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30話 天然調剤士

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 「では、行きましょう。」

 物置小屋にあった籠を背負い手には古びた鎌を持つ。
 今回は朝から『気配察知』を発動中だ。何度も失敗してるから流石に気を付けてはいる。
 今朝方のあめのお陰か地面の血は綺麗に洗い流されたようで、ここで激しい争いがあったとは解らないだろう。
 血の臭いも全くしない、獣の反応も無かった。

 マチルダを伴い小屋を出る。
 小川を越え森に分け入る。

 「マチルダさん、知っている草花や食べれる物が有れば教えて下さい。」

 特に食べれる物の情報が得られれば今後の行動の助けになる。

 「あ、あそこに。」

 指を指す方向に目を向けマチルダの後に続く。着いた先には同一の植物が密集して生えていた。

 俺は草をちぎり手に取り尋ねた。

 「これは、ヒャクヤク草と言いまして若葉は生で食べれますし育った歯も炒め物などにします。根の部分はポーションの材料になる有益な植物なんです。」

 マチルダは笑顔で答える。特に根の部分は収入に繋がるのでと笑った。

 二人で辺りにある草の採取を始める。
 注意事項は根を強引に抜かない事と根こそぎ採らない事だ。
 根を傷付けると買い取り価格に影響が出るからだと、全て採ってしまうと次から生えて来なくなるそうだ。
 俺はここを一旦離れればまた戻って来る事は無いだろう。
 全て採取しても構わないが誰か他に住む人が居るかも知れないとマチルダは言う。
 その人達の為に残して置きましょうと笑顔で言われた。
 この地でわざわざ暮らす人人は居ないのではと思ったが口にはしない。
 
 植物が好きなのか小屋の時とは違い終始笑顔だ。切り替え速いなあ。
 時間はそれ程経ってないのに。

 背負い籠にヒャクヤク草を入れて森を歩き始める。

 「あ~~!凄い!」

 何が凄いのかマチルダは突然大きな声をだし走りだす。
 普段はゆっくりというか落ち着いた無駄の無い動きをしているマチルダは子供のように駆け出す。

 「これです、これです。」

 嬉しそうに見せにきた物は俺にも馴染みがある果物?だった。
 この世界に来て最初に口にしたあの果物だったから。味が無く美味くもない物だがこの世界の人達には喜ぶ理由があるらしい。
 「ええと、それ、凄いの?」

 「はい、この実は大変貴重な物で実はネクターの原料になり、内側の薄皮は万能薬に加工出来ます。」

 ネクターとはこの世界で神々の飲み物と言われて居るハイポーションを指す言葉だ。
 万能薬とはあらゆる風邪や毒などの状態異常に効果がありとても高価だという。

 「私は調剤士なんです。」

 調剤士とは薬と他の薬剤を混ぜ合わせて高価のある物を作り出す事が可能な職業だそうだ。

 「薬剤師も滅多になれない職業なんです。」
 と、暗に調剤士の自分はもっと凄いと言いたいらしい。

 「マチルダさんは優秀な方なんですね、若いのに立派です。」

 と、褒めておく。
 これが、効いた。

 マチルダは調剤士が如何になるのが大変かどれだけの努力をしたかと言うが、嬉しいのだろう。
 最後には努力しただけではなれないと、才能も必要だと胸を張る。
 只でさえデカい胸が更に強調される。
 意外に、はしたないな。天然か?
 また解らない部分を垣間見た気がする。

 今後もことある事に褒めるように努めよう。

 ふふ、チョロいな。
 

 「いえ、そんな…私はまた駆け出しで、つい最近独り立ち出来たばかりなんです。今回パーティーに誘って貰ったのが初仕事の予定……。」

 予定と言った後黙り込み、俯く。

 嬉しそうな楽しそうな雰囲気は消え失せ沈黙する。

 辛い記憶を思い出してしまったようだ。俺のした事も辛い記憶の一部には違いない。

 上げてから落とす、基本です。

 基本だが俺が狙ってやった訳ではないので俺は無罪だ。
 
 雰囲気が悪くなっていたので別の話題を振る。

 「マチルダさんは料理も出来るの?」

 「私…料理は人並みですよ?」

 なるほど、自身はないらしい。

 俺はどんな物でも「美味しい」と言ってあげる優しさは持ち合わせている。

 ただ、それを本気にする人が居るのが困るのだ。
 
 本当に美味しいのなら量を食べるはずだ。
 美味しい、美味しいと口では言って少ししか食べないは遠回しに「不味い」と教えてあげてるのだが、解ってくれない人が多い。
 ハッキリ口にだす方が優しいのかな。

 「昼食は頼んでも良いかな?」

 「頑張り…ます。」

 ちょっと不安になる。



 

 
 

 
 

 

 
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