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【とある風紀委員の悩み】
しおりを挟む「おい、なんであんなことになってんだよ!」
「知らないよっ。俺に聞くのやめてよっ!」
「じゃあ、どうすんだよ!」
「だから知らないって。あっ、田中! 助けろ。」
ガヤガヤと煩い食堂の外れ。
生徒会役員専用のエリアの近く。
こちらへ顔を向け、必死の形相で助けを求めてくる慎吾に田中は大きくため息をはきだした。
いったい僕にどうしろと。
自分だって、他の委員と同じ情報しか持っていないというのに。
「僕も知らないよ、ほんとに。昨日、風紀室に返って来たときから、もうあんな感じで。」
「うん、うん。俺もみた! ほっぺに湿布貼ってあったからそれが原因じゃないか?」
「あれは転校生に殴られたんだろ? 後処理した久坂が言ってたけど。」
「えっ! そうなの!? そうなのっ、田中!」
「だから僕はしらないって。副委員長がこんなに機嫌悪いの初めてみたし。」
「いや、でもさぁ。あれは機嫌悪いっていうか」
そこで言葉を切って、慎吾は少し離れた場所に座る我が副委員長をおそるおそる伺った。
つい先ほどと変わらず、くるくるとパスタをフォークに巻き付けては、ほどく。
巻き付けては、ほどく。
その繰り返し。
まさしく心ここに在らずというやつだ。
「はあああ。」
田中のはいたため息とは、比べ物にならないほどの悲痛さをもったそれ。
ここまで聞こえるほどの大きさに、その悩みの深さが伺えた。
だから、だからこそ。
自分たちでは解決できない問題なのだ。
田中は、しょぼんと肩を落とした慎吾たちを見て頭を抱えたくなった。
昨日の夕方から今日の朝。
風紀室での時間は地獄にも等しかった。
普段、あんなにおおらかで、全くといっていいほど怒らない。
委員長と正反対といっても過言ではない副委員長が、その顔を無表情にして全く言葉を発しない。
感情をよく表情にのせる副委員長はそれでも美人だが、表情がなくなっただけで、あんなにも変わるものだとは。
目が合っただけで、背中がゾクリと震えたのは今日の朝の出来事である。
そして、
「............。」
田中は目だけを動かし、副委員長の左隣に座る委員長を見た。
こんな時。こんな緊急事態に頼りになるのは、やはり委員長しかいないだろう。
二人は幼馴染みで友人なのだ。
風紀委員全員の心は完全に一致していた。
それなのに、彼は。
ちらちら、と右隣を伺いお肉を口に運ぶ。
また、ちらちら、と右隣を伺いお肉を口に運ぶ。
またまた、ちらちら、と右隣を伺いお肉を口に運ぶ。
「............。」
役にたたねぇー。
委員長のいきすぎた綺麗好きに文句一つ言わなかった田中も、今回ばかりはたまらず委員長に暴言を吐いた。
「なぁ、なぁ。俺思ったんだけどさ。」
それでも一抹の希望を抱いて、委員長を見つめていた田中にかけられる声。
顔をむければ、いやに真剣な顔をした慎吾の姿。
「なに?」
「俺、気づいちゃったんだよ。」
「だから何に?」
委員全員を見回して、声を潜め話す慎吾の表情はいたって真面目だ。だが、風紀委員会アホの子代表である慎吾の言葉に真剣に耳を傾けるやつは少ない。
またアホなことを言うんだろう。
そんなことを思いながら、視線を委員長に戻す。
「あのさ、あのさ。俺、今まで風紀のトップって委員長だと思ってたんだ。委員長、怒ったら怖いし。怒らなくても怖いし。」
「まぁ、そりゃそうだろ。委員長なんだから。長、ついてんだから。」
「でもさ。委員長が怒っても、俺たちこんな大変だった? こんなに生きづらかった?」
生きづらい、ってそこまで?
そこまで............、そうかもしれない。
「俺思ったんだけどさ。委員長が機嫌悪いときは、副委員長が和ませてくれただろ。なんかよく分かんないことして機嫌とったり。だけど今の委員長、全然」
役にたたないし。
流石に、そこは心のなかで言ったらしい。全員そう思っているからか、言わなくても十分伝わった。
「だからさ、」
「うん、うん。」
「俺たちの平穏は、」
「桜庭先輩の恋が実ることだろうねー。」
「ぇ、」
真上から降ってきた声に顔を上げる。
そこには目立つ銀髪がひとつ。
その向こうには、いつの間に移動したのか。
会長の肩に手をのせて、その耳に何かを囁く委員長の姿が見えた。
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