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1 マリエール視点
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「アーノルド様、御学友と友好を深めるのも大切ですが、もうすぐ定期試験が始まります。試験の対策はお済みでしょうか?」
学園で友人達と遊びに行く算段をしている婚約者を見つけいつものように忠告をする。
婚約者は私の顔を睨みつけると
「定期試験までにまだ日にちがある。お前はいちいちうるさい。」
私だって言いたくて言っている訳ではない。彼のご両親から何かにつけて気を配るように言いつけられているのだ。
私の婚約者はこの国に三家しかない公爵家のマエスト公爵の次男。長男はマエスト公爵の跡を継ぎ、次男のアーノルドはもう一つある爵位のノスタル伯爵を継ぐことになっている。
同じ親から生まれてきたのに生まれの速さ、たった4年の差で公爵と伯爵と別れるのだ。人生投げやりになるのもわからなくはない。
だが、マエスト公爵家の分家のノスタル伯爵として王宮で文官として生活しなければならない。ちゃらんぽらんではダメだ。
そこで私に白羽の矢がたった。
我がパール伯爵家は祖父の時代、投資詐欺に遭い没落の危機に瀕していた。
その時アーノルドの祖父のお陰で没落を回避できたという恩がある。
そのため、マエスト公爵家に逆らえないのだ。
ちなみにノスタル伯爵位はその時、没落した貴族からマエスト公爵が買い取ったものだ。
一歩間違えれば没落していたのはパール伯爵家だったかもしれない。
そんな大恩のあるマエスト公爵家からの婚約はたかだか伯爵位の我が家は受け入れるだけだ。
そのため、アーノルドもこれが政略であることを理解しており、有意な立場の彼は私を蔑ろにしている。
私は彼の辛さがわかるだけにそんな扱いをされて傷つきはするものの受け流していた。
だが、ここに来て受け流しきれない事態が発生した。
アーノルドがデミトア国からの留学生ミーア様に恋をしたのだ。
彼女は侯爵家のご令嬢で妖艶な美人でありながら留学するほど優秀なのだ。
デミトア国は身分制度に厳しいため、選民意識が強い。だから留学してきてはいるが高位貴族としか交流を持たず、下位貴族は自分の気に入った者以外はたとえ講師であろうとも人とも思っていないようだ。
そんな彼女だがアーノルドはマエスト公爵子息、彼女より高位貴族となる。そのため2人は良好な関係を築けている。
それからだ。
アーノルドは彼女との逢瀬のために授業を抜け出したり、受けないなどの愚行を起こしている。
「アーノルド様。ご自分の行動を鑑みてください。」
私の注意に対して彼は憎々しげに睨みつけてくる。
「たかだか伯爵家の、しかも名前だけの婚約者のくせに僕の行動に口を出すな。君といるより彼女といる方がどれだけ安らげるか。どうして君が僕の婚約者なんだ?君さえいなければ彼女と婚約出来ただろうに。とんだ貧乏くじだ。」
恋する彼女との逢瀬を邪魔しようとしているためか、いつもよりきつい言葉を投げかけられる。
心ないその言葉で傷つかない訳がない。
でも最近は彼の両親からもきつく言われている。
「申し訳ごさいません。ですがマエスト家の方々からも言われておりますので…。」
家の名前を出したからか、アーノルドは激昂した。
「お前は僕の婚約者なのに僕の行動を家族に密告しているのか?
そんな卑しいお前とは婚約なんてしていられない。婚約破棄だ。」
彼は私の事は何を言っても良い存在だと思っているようだ。
いくらマエスト家に恩があるとはいえ私にも心がある。
「婚約破棄承知いたしました。」
それだけ口にすると一礼して彼の前から辞した。
事の次第を両家に伝えて速やかに婚約解消の手続きをした。
私に落ち度はなく、彼からは破棄だと言われたが解消となった。更にこれまでの彼の暴言などから多額の慰謝料もいただいた。大恩ある家だったが、そこはもう関係なかった。
学園もしばらくお休みすることにした。
心が疲弊していたからだ。
久しぶりに学園に行くと、友人が話してくれたのは元婚約者の事だった。
あの後、婚約者という柵がなくなったアーノルド様はミーア様に求婚したらしい。
ミーア様は最初こそ喜んでいたそうだが、私との婚約破棄の話からマエスト公爵家は兄が継ぎアーノルド様はノスタル伯爵位に降るのだと分かると掌を返したそうだ。
アーノルド様はすっかり落ち込んでしまいその日から学園を休みがちで来てもまともに授業をうけてないそうだ。
このままでは今までの態度もあり退学処分になるのでは?と噂されているらしい。
だが、もう私には関係ないことだ。
私は仮にも公爵家子息の婚約者なのだからとマナーや勉強にも力を入れており、優秀な成績をおさめていた。それに加えて多額の慰謝料で貧乏からも脱出し、今は魅力的な人物に映るのだろう。
友人と話しているときに交際の申し込みがあった。
「パール伯爵令嬢。私と結婚を前提にお付き合いしてくださいませんか?」
お相手はエストリア伯爵家の嫡男グレン様だ。エストリア伯爵家といえば伯爵位の中でトップクラスの家柄だ。
グレン様は学園でも優秀で、婚約者がいないのが不思議だと言われていた。
もちろん肉食女子から狙われていたが悪い噂は聞かない。
「結婚はまだ考えられませんが…」
お付き合いは承諾しようと差し出された手に手を伸ばしたその時
「待て、何を言っている。マリエールは僕の婚約者だ。」
はっ?
アーノルド様が阻止しに来ていた。
「マエスト様。何を仰っているのですか?私は貴方と婚約解消いたしましたのでもう何も関係のない他人ですわ。それに呼び捨てなどおやめくださいませ。迷惑です。」
「婚約を再度結び直せば良いだけだ。お前もそれを望んでいるのだろう。」
彼の頭の中はおがくずだらけなのか?と思ってしまう。以前の私への態度で再び婚約を結びたいと思えるはずがないだろう。
「私と貴方との婚約は元々政略です。しかも恩のあるマエスト公爵家からの打診でしたので断れなかっただけです。その経緯はご存知のはずです。
婚約が解消され、恩も貸し借りもなくなり再度婚約する理由もありません。なので婚約はお断りします。」
「何っ?お前は僕のことを好いていたのだろう。両親もお前のことを僕の婚約者に相応しいと認めていたんだ。これ以上ない婚約ではないか。
なんだ、恥ずかしがっているのか?」
かっとして言い出したが、途中から自分の言葉に酔うように言っている。
ミーア様に振られて、ご両親からも見捨てられたのだろう。前のように私を婚約者とすれば元通りになると思っているだろうか?元通りになる訳がない。
万が一元通りになるとしてもだからと言って婚約を結び直すはずがないでしょう。考えればわかるはずなのに…。
「婚約を結び直す事は絶対ありません。今まで私が言ってきた事が全てです。もう一度ご忠告させていただきますわ。ご自分の行動を鑑みてください。それから貴方へのエールとして、ご自分の行動を、言動を反省したら周りをよく見てください。」
そう言って一礼する。
横でずっと見守ってくれていたグレン様が笑顔でエスコートの為に腕を出してくれている。
2人でそっとその場を離れた。
学園で友人達と遊びに行く算段をしている婚約者を見つけいつものように忠告をする。
婚約者は私の顔を睨みつけると
「定期試験までにまだ日にちがある。お前はいちいちうるさい。」
私だって言いたくて言っている訳ではない。彼のご両親から何かにつけて気を配るように言いつけられているのだ。
私の婚約者はこの国に三家しかない公爵家のマエスト公爵の次男。長男はマエスト公爵の跡を継ぎ、次男のアーノルドはもう一つある爵位のノスタル伯爵を継ぐことになっている。
同じ親から生まれてきたのに生まれの速さ、たった4年の差で公爵と伯爵と別れるのだ。人生投げやりになるのもわからなくはない。
だが、マエスト公爵家の分家のノスタル伯爵として王宮で文官として生活しなければならない。ちゃらんぽらんではダメだ。
そこで私に白羽の矢がたった。
我がパール伯爵家は祖父の時代、投資詐欺に遭い没落の危機に瀕していた。
その時アーノルドの祖父のお陰で没落を回避できたという恩がある。
そのため、マエスト公爵家に逆らえないのだ。
ちなみにノスタル伯爵位はその時、没落した貴族からマエスト公爵が買い取ったものだ。
一歩間違えれば没落していたのはパール伯爵家だったかもしれない。
そんな大恩のあるマエスト公爵家からの婚約はたかだか伯爵位の我が家は受け入れるだけだ。
そのため、アーノルドもこれが政略であることを理解しており、有意な立場の彼は私を蔑ろにしている。
私は彼の辛さがわかるだけにそんな扱いをされて傷つきはするものの受け流していた。
だが、ここに来て受け流しきれない事態が発生した。
アーノルドがデミトア国からの留学生ミーア様に恋をしたのだ。
彼女は侯爵家のご令嬢で妖艶な美人でありながら留学するほど優秀なのだ。
デミトア国は身分制度に厳しいため、選民意識が強い。だから留学してきてはいるが高位貴族としか交流を持たず、下位貴族は自分の気に入った者以外はたとえ講師であろうとも人とも思っていないようだ。
そんな彼女だがアーノルドはマエスト公爵子息、彼女より高位貴族となる。そのため2人は良好な関係を築けている。
それからだ。
アーノルドは彼女との逢瀬のために授業を抜け出したり、受けないなどの愚行を起こしている。
「アーノルド様。ご自分の行動を鑑みてください。」
私の注意に対して彼は憎々しげに睨みつけてくる。
「たかだか伯爵家の、しかも名前だけの婚約者のくせに僕の行動に口を出すな。君といるより彼女といる方がどれだけ安らげるか。どうして君が僕の婚約者なんだ?君さえいなければ彼女と婚約出来ただろうに。とんだ貧乏くじだ。」
恋する彼女との逢瀬を邪魔しようとしているためか、いつもよりきつい言葉を投げかけられる。
心ないその言葉で傷つかない訳がない。
でも最近は彼の両親からもきつく言われている。
「申し訳ごさいません。ですがマエスト家の方々からも言われておりますので…。」
家の名前を出したからか、アーノルドは激昂した。
「お前は僕の婚約者なのに僕の行動を家族に密告しているのか?
そんな卑しいお前とは婚約なんてしていられない。婚約破棄だ。」
彼は私の事は何を言っても良い存在だと思っているようだ。
いくらマエスト家に恩があるとはいえ私にも心がある。
「婚約破棄承知いたしました。」
それだけ口にすると一礼して彼の前から辞した。
事の次第を両家に伝えて速やかに婚約解消の手続きをした。
私に落ち度はなく、彼からは破棄だと言われたが解消となった。更にこれまでの彼の暴言などから多額の慰謝料もいただいた。大恩ある家だったが、そこはもう関係なかった。
学園もしばらくお休みすることにした。
心が疲弊していたからだ。
久しぶりに学園に行くと、友人が話してくれたのは元婚約者の事だった。
あの後、婚約者という柵がなくなったアーノルド様はミーア様に求婚したらしい。
ミーア様は最初こそ喜んでいたそうだが、私との婚約破棄の話からマエスト公爵家は兄が継ぎアーノルド様はノスタル伯爵位に降るのだと分かると掌を返したそうだ。
アーノルド様はすっかり落ち込んでしまいその日から学園を休みがちで来てもまともに授業をうけてないそうだ。
このままでは今までの態度もあり退学処分になるのでは?と噂されているらしい。
だが、もう私には関係ないことだ。
私は仮にも公爵家子息の婚約者なのだからとマナーや勉強にも力を入れており、優秀な成績をおさめていた。それに加えて多額の慰謝料で貧乏からも脱出し、今は魅力的な人物に映るのだろう。
友人と話しているときに交際の申し込みがあった。
「パール伯爵令嬢。私と結婚を前提にお付き合いしてくださいませんか?」
お相手はエストリア伯爵家の嫡男グレン様だ。エストリア伯爵家といえば伯爵位の中でトップクラスの家柄だ。
グレン様は学園でも優秀で、婚約者がいないのが不思議だと言われていた。
もちろん肉食女子から狙われていたが悪い噂は聞かない。
「結婚はまだ考えられませんが…」
お付き合いは承諾しようと差し出された手に手を伸ばしたその時
「待て、何を言っている。マリエールは僕の婚約者だ。」
はっ?
アーノルド様が阻止しに来ていた。
「マエスト様。何を仰っているのですか?私は貴方と婚約解消いたしましたのでもう何も関係のない他人ですわ。それに呼び捨てなどおやめくださいませ。迷惑です。」
「婚約を再度結び直せば良いだけだ。お前もそれを望んでいるのだろう。」
彼の頭の中はおがくずだらけなのか?と思ってしまう。以前の私への態度で再び婚約を結びたいと思えるはずがないだろう。
「私と貴方との婚約は元々政略です。しかも恩のあるマエスト公爵家からの打診でしたので断れなかっただけです。その経緯はご存知のはずです。
婚約が解消され、恩も貸し借りもなくなり再度婚約する理由もありません。なので婚約はお断りします。」
「何っ?お前は僕のことを好いていたのだろう。両親もお前のことを僕の婚約者に相応しいと認めていたんだ。これ以上ない婚約ではないか。
なんだ、恥ずかしがっているのか?」
かっとして言い出したが、途中から自分の言葉に酔うように言っている。
ミーア様に振られて、ご両親からも見捨てられたのだろう。前のように私を婚約者とすれば元通りになると思っているだろうか?元通りになる訳がない。
万が一元通りになるとしてもだからと言って婚約を結び直すはずがないでしょう。考えればわかるはずなのに…。
「婚約を結び直す事は絶対ありません。今まで私が言ってきた事が全てです。もう一度ご忠告させていただきますわ。ご自分の行動を鑑みてください。それから貴方へのエールとして、ご自分の行動を、言動を反省したら周りをよく見てください。」
そう言って一礼する。
横でずっと見守ってくれていたグレン様が笑顔でエスコートの為に腕を出してくれている。
2人でそっとその場を離れた。
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