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街道は大いに賑わっていた。
10年前に出された朱天童子討伐の知らせは、都の人々もさることながら、行商人達に安心与え、西との交易を盛んにする起爆剤となっていた。
行き交う牛車や馬車の数も、空の知る頃とはまるで違っている。
「刹那、久遠、はぐれぬよう気を付けよ?」
空が声を掛ける。
「はーい」
返事をしながらも、初めて見る光景に浮かれ、辺りを見回すことに忙しい刹那。
「は、はい」
見慣れない光景に、少し不安な表情を浮かべ、空の袖口を握り締める久遠。
そんな2人を見比べ、空は思わず笑みを溢す。
やがて、賑わう宿場町を抜け、しばらくすると雑木林が見える。
と、空は記憶していたが、辺りは拓かれ田畑が広がっていた。
そんな景色に寂しさを感じながらも、歩みを続ける。
旅は順調そのものだった。
街道が広がり、その分の安全を得るために、要所要所に屯所が設けられ、役人達が常駐し賊や妖達に目を光らせている。
通り沿いの木々の伐採も進み、物陰になるような死角も随分と減っていた。
「(大妖、朱天童子討伐。たったそれだけの報せ1つで、こうも変わっていくのか)」
空の胸中には複雑な想いが交差する。
山間に近付くと、道が分かれていた。
1つは空の知らない道。
1つは空がかつて通った道。
交易の利便性を計るため、山道を迂回するのに新しく拓いたようだった。
現に誰も、山道へ向かう者はいない。
だが、空は山道へ足を向ける。
見ると、刹那も久遠も山道へ行くことに、不満な表情を1つも見せず、空に付いてくる。
それどころか、少し楽し気に見えた。
空は何も言わず先導し、山道を進む。
しばらく歩くと、雑木林の片側が開け、緩やかな斜面と砂利地の先に穏やかな河川が流れ、陽当たりも良い場所に出た。
「2人共、ここで休憩するとしようぞ」
空が告げると元気な返事が聞こえる。
空は適当な場所に葛籠を下ろし、昼食の用意を始める。
「刹那、この鍋に水を汲んできてくれぬか?」
「はーい」
刹那は空から鍋を受け取ると、河川に向かって走り出す。
「久遠、干し肉を細かくしておくれ」
「はい」
久遠は慣れた手付きで小刀を使い、干し肉を切っていく。
空は石を積み重ね、簡単な釜戸を作り火を起こす。
「ただいま」
刹那は鍋一杯に水を汲んできた。
「刹那、河川に魚はいたか?」
空は鍋を釜戸に掛けながら訪ねる。
「うん。いっぱい泳いでたよ」
「そうか」
空は立ち上がり、
「刹那、久遠。魚も獲ろうか」
2人を連れて河川に近付く。
2人を近くで待たせ、空は衣服を脱ぎ、もっこ褌だけになり、河川に入る。
当然、2人は不思議そうな表情を見せる。
「ふふ。お主達にはまだ難しいやも知れぬが、こういう魚の捕り方もあるのじゃ」
言って、空は深呼吸をしてから水面に集中する。
と、空は素早く水面に手を突き入れた。
そして、ゆっくりと上げられた手には、魚が握られていた。
「すげえ!」
「すごいですわ」
刹那も久遠も大興奮だ。
「俺もやりたい!」
言いながら刹那は帯をほどいている。
「では、やってみるか?」
空は一旦河川から上がり、刹那の衣服を畳んでやる。
「あの、私もやってみたいです」
見ると、久遠も衣服を脱いでいた。
「ああ。皆でやるか」
空は2人を連れて、再び河川に入り、
「大事なのは、魚に気付かれず、そして、魚の動きを予測することじゃ。戦闘修練でも、自身の気配を消し、相手の気配を探ることをしておるじゃろ?要領は似たものじゃ」
簡単に説明し、再び腕を河川に突き入れる。
「後は捕まえた魚を離さぬことじゃな」
上げた手には魚が握られている。
2人は目を輝かせ、空を見ていた。
「ふふ。互いに少し離れた方が良かろう。魚は敏感じゃ。あまり動かず、波を立てぬように気を付けよ」
「「はい」」
空は2人を置いて、河川から上がり着替える。
刹那と久遠は言われた通りに距離を取り、水面を見詰めていた。
そして、水面を叩く音と悔しがる声が聞こえる中、空は2人から目を離さないようにしながら、昼食の準備を進めていた。
10年前に出された朱天童子討伐の知らせは、都の人々もさることながら、行商人達に安心与え、西との交易を盛んにする起爆剤となっていた。
行き交う牛車や馬車の数も、空の知る頃とはまるで違っている。
「刹那、久遠、はぐれぬよう気を付けよ?」
空が声を掛ける。
「はーい」
返事をしながらも、初めて見る光景に浮かれ、辺りを見回すことに忙しい刹那。
「は、はい」
見慣れない光景に、少し不安な表情を浮かべ、空の袖口を握り締める久遠。
そんな2人を見比べ、空は思わず笑みを溢す。
やがて、賑わう宿場町を抜け、しばらくすると雑木林が見える。
と、空は記憶していたが、辺りは拓かれ田畑が広がっていた。
そんな景色に寂しさを感じながらも、歩みを続ける。
旅は順調そのものだった。
街道が広がり、その分の安全を得るために、要所要所に屯所が設けられ、役人達が常駐し賊や妖達に目を光らせている。
通り沿いの木々の伐採も進み、物陰になるような死角も随分と減っていた。
「(大妖、朱天童子討伐。たったそれだけの報せ1つで、こうも変わっていくのか)」
空の胸中には複雑な想いが交差する。
山間に近付くと、道が分かれていた。
1つは空の知らない道。
1つは空がかつて通った道。
交易の利便性を計るため、山道を迂回するのに新しく拓いたようだった。
現に誰も、山道へ向かう者はいない。
だが、空は山道へ足を向ける。
見ると、刹那も久遠も山道へ行くことに、不満な表情を1つも見せず、空に付いてくる。
それどころか、少し楽し気に見えた。
空は何も言わず先導し、山道を進む。
しばらく歩くと、雑木林の片側が開け、緩やかな斜面と砂利地の先に穏やかな河川が流れ、陽当たりも良い場所に出た。
「2人共、ここで休憩するとしようぞ」
空が告げると元気な返事が聞こえる。
空は適当な場所に葛籠を下ろし、昼食の用意を始める。
「刹那、この鍋に水を汲んできてくれぬか?」
「はーい」
刹那は空から鍋を受け取ると、河川に向かって走り出す。
「久遠、干し肉を細かくしておくれ」
「はい」
久遠は慣れた手付きで小刀を使い、干し肉を切っていく。
空は石を積み重ね、簡単な釜戸を作り火を起こす。
「ただいま」
刹那は鍋一杯に水を汲んできた。
「刹那、河川に魚はいたか?」
空は鍋を釜戸に掛けながら訪ねる。
「うん。いっぱい泳いでたよ」
「そうか」
空は立ち上がり、
「刹那、久遠。魚も獲ろうか」
2人を連れて河川に近付く。
2人を近くで待たせ、空は衣服を脱ぎ、もっこ褌だけになり、河川に入る。
当然、2人は不思議そうな表情を見せる。
「ふふ。お主達にはまだ難しいやも知れぬが、こういう魚の捕り方もあるのじゃ」
言って、空は深呼吸をしてから水面に集中する。
と、空は素早く水面に手を突き入れた。
そして、ゆっくりと上げられた手には、魚が握られていた。
「すげえ!」
「すごいですわ」
刹那も久遠も大興奮だ。
「俺もやりたい!」
言いながら刹那は帯をほどいている。
「では、やってみるか?」
空は一旦河川から上がり、刹那の衣服を畳んでやる。
「あの、私もやってみたいです」
見ると、久遠も衣服を脱いでいた。
「ああ。皆でやるか」
空は2人を連れて、再び河川に入り、
「大事なのは、魚に気付かれず、そして、魚の動きを予測することじゃ。戦闘修練でも、自身の気配を消し、相手の気配を探ることをしておるじゃろ?要領は似たものじゃ」
簡単に説明し、再び腕を河川に突き入れる。
「後は捕まえた魚を離さぬことじゃな」
上げた手には魚が握られている。
2人は目を輝かせ、空を見ていた。
「ふふ。互いに少し離れた方が良かろう。魚は敏感じゃ。あまり動かず、波を立てぬように気を付けよ」
「「はい」」
空は2人を置いて、河川から上がり着替える。
刹那と久遠は言われた通りに距離を取り、水面を見詰めていた。
そして、水面を叩く音と悔しがる声が聞こえる中、空は2人から目を離さないようにしながら、昼食の準備を進めていた。
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