婚約者に捨てられた令嬢が運命と出会う話

白雨あめ

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泣きつかれて眠った私をおこしたのは、扉をたたく音と声。

「ガーネット。大丈夫か? どこか具合でも?」

父の声だ。
もう王都から帰ってきてしまった。
どうしよう……。

こわい。でも言わなければ。
この婚約を決めたのは父とルーカス様の父上だ。
私は父の顔に泥を塗ってしまった。

まだ少し涙のあとの残る頬をむにむにして、笑顔をつくる。
ドアを開け、父と母を迎え入れた。

「……、お父様。お母様。」

「ガーネット。大丈夫か?」

「ガーネット……。」

お父様の太い眉が下がり、その下の瞳が私を心配そうに見つめてくる。

「えぇ、大丈夫ですわ。……それより伝えなければならないことがあります。」

まっすぐ見てくる父と母に言わなければいけない。自分の口で。
大丈夫よ。言うだけだわ。事実を簡潔に。
もうみっともなく泣いたりしない!

そう心に決めていると、父は一層表情を険しくさせた。

「ガーネット。私たちも王都で聞いたんだ。ルーカスとの婚約が白紙になってしまったと。すまないな、ガーネット。傷ついただろう……。」

優しい声にまた涙があふれてきそうで、目にぐっと力を入れる。
もう、泣きたくない。

「いいえ、お父様。お父様が謝られることではありませんわ。すべては私の不徳の致すところ。……申し訳ありません。」

「ガーネット………。」

太い腕が伸びてきて、鍛えられた逞しい身体に抱き留められる。
優しく私の背をさすってくれる柔らかな手に安心する。

「ガーネット。あなたの幸せは結婚相手だけできまることではないわ。しっかり自分を持ちなさい。」

私と同じ色、海の色をした瞳にやさしく見つめられる。

父の胸を借りたまま、私はしばらくそうしていた。






翌日。
今日は授業が休みの日なので、家の庭でも眺めてすごそうかと思っていたところ、家の前に止まる一台の馬車が目には入った。

「あれは……。」

昨日私がのった馬車だ。
そう気づくと、高鳴る胸をどうにもとめられなかった。


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