婚約者に捨てられた令嬢が運命と出会う話

白雨あめ

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「貴方はいったい……。」

その瞳から目が離せず、ふわふわとした気持ちで尋ねる。

「俺か? 俺は大したものでもないよ。最近国にかえってきたんだ。俺の運命の人に会えるっていう占いを信じてな。」

「占い?」

首をかしげて尋ねると、男が起き上がった。その拍子に顔を隠していたスカーフが取れ、なかなか端正な顔が現れる。
かっこいいわね、とそんなことを考えていると男に握られたままの右手をゆらゆらと揺られる。
そこでまだ男に覆いかぶさっていたままだと気づいた。

「あ、ごめんなさい!」

慌てて、離れると、男は面白そうに笑った。

「なんだ、俺の運命の相手は初心うぶなんだな。」

「そ、そんなんじゃないわよ!」

こちらを見つめてくる瞳に恥ずかしくなり、大きな声がでた。
握られていた右手がまだ熱い。

よっこいしょ、と立ち上がった男はかなりの長身にみえる。
服に飾られている装飾品も、高価そうなものばかりだ。

かなりくらいのある方なのかもしれない。

そんなことを考えながらみていると、男が右手を差し出してきた。

「ほら、そんなとこに座ってないで行こうぜ。」

「これは、貴方が引っ張るからっ。」

「あー、ごめん。………、逃がしたくなかったんだ。お前のこと。」

ばつの悪そうにそっぽをむいて答える彼に呆れる。

「それなら声をかけてくれたらよかったのに。……、それに私の名前はお前じゃないわ。ガーネットよ。」

男は私の言葉に目を見開くと、がーねっと、と反芻はんすうすうように呟いた。

「俺にぴったりの名前だな。」

そう嬉しそうに笑った彼は続けて、

「俺の名はアルマディンだ。」

と得意げに胸を張ると、私の胴に手をまわし無理やり引き上げ、お姫様だっこをした。

「ちょっと!」

「まぁ、大人しくしてろよ。馬車まで連れていくだけだから。」

「ばしゃ?」

はて、いったい何のことだろう。
困惑していると、先ほど聞き流した彼の名前を思い出す。

赤い髪に翠の瞳。
アルマディンという名。

この国の第二王子と同じ名だ。


鼻歌を歌いながら、私を担ぎ歩くこの男が第二王子?

いや、そんなわけないか。
そもそも第二王子は5年前から隣国マルスに留学していると聞いた。
では、この男はいったい?


強引な男に抵抗する気も失せ、私は静かに馬車までの道のりを待った。



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