1 / 12
01 婚約破棄
しおりを挟む
裕福なスナイスター伯爵の一人娘であるアシュリーはある朝目が覚めると視力を失っていた。目を開けていても完全なる闇が広がるばかりだ。
慌てた家族は医師を呼び治療をお願いしたが、これは病気ではないとの診断で治療は無理だった。
そんなアシュリーには婚約者がいた。4歳年上で20歳のオルト・コンラッタ。コンラッタ伯爵家の次男だ。
祖父の代にスナイスター家が開発した事業があり、それを当時裕福だったコンラッタ家が出資していた。その時の出資金は全額、いや謝礼を含めてほぼ倍額を返し終わっている。
その後スナイスター家は発展の一途を、コンラッタ家は衰退していき、伯爵家を維持するのがやっとの状態だ。その時の縁でコンラッタ家側からの強い要望で婚約となった。
所詮、婚姻による援助を目的とした政略結婚だ。
オルトは家を継げない次男ではあるが、容姿の整ったフェミニストでなかなかの人気者だ。婚約者がいる今もオルトに群がる令嬢はいなくならない。
そんなオルトは派手好きで、正反対の大人しいアシュリーを好いてはいない。それどころか、私生活や金使いに口を挟むアシュリーを嫌っている。
そんなオルトが婚約を受け入れたのは爵位とスナイスター伯爵家の財産だ。
だから婚約が成立してからは事ある毎にアシェリーとスナイスター家からお金を引き出していた。
しかも、スナイスター伯爵夫妻の前や周囲に人がいる時は良い婚約者を演じているのだ。
更に最近は上手く隠してはいるようだが高位貴族の恋人がいるとバレている。公然の秘密だ。
そんなオルトにアシュリーが愛情など持てるはずがなく、どうにかして円満に婚約解消できないかと証拠を集めていた。
そんな時だったからか、オルトはアシュリーの目が見えなくなったと聞くとすぐに冷たい言葉と共に婚約破棄を突きつけた。
「アシュリー、君との婚約を破棄する。目の見えない婚約者など使い物にもならない。」
オルトから婚約破棄されたが、婚約を解消しようとしていたアシュリーはホッとした。
オルトが婚約者の時から自分に興味がないのがわかっていた。パーティなどで一応エスコートするがパーティが始まるとアシュリーを置いて別の女性といることがほとんどだ。
誰も口に出しはしないがオルトは一部の者から蔑まれていた。
もしあのまま結婚していたら彼は当然のように愛人を囲っていただろう。もしかするとアシュリーを別邸に追いやり恋人を妻として扱っていただろう。勿論スナイスター家の金で。
アシュリーは彼が婚約破棄しないのは伯爵家の財産目当てだったと知っていた。
彼から婚約破棄する為には私に非が無くてはいけない。私に非がない状態での婚約破棄をすればコンラート伯爵家から賠償金を払わなければならないからだ。
アシュリー側から婚約破棄をしても良いが、賠償金を払わなくてはならない。勿論、裕福なスナイスター家には微々たる額だ。
それよりもアシュリーに非はなくともキズモノ扱いされるのだ。アシュリーは気にしないが両親が気にするだろうと思うとなかなか踏み切れずにいた。
コンラート伯爵家には婚約した当初から融資と言う名の資金援助をしている。その融資のおかげでコンラート伯爵家は今までと同じかそれより少し裕福な貴族としての暮らしができているのだ。
コンラート家に婚約破棄の賠償金など出せる程余裕がある訳ではない。勿論、非がある状態で婚約破棄などすれば、今までの融資を全額返済となる可能性もある。
今回の件で、私に非ができてオルトは嬉しげに婚約破棄し、賠償金を手に入れてさっさ帰っていった。
まぁ、あのオルトとの婚約はなくなったのだから良しとしよう。
ただ、男性と違い婚約破棄された女性には碌な縁談がこないのは世の常だ。更にアシュリーは目が不自由になってしまい嫁ぎ先を見つけるのは困難だろう。
アシュリーとしてはオルトのような人物や碌でもない男と結婚するくらいなら一生独身でもいいと思っていたから気にしていない。だが一人娘を心配する両親には申し訳ない気持ちでいっぱいだ。
アシュリーの目が見えなくなり、両親はアシュリーの目を治さんと名医と言われる医師を集めた。
そこでこれは病気ではなく魔法をかけられている事が判明した。
魔法は基本的にかけた魔術士でなければ術は解けない。
もちろん術が完璧でなければ魔力の高い魔導師——魔術士より魔力がある者——なら解ける。それは一部の高位貴族や高い魔力の魔術士、魔導師でなければ知らない事だ。
魔導師はなかなか癖の強い人間が多い。それは魔力が影響していると思われる。
魔導師はもっぱら、魔法省に上がって来た公式の案件や国に関する事、公のものに対応する。後は後進の指導、後継者作りと魔法の解析、応用などだ。
一貴族の依頼などは魔導師には持ち込まれないし、基本的に受ける事はない。
それはお金などで強い魔力を持つ魔導師を取り込みたいという思惑を持った貴族から魔導師を守るための方針だからだ。
両親はアシュリーの目を治そうと術をかけたであろう魔術士に大金と引き換えに術を解いてもらいたいと魔法協会に通達を出してもらったが、魔法協会に属していない闇の魔術士なのか、それとも協会規則に反しているため、いくら罰を与えないと言われても名乗り出てこなかった。
魔法協会の紹介で治療の得意な魔術士サジェストに治療を施してもらいようやく全く何も見えない闇から全体がぼんやりと見える様になったのは目が見えなくなってから1週間後の事だった。
慌てた家族は医師を呼び治療をお願いしたが、これは病気ではないとの診断で治療は無理だった。
そんなアシュリーには婚約者がいた。4歳年上で20歳のオルト・コンラッタ。コンラッタ伯爵家の次男だ。
祖父の代にスナイスター家が開発した事業があり、それを当時裕福だったコンラッタ家が出資していた。その時の出資金は全額、いや謝礼を含めてほぼ倍額を返し終わっている。
その後スナイスター家は発展の一途を、コンラッタ家は衰退していき、伯爵家を維持するのがやっとの状態だ。その時の縁でコンラッタ家側からの強い要望で婚約となった。
所詮、婚姻による援助を目的とした政略結婚だ。
オルトは家を継げない次男ではあるが、容姿の整ったフェミニストでなかなかの人気者だ。婚約者がいる今もオルトに群がる令嬢はいなくならない。
そんなオルトは派手好きで、正反対の大人しいアシュリーを好いてはいない。それどころか、私生活や金使いに口を挟むアシュリーを嫌っている。
そんなオルトが婚約を受け入れたのは爵位とスナイスター伯爵家の財産だ。
だから婚約が成立してからは事ある毎にアシェリーとスナイスター家からお金を引き出していた。
しかも、スナイスター伯爵夫妻の前や周囲に人がいる時は良い婚約者を演じているのだ。
更に最近は上手く隠してはいるようだが高位貴族の恋人がいるとバレている。公然の秘密だ。
そんなオルトにアシュリーが愛情など持てるはずがなく、どうにかして円満に婚約解消できないかと証拠を集めていた。
そんな時だったからか、オルトはアシュリーの目が見えなくなったと聞くとすぐに冷たい言葉と共に婚約破棄を突きつけた。
「アシュリー、君との婚約を破棄する。目の見えない婚約者など使い物にもならない。」
オルトから婚約破棄されたが、婚約を解消しようとしていたアシュリーはホッとした。
オルトが婚約者の時から自分に興味がないのがわかっていた。パーティなどで一応エスコートするがパーティが始まるとアシュリーを置いて別の女性といることがほとんどだ。
誰も口に出しはしないがオルトは一部の者から蔑まれていた。
もしあのまま結婚していたら彼は当然のように愛人を囲っていただろう。もしかするとアシュリーを別邸に追いやり恋人を妻として扱っていただろう。勿論スナイスター家の金で。
アシュリーは彼が婚約破棄しないのは伯爵家の財産目当てだったと知っていた。
彼から婚約破棄する為には私に非が無くてはいけない。私に非がない状態での婚約破棄をすればコンラート伯爵家から賠償金を払わなければならないからだ。
アシュリー側から婚約破棄をしても良いが、賠償金を払わなくてはならない。勿論、裕福なスナイスター家には微々たる額だ。
それよりもアシュリーに非はなくともキズモノ扱いされるのだ。アシュリーは気にしないが両親が気にするだろうと思うとなかなか踏み切れずにいた。
コンラート伯爵家には婚約した当初から融資と言う名の資金援助をしている。その融資のおかげでコンラート伯爵家は今までと同じかそれより少し裕福な貴族としての暮らしができているのだ。
コンラート家に婚約破棄の賠償金など出せる程余裕がある訳ではない。勿論、非がある状態で婚約破棄などすれば、今までの融資を全額返済となる可能性もある。
今回の件で、私に非ができてオルトは嬉しげに婚約破棄し、賠償金を手に入れてさっさ帰っていった。
まぁ、あのオルトとの婚約はなくなったのだから良しとしよう。
ただ、男性と違い婚約破棄された女性には碌な縁談がこないのは世の常だ。更にアシュリーは目が不自由になってしまい嫁ぎ先を見つけるのは困難だろう。
アシュリーとしてはオルトのような人物や碌でもない男と結婚するくらいなら一生独身でもいいと思っていたから気にしていない。だが一人娘を心配する両親には申し訳ない気持ちでいっぱいだ。
アシュリーの目が見えなくなり、両親はアシュリーの目を治さんと名医と言われる医師を集めた。
そこでこれは病気ではなく魔法をかけられている事が判明した。
魔法は基本的にかけた魔術士でなければ術は解けない。
もちろん術が完璧でなければ魔力の高い魔導師——魔術士より魔力がある者——なら解ける。それは一部の高位貴族や高い魔力の魔術士、魔導師でなければ知らない事だ。
魔導師はなかなか癖の強い人間が多い。それは魔力が影響していると思われる。
魔導師はもっぱら、魔法省に上がって来た公式の案件や国に関する事、公のものに対応する。後は後進の指導、後継者作りと魔法の解析、応用などだ。
一貴族の依頼などは魔導師には持ち込まれないし、基本的に受ける事はない。
それはお金などで強い魔力を持つ魔導師を取り込みたいという思惑を持った貴族から魔導師を守るための方針だからだ。
両親はアシュリーの目を治そうと術をかけたであろう魔術士に大金と引き換えに術を解いてもらいたいと魔法協会に通達を出してもらったが、魔法協会に属していない闇の魔術士なのか、それとも協会規則に反しているため、いくら罰を与えないと言われても名乗り出てこなかった。
魔法協会の紹介で治療の得意な魔術士サジェストに治療を施してもらいようやく全く何も見えない闇から全体がぼんやりと見える様になったのは目が見えなくなってから1週間後の事だった。
150
あなたにおすすめの小説
愚か者が自滅するのを、近くで見ていただけですから
越智屋ノマ
恋愛
宮中舞踏会の最中、侯爵令嬢ルクレツィアは王太子グレゴリオから一方的に婚約破棄を宣告される。新たな婚約者は、平民出身で才女と名高い女官ピア・スミス。
新たな時代の象徴を気取る王太子夫妻の華やかな振る舞いは、やがて国中の不満を集め、王家は静かに綻び始めていく。
一方、表舞台から退いたはずのルクレツィアは、親友である王女アリアンヌと再会する。――崩れゆく王家を前に、それぞれの役割を選び取った『親友』たちの結末は?
婚約者に「愛することはない」と言われたその日にたまたま出会った隣国の皇帝から溺愛されることになります。~捨てる王あれば拾う王ありですわ。
松ノ木るな
恋愛
純真無垢な侯爵令嬢レヴィーナは、国の次期王であるフィリベールと固い絆で結ばれる未来を夢みていた。しかし王太子はそのような意思を持つ彼女を生意気だと疎み、気まぐれに婚約破棄を言い渡す。
伴侶と寄り添う幸せな未来を諦めた彼女は悲観し、井戸に身を投げたのだった。
あの世だと思って辿りついた先は、小さな貴族の家の、こじんまりとした食堂。そこには呑めもしないのに酒を舐め、身分社会に恨み節を唱える美しい青年がいた。
どこの家の出の、どの立場とも知らぬふたりが、一目で恋に落ちたなら。
たまたま出会って離れていてもその存在を支えとする、そんなふたりが再会して結ばれる初恋ストーリーです。
婚約破棄が私を笑顔にした
夜月翠雨
恋愛
「カトリーヌ・シャロン! 本日をもって婚約を破棄する!」
学園の教室で婚約者であるフランシスの滑稽な姿にカトリーヌは笑いをこらえるので必死だった。
そこに聖女であるアメリアがやってくる。
フランシスの瞳は彼女に釘付けだった。
彼女と出会ったことでカトリーヌの運命は大きく変わってしまう。
短編を小分けにして投稿しています。よろしくお願いします。
私の物をなんでも欲しがる義妹が、奪った下着に顔を埋めていた
ばぅ
恋愛
公爵令嬢フィオナは、義母と義妹シャルロッテがやってきて以来、屋敷での居場所を失っていた。
義母は冷たく、妹は何かとフィオナの物を欲しがる。ドレスに髪飾り、果ては流行りのコルセットまで――。
学園でも孤立し、ただ一人で過ごす日々。
しかも、妹から 「婚約者と別れて!」 と突然言い渡される。
……いったい、どうして?
そんな疑問を抱く中、 フィオナは偶然、妹が自分のコルセットに顔を埋めている衝撃の光景を目撃してしまい――!?
すべての誤解が解けたとき、孤独だった令嬢の人生は思わぬ方向へ動き出す!
誤解と愛が入り乱れる、波乱の姉妹ストーリー!
(※百合要素はありますが、完全な百合ではありません)
婚約者に婚約破棄かお飾りになるか選ばされました。ならばもちろん……。
こうやさい
恋愛
その日女性を背にした婚約者さまに婚約破棄かお飾り妻になるか選ばされました。
これ書いたらネタバレな気もするが、余命付きの病人が出るので苦手な方はお気を付け下さい。Rはまだ死んでないからとりあえず保留。
……てかコイツ、しれっと余命ぶっちぎりそうな気がする。
前作の止めたところがエグかったのか(通常だと思うけどなー、ヤバいか?)再開条件説明しとけと言われましたが……他の更新出来ない時なのは前提であと思い出したヤツというか気分(爆)。
いきなり理由が分からずお気に入りが複数入ってそれが続く(短期なら上のほう作品のこの作品を読んでる人は~に入ってて一応チェックするためのとりあえず目印あたりの可能性が高いと判断)とかしたらびびって優先はするだろうけどさ、それ以外のしおりとかエール(来たことないから違ってるかもしれん)とかポイントとか見に行かなきゃ分からないから更新している最中以外は気づかない可能性あるし、感想は受け付けてないしだからアルファ的な外部要因ではあんま決まらない。決めても基本毎日連続投稿再開するわけでもないし。
あと大賞開催中のカテゴリとかは優先度下がる。下の方だし、投票作品探してる人は投票ページから見るだろうから邪魔にはならないと分かってるんだがなんとなく。今とか対象カテゴリが多くてファンタジーカップまで重なってるから恋愛カテゴリが更新される可能性は地味に高い(爆)。ほっこりじんわりは諦めた。
辺りで。最終的にはやっぱり気分。今回既に危なかった。。。
URL of this novel:https://www.alphapolis.co.jp/novel/628331665/442748622
【短編】私悪役令嬢。死に戻りしたのに、断罪開始まであと5秒!?
あさぎかな@コミカライズ決定
恋愛
「エリーゼ・ファルギエール! 今日限りでお前との婚約を破棄する!」と嫌がらせをした記憶も、実家の公爵家が横領した事実もないのに冤罪で、悪役令嬢のように、婚約破棄、没落、そして殺されてしまうエリーゼ。
気付けば婚約破棄当日、第一王子オーウェンが入場した後に戻っていた。
嬉しさよりもなぜ断罪5秒前!?
スキルを駆使して打開策を考えるも、一度目と違って初恋の相手がいることに気付く。
あーーーーーーーーーー、私の馬鹿! 気になってしょうがないから違うことを考えなきゃって、初恋の人を思い出すんじゃなかった!
気もそぞろになりつつも、断罪回避に動く。
途中でエリーゼも知らない、番狂わせが起こって──!?
私がいなくなっても構わないと言ったのは、あなたの方ですよ?
睡蓮
恋愛
セレスとクレイは婚約関係にあった。しかし、セレスよりも他の女性に目移りしてしまったクレイは、ためらうこともなくセレスの事を婚約破棄の上で追放してしまう。お前などいてもいなくても構わないと別れの言葉を告げたクレイであったものの、後に全く同じ言葉をセレスから返されることとなることを、彼は知らないままであった…。
※全6話完結です。
有能婚約者を捨てた王子は、幼馴染との真実の愛に目覚めたらしい
マルローネ
恋愛
サンマルト王国の王子殿下のフリックは公爵令嬢のエリザに婚約破棄を言い渡した。
理由は幼馴染との「真実の愛」に目覚めたからだ。
エリザの言い分は一切聞いてもらえず、彼に誠心誠意尽くしてきた彼女は悲しんでしまう。
フリックは幼馴染のシャーリーと婚約をすることになるが、彼は今まで、どれだけエリザにサポートしてもらっていたのかを思い知ることになってしまう。一人でなんでもこなせる自信を持っていたが、地の底に落ちてしまうのだった。
一方、エリザはフリックを完璧にサポートし、その態度に感銘を受けていた第一王子殿下に求婚されることになり……。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる