3 / 5
3
しおりを挟む「それで、貴方はどこのご令嬢だ?」
お姫様だっこのまま、学園の裏門に横付けされた馬車にのせられる。
進行方法に腰かけると、アルマディンは反対に腰を下ろした。
「私はマーディン伯爵家のガーネットです。それより貴方はなにものなの?」
「マーディン伯爵家のご令嬢だったか。ここからは10分とかからないな。残念だ。」
アルマディンは、御者に私の屋敷を告げると、こちらに向き直った。
「今日はもう帰ったほうがいいだろう。俺もそろそろお暇したかったからちょうどいい。」
そう悪戯が成功した子供のような顔をされ、驚く。
「え、貴方は私を屋敷に帰そうとしているの?」
「そうだぞ。びっくりしたか。ガーネットは賢そうだし、今日1日さぼっても問題ないさ。今日は帰ってゆっくり休め。」
そうだ。
私はアルマディンに、婚約破棄されたところをみられていたんだった。
私がみっともなく泣いていたところもきっと見られていただろう。
恥ずかしい。
そんな想いとは裏腹に、まだこの男と一緒にいたいと思う自分の気持ちにも困惑する。
それからアルマディンは屋敷に着くまでよく喋った。アルマディンは他の国に旅行していたらしく、旅の話や異国の話を聞かせてくれた。
私の庭園での出来事はまるで見ていないという風に接してくるアルマディンに、優しい男なのだと思った。
「ではな、ガーネット。近いうちにまた会おう。」
そう言い、馬車とともにいなくなるアルマディンに少し寂しい気持ちになる。
もう少し話たかったな。
そんな風に思えてしまった。
「ガーネット様、お帰りなさいませ。」
屋敷の門をくぐると、メイドや執事に迎えられる。
挨拶もそこそこに自室へ籠る。
母と父はまだ帰っていなかった。
昨日から泊りがけで王都の仕事があると聞いていた。
きっと今日帰ってくる。
帰ってきたら話さなくてはいけない……。
ルーカス様と婚約が破棄になったこと…。
ルーカス様に好きな人ができたこと…。
「ぅ………、っ。」
止まったはずの涙が溢れてくる。
私を好きだと、愛していると言ってくれたのはうそだったのですか?
私はただの繋ぎ……、ルーカス様に本当に愛するものが現れるまでの仮初の婚約者だったの?
ぼろぼろと涙が落ちてきては、シーツに染みをつくる。
好きだった。愛していたのに……。
涙はとまらない。壊れたみたいにどんどん溢れてくる。
これをせき止めていたのはあの男だ。
太陽のような彼のおかげで私は忘れられていた。
こんな悲しい気持ちを。
だから…。
もう泣くのはやめよう。
今日泣いたら終わりにしよう。
ルーカス様への想いは残っていてもいい。でも、前向きに生きたい。
彼のように、明るく、優しくいきたい。
泣きつかれて眠る私に微笑みかけてきたのは、ルーカス様ではない翠色の瞳だった。
6
あなたにおすすめの小説
婚約破棄された翌日、兄が王太子を廃嫡させました
由香
ファンタジー
婚約破棄の場で「悪役令嬢」と断罪された伯爵令嬢エミリア。
彼女は何も言わずにその場を去った。
――それが、王太子の終わりだった。
翌日、王国を揺るがす不正が次々と暴かれる。
裏で糸を引いていたのは、エミリアの兄。
王国最強の権力者であり、妹至上主義の男だった。
「妹を泣かせた代償は、すべて払ってもらう」
ざまぁは、静かに、そして確実に進んでいく。
悪役令嬢に相応しいエンディング
無色
恋愛
月の光のように美しく気高い、公爵令嬢ルナティア=ミューラー。
ある日彼女は卒業パーティーで、王子アイベックに国外追放を告げられる。
さらには平民上がりの令嬢ナージャと婚約を宣言した。
ナージャはルナティアの悪い評判をアイベックに吹聴し、彼女を貶めたのだ。
だが彼らは愚かにも知らなかった。
ルナティアには、ミューラー家には、貴族の令嬢たちしか知らない裏の顔があるということを。
そして、待ち受けるエンディングを。
悪意には悪意で
12時のトキノカネ
恋愛
私の不幸はあの女の所為?今まで穏やかだった日常。それを壊す自称ヒロイン女。そしてそのいかれた女に悪役令嬢に指定されたミリ。ありがちな悪役令嬢ものです。
私を悪意を持って貶めようとするならば、私もあなたに同じ悪意を向けましょう。
ぶち切れ気味の公爵令嬢の一幕です。
婚約破棄してくださって結構です
二位関りをん
恋愛
伯爵家の令嬢イヴには同じく伯爵家令息のバトラーという婚約者がいる。しかしバトラーにはユミアという子爵令嬢がいつもべったりくっついており、イヴよりもユミアを優先している。そんなイヴを公爵家次期当主のコーディが優しく包み込む……。
※表紙にはAIピクターズで生成した画像を使用しています
目覚めたら大好きなアニメの悪役令嬢でしたが、嫌われないようにしただけなのに全員から溺愛されています
月影みるく
恋愛
目を覚ましたら、大好きだったアニメの世界。
しかも私は、未来で断罪される運命の悪役令嬢になっていた。
破滅を回避するために決めたことはただ一つ――
嫌われないように生きること。
原作知識を頼りに穏やかに過ごしていたはずなのに、
なぜか王族や騎士、同年代の男女から次々と好意を向けられ、
気づけば全員から溺愛される状況に……?
世界に一人しかいない光属性を持つ悪役令嬢が、
無自覚のまま運命と恋を変えていく、
溺愛必至の異世界転生ラブファンタジー。
なんども濡れ衣で責められるので、いい加減諦めて崖から身を投げてみた
下菊みこと
恋愛
悪役令嬢の最後の抵抗は吉と出るか凶と出るか。
ご都合主義のハッピーエンドのSSです。
でも周りは全くハッピーじゃないです。
小説家になろう様でも投稿しています。
出来損ないの私がお姉様の婚約者だった王子の呪いを解いてみた結果→
AK
恋愛
「ねえミディア。王子様と結婚してみたくはないかしら?」
ある日、意地の悪い笑顔を浮かべながらお姉様は言った。
お姉様は地味な私と違って公爵家の優秀な長女として、次期国王の最有力候補であった第一王子様と婚約を結んでいた。
しかしその王子様はある日突然不治の病に倒れ、それ以降彼に触れた人は石化して死んでしまう呪いに身を侵されてしまう。
そんは王子様を押し付けるように婚約させられた私だけど、私は光の魔力を有して生まれた聖女だったので、彼のことを救うことができるかもしれないと思った。
お姉様は厄介者と化した王子を押し付けたいだけかもしれないけれど、残念ながらお姉様の思い通りの展開にはさせない。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる