りゅうはきっと、役に立つ。ピュアクール幼児は転生AI?!最強知識と無垢な心を武器に、異世界で魂を灯すためにばんがります!

ひつじのはね

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93話 寛ぎ空間だった場所

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結局、ラザクが正しく買い物できれば、お小遣いがもらえるということで落ち着いたらしい。
私たちはその間、宿をとってのリラックス時間だ。
宿の場所は伝えてあるけれど、その時のラザクの恨めしそうな目といったら。
多分、リトのとる宿はいい宿だから。お小遣いでは泊まれないだろう。だけど、食材はある程度ラザクにも渡すから、野営すれば食事はとれる。

しっかり両手で手すりを掴んで二階に上り、右から二つ目の205の部屋。私の小さい足は、随分しっかりしたものだ。こんな高い階段も一人で上れるのだから。
リトが鍵を開け、私が押し開いて室内に入った途端、視線が引き寄せられる。

短い脚が、トタタと転がるように動いて、そこへ飛び込んだ。
ばふっと伏せた上半身を受け止める、柔らかな感触。

「おふとん……」

あまりの心地よさに、顔全部で頬ずりする。
髪から下りたペンタも、悪くないとでも言うように小さな手で布団を叩いていた。

野営の時にも布団はあるけれど、こうはいかない。もっと薄くてチクチクして、重い。

「りゅー、おふとんこれがいい」

うっとり撫でていると、リトが苦笑した。

「嵩張るだろ。湿気るし破れたら使えねえし。野営は寝られりゃいいんだよ」

そんなことはない。十分な休息と快適な睡眠環境を確保することは、身体的および精神的な健康維持に不可欠だ。適切な寝具を使用することで、次の日の活動において最大限のパフォーマンスを発揮できる。


「――ちゅまり、単に『寝やえれば良い』という考えれは、長期的なちてん視点で見たばやい、せいじょんりちゅ生存率を――」
「あーあー、分かったから、荷物下ろせ」

つらつらと見解を述べていたら、リトが私を持ち上げて水筒と木剣を取り外した。

「りゅーがする!」

次いで勝手に上着を脱がそうとするのを振り払い、板間に尻をつく。
ブーツを脱いだら、足がホッとした。

上着を脱いで、ついでにズボンも脱いで、ぎゅっと小さくする。
リトがテントでやるように荷物の脇へ置いて、こう、上に水筒を置いて……

「丸めんな。ちゃんと畳まねえと、次着られねえぞ」

せっかく置いたのに、リトがそう言って私の服を取り上げてしまった。

「どうちて、着やえない?」
「しわくちゃになるだろ?」

しわくちゃになったら、着られないのだろうか。
不思議に思っているうちに、リトは簡単に服を折って四角くした。随分とうまいものだ。

「一泊だけだからな、荷物は広げるなよ」

言いながら自分も服を脱ぎ、リトはそれを椅子へ放り投げた。見事に椅子の背に掛かった服に感心していると、次々その上にリトの付属品が放り投げられていく。

「しゅごい……」

どれもがきちんと掛かっていく様は、まるで魔法。何かのパフォーマンスのようだ。

幸い、椅子はもうひとつある。
私はさっそく床にあった自分の服を掴んで、椅子へ投げてみる。
全く届かずに落ちた服にガッカリしつつ、再挑戦を試みた。

「あ……? お前、せっかく畳んでやったのに」

リトの大きな手が、私の両頬を掴んで潰してから、ベッドへ腰掛ける。

「は~、やっぱ宿だな」

ちらりと振り返ると、リトだってベッドに背中を倒し、むき出しになった両腕で布団をすべすべしている。

と、どかどか無遠慮な足音が近づいてきて、私たちの部屋の前で止まった。
荒っぽいノックの音がする。リトへ視線をやったけれど、リトは起き上がろうともしない。

「リトぉ~? まさか寝てんじゃねえだろな?!」

段々大きくなるノックと声がやかましい。
代わりに服を放り出して駆け寄り、かんぬきを開けた。

「なんっでサッサと開けねえんだよ?! ……っつうか寛ぎモードすぎじゃね?! 俺様がこんなに働いてるってぇのに! うわ、何この部屋、広っ! ベッドすげえ! いい宿ってこんななの?!」

開けたと同時に侵入してきたラザクが、まくし立てるように次々言葉を放ち始める。
ラザクは、本当にうるさい。
さっきまでのゆったりした気分が、すっかりどこかへ行ってしまった。

「うぜえ~。お前一人いるだけで、なんでそんなうるさいんだよ……」
「はん! このラザク、一人居れば海は荒れ、埃は舞い、茶会は荒むと評判だからな!」
「……だろうな」

眉間にしわを寄せたリトが、渋々身体を起こして手を突き出した。

「で、ちゃんと買ってきたんだろうな。俺だって相場は知ってるからな、誤魔化すなよ」

いそいそ寄ってきたラザクが、床へ大きな袋を置いて胸を張る。

「おうよ! それがさあ、俺様ちょろまかす気満々だったんだけどよぉ、何せ食材だろぉ? つい職人としての性が出ちまうっつうか!」

満々だったのか。未遂で良かった、また罰金が借金に追加されるところだった。
意気揚々と品物を並べるラザクに、もはやリトは疲れた顔で何も言わない。

「――で、これ! これ見ろよ、このサイズでこの値段はそうそうないぜぇ? 焼いてよし、煮てよし、いや、薄切りなら生でもイケるな。疼くなあ、料理人の腕がよぉ!」

ひとつひとつ、大事そうに掲げては紹介が始まり、私は興味津々だ。色々な野菜や肉類がたくさんあって、どーんと同じ肉を塊で1個、みたいなリトの買い物とは大分違う。

「おいしいの、ちゅくれる?」
「おうよ、当然だろぉ? これなんか、俺の目利きじゃなきゃ見逃してたね! 廃棄寸前で安く買い叩いてやったぜ! けどこいつだって調理しだいで――」
「余所でやれ……早くどっか行け……」

一方のリトは、もうベッドに逆戻りしてしまっている。

鼻の穴を膨らませての解説は放置し、大量の食材を眺めてふと思案した。
私には、どれが何なのか分からない。
私のレシピを活用するためには、私の知識だけではどうにもならないかもしれない。
食材は、元の世界と似たようなものも多いし、代用できるものもあるだろう。けれど、それを探し当てる必要がある。

「らざく、りゅーはれちぴの食材、分かやない」
「え。もしかしてお前、レシピは覚えてんのに食材は分かんねえの?!」

こくり、と頷くとラザクが大げさに床へ手をついた。

「先言えよぉー! そんなレシピ役にたつのかよ?! 食材の載ってねえレシピなんざ……」
「ちやう、食材ある。でも、りゅーのと一緒なない」
「はあ? 何言ってんのか……あ! 異国ってそういう……!!」

伝わったらしい。私は大きく頷いて、ラザクをぽんと叩いた。

「りゅーがおちえるから、らざく、考えて」

さしあたって必要なのは、調味料や小麦粉などの必需品を探し当てるところから。あとは、調理法が分かれば適用できる食材も分かるのではないだろうか。

「待てよ……それで新たな調味料や素材の発見した場合……全ては俺の利益ってことに」
「全てじゃねえよ」

すかさず入るリトの声を気にすることなく、ラザクの瞳は徐々に鈍く光り始めた。

「よし! チビ、さっそく俺様に教えろ!」

こくり、私も瞳に力を込めて頷いた。

「まじゅは、こむぎこ! 『こむぎ』というこくもちゅの種を乾燥させ、ふんまちゅ状に挽いたももで――」
「まずはじゃねえよ……居座る気かよ……」

熱の入る私たちの横で、リトの力ない声が響いていたのだった。
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