばし、四つの方向にそれぞれ何かを唱えながらくるりと一周した。

 何かの儀式のようだ。

 ちょうどこちらを向く位置で止まり、十字を切った。

 長物は脇に置いてあった。

 今度は、指を下に向けて、円を書く様な仕草を繰り返していた。
 そして、その場に座り込んで座禅を組んだ。

 スカート汚れるぞと思ったけど、声かけたら刺されそうな雰囲気を感じたので思い留まった。

 瞑想が始まったのだろう。しばらく目を閉じたまま、まったく動かなくなった。

 じっと見ていてると、流石に退屈してきた。
 時折、周りの景色に余所見したり、階段の方を見たりしながら、気を紛らわした。
 それにしても、授業サボり過ぎだな。大丈夫かな? 流石に心配になってきた。学校側は放任主義なのか、特に何も言ってこないけど。

 そういえば、nullさんは、どうしてるんだろう。実は、ここに来たらもしかして居るんじゃないかと、少し期待していた。その期待は裏切られた訳だけど。
 nullさんに、初めて会ったのは、此処だった。あっちの壁の隅っこに、あの人は立っていたんだ。
 壁に歩み寄り、手を触れる。小さい人だったから、この辺ぐらいかな。nullさんの背丈を想像して、そこに存在しているように想像してみた。
 想像上のnullさんの眼の位置で見つめ合うように少し屈む。どう思います? 何かしないといけないでしょうか? それとも、何かしてはいけないのでしょうか?
 そんな事を、問い掛けてみる。

 (やっぱり来たな)

 壁に、そう書いてあった。

 nullさん、あなたって人は。

 壁に書かれた文字には続きがあった。

 (目に見えている、見た目に騙されるな。)
 (言葉を言葉通りに受け取るな。)

 これは、メッセージなんだろうな。それが、質問に対する応えですか?

 想像のnullさんは、何も応えてくれなかった。

 屋上の方で、ドサッと倒れる音がした。

 しまった! 何かあったのか!

 急いで屋上に飛び出すと、麗美香が倒れていた。

 「おい、麗美香!」

 麗美香に駆け寄り抱き起こす。

 良かった。息はある。

 はっ! 慌てて飛び出してしまったけど、あの怪物が何処かに潜んでいるかも知れないのに、迂闊だった。

 辺りを見回す。特に異常はない。

 いったい何があったんだ?

 「麗美香! しっかりしろ! おい!」

 ほっぺたを叩きながら、大声で呼び掛ける。

 うっ、う~ん。麗美香は、呻きながら、目を少し開いた。

 「後、五分。」

 ドカッ

 「このやろう」

 思わず、抱えていた麗美香を放り出した。

 「痛い……」

 麗美香は頭を擦り、涙目になって抗議した。

 「痛いじゃねえよ。どんだけ心配したと思ってんだ!」

 「えっ? あー、ああ? んっと、あれ? わたし何してんの?」

 麗美香は、きょろきょろと周りを見廻した。
 瞑想してたんじゃねえのか? と聞いたら、ああ、そうだったへへへと笑いやがる。

 「いやぁ~瞑想すると寝ちゃうよね。」

 「知らねえよ。」

 信じらんねえ。こいつは、いったいなんなんだ。何がしたいんだ。

 「で、仕事は終わったのか?」
 
 「どうかなあ?」

 なんだそりや。麗美香のくりくりした黒いタレ目が、どこかのなにかをじっと見つめていた。
 彼女の見ている方を見ても何もない。どうやら、現実の何かを見ているわけではなさそうだ。

 麗美香は、突然むくっと立ち上がると、こちらの腕を掴み、扉の方へ駆け出した。

 「おい、どうしたんだよ!」

 彼女は応えない。

 無言のまま、扉の奥へ放り込まれた。危うく階段を転げ落ちるところだった。慌てて、階段の手摺りにしがみついて落ちずに済んだ。

 麗美香は、扉をバーンと閉め、鎖をぐるぐるとと巻いて、鍵を掛けた。

 しばらくは、こちらに背を向けたまま、息を整えていた。
 荒い息で、肩が上下していた。

 「よしっっ。異状なし!」

 いやいや、むっちゃなんかあっだろうその態度。
 まったく誤魔化せてないぞ。

 「じゃっ、そういう事だから、授業に戻るね。」

 「何が、そういう事なんだよ。それに、そのまま戻る気か?」

 屋上で、転げたせいで、スカートやブラウスがひどく汚れていた。

 「ちょっっ、えええ! 美女が台無し!」

 金太郎が美女とのたまわった。

 「わたし、今日は帰るわ。」

 そう言って、階段をダッシュで駆け下りていった。

 大声で声を掛けたが、返事は無かった。

 なんなんだよ。気になるじゃないか。

 此処に何か、また居るのか?

 ブーブーブー

 携帯が震えていた。
 誰だろうと、スマホを取り出すと、摩耶先輩からのメールだった。
 摩耶先輩からメールなんて珍しい。
 タイトルは無し。

 (放課後、図書室に)

 それだけ書かれていた。
 摩耶先輩のクールな顔付きが浮かんで来そうなメールの文章だな。
 またなんか厄介事かな。
 最近は、かなり平和だったのに、新学期始まった途端こうだよ。
 やれやれ。

 何気なくnullさんの居る筈のない壁の方を見て、ため息をついた。

 やっぱり、なにかあるんでしよ? nullさん。
 
 壁は、なにも応えなかった。
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