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心の行方
しおりを挟む右手にあたる金属の感触を確かめながら、窓の向こう。目の高さにある、木々を眺める。
左手で少しこっぽりした気がしないでもないお腹に手をあてて、改めて思う。
「.............。」
.....お腹へった。
ついさっきパスタを食べたばかりなのに、なぜだ。
あんまり記憶はないけど、いっぱいに盛られたパスタが、そのまま冬至の手によって下げられたのは夢ではなかったということか。
ぼーっとしてるんじゃなかった。
ちゃんと食べておけばよかった。
後悔、先に立たずというやつだ。
「桜庭。」
部屋へ着いたのか、急に止まった背中にぶつからないよう足を踏ん張る。
こちらに差し出される手に、ポケットにある鍵を取り出した。
ガチャリと錠の解ける音に、足音。
ドアを奥へ押しやり、その後へ続く。
他の委員たちは見回り中でいないため、俺と冬至の二人きり。
だけど、昨日のこともあって、自分から話しかける気にはなれない。
冬至が悪いわけじゃない。
冬至は風紀委員長として正しい対応をしたのかもしれない。
そう分かってはいても、どうしてあんなことを言ったんだ、とか。
お前のせいだ、とか。
嫌な言葉が飛びだしそうで、迂闊に口を開けない。おかげで昨日からずっと口を塞いでいる。
「あ、桜庭っ!」
「ぇ、」
そんなことをぼーっと考えていると、突然、慌てたように声をあげた冬至に、閉めかけていたドアのぶから手を離す。
少しできた隙間から視線を逸らして、委員長席についた冬至を見やった。
「なに、どうしたの。」
「え、あ、いや......。」
机に散らばる書類を触りながら、視線をあちこち迷わせる冬至は、なんだからしくない。
何か言いたそうに時々こちら見てくる表情は、生徒たちから恐れられている風紀委員長とは思えないほど頼りなくて。
「冬至?」
おもわず足を動かした。
「冬至、どうしたの。」
「桜庭。」
「ぇ......。あ、あぁ、はい。」
突然顔を上げて、何かを決意したようにこちらを見てくる冬至にこちらも視線を合わせる。
なにを言われるんだろう。
そう思って、なぜか緊張する。
「桜庭、......お前。」
冬至はその手に書類をもって、
「ここ。判子が押せてないぞ。」
判子がおせてない............、え?。
は?
「はんこ......?」
「あぁ、ここだ。半分掠れてるだろ。」
そう言って見せられるのは、今日の朝見たような見ていないようなよく分からない1枚の紙。
ただ一つ分かるのは、判子の押し方がまずかったのか、その半分が掠れているということだけ。
「あー、それはごめん。朝の記憶あんまりなくて。」
「あぁ。まぁそれはいい。後で余分に刷ったやつを持ってくる。」
「え? あ、ありがとう。」
一瞬聞き間違いかと思い、反応が遅れる。冬至がこんなことを言うとは予想外だ。
てっきりいつもみたいに、あの凶悪としか言い様がないあの顔で睨まれるかと思ったのに。
なんでだ。なんだか冬至が優しいんだけど。
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