婚約者に捨てられた令嬢が運命と出会う話

白雨あめ

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「それで、貴方はどこのご令嬢だ?」

お姫様だっこのまま、学園の裏門に横付けされた馬車にのせられる。
進行方法に腰かけると、アルマディンは反対に腰を下ろした。

「私はマーディン伯爵家のガーネットです。それより貴方はなにものなの?」

「マーディン伯爵家のご令嬢だったか。ここからは10分とかからないな。残念だ。」

アルマディンは、御者に私の屋敷を告げると、こちらに向き直った。

「今日はもう帰ったほうがいいだろう。俺もそろそろお暇したかったからちょうどいい。」

そう悪戯が成功した子供のような顔をされ、驚く。

「え、貴方は私を屋敷に帰そうとしているの?」

「そうだぞ。びっくりしたか。ガーネットは賢そうだし、今日1日さぼっても問題ないさ。今日は帰ってゆっくり休め。」

そうだ。
私はアルマディンに、婚約破棄されたところをみられていたんだった。
私がみっともなく泣いていたところもきっと見られていただろう。

恥ずかしい。

そんな想いとは裏腹に、まだこの男と一緒にいたいと思う自分の気持ちにも困惑する。
それからアルマディンは屋敷に着くまでよく喋った。アルマディンは他の国に旅行していたらしく、旅の話や異国の話を聞かせてくれた。

私の庭園での出来事はまるで見ていないという風に接してくるアルマディンに、優しい男なのだと思った。


「ではな、ガーネット。近いうちにまた会おう。」

そう言い、馬車とともにいなくなるアルマディンに少し寂しい気持ちになる。
もう少し話たかったな。

そんな風に思えてしまった。


「ガーネット様、お帰りなさいませ。」

屋敷の門をくぐると、メイドや執事に迎えられる。
挨拶もそこそこに自室へ籠る。
母と父はまだ帰っていなかった。
昨日から泊りがけで王都の仕事があると聞いていた。

きっと今日帰ってくる。
帰ってきたら話さなくてはいけない……。

ルーカス様と婚約が破棄になったこと…。
ルーカス様に好きな人ができたこと…。


「ぅ………、っ。」

止まったはずの涙が溢れてくる。

私を好きだと、愛していると言ってくれたのはうそだったのですか?
私はただの繋ぎ……、ルーカス様に本当に愛するものが現れるまでの仮初の婚約者だったの?

ぼろぼろと涙が落ちてきては、シーツに染みをつくる。

好きだった。愛していたのに……。

涙はとまらない。壊れたみたいにどんどん溢れてくる。
これをせき止めていたのはあの男だ。
太陽のような彼のおかげで私は忘れられていた。
こんな悲しい気持ちを。

だから…。

もう泣くのはやめよう。
今日泣いたら終わりにしよう。
ルーカス様への想いは残っていてもいい。でも、前向きに生きたい。
彼のように、明るく、優しくいきたい。


泣きつかれて眠る私に微笑みかけてきたのは、ルーカス様ではない翠色の瞳だった。


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