りゅうはきっと、役に立つ。ピュアクール幼児は転生AI?!最強知識と無垢な心を武器に、異世界で魂を灯すためにばんがります!

ひつじのはね

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98話 海に向かって

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ゆっさゆっさ、大きな足取りで私の身体も大きく揺れる。
歩いているというのに、随分速いものだ。
私は背負子に立ってリトの首に腕を回したり、はたまた後ろを向いて見張りをしたり。これはこれで忙しい。足の短いラザクが遅れていないかも、適宜チェックしなくてはいけない。

「らざく、遅い」
「う、うっせえ! はあ、はあ、楽しやがって……! 体力の化け物と一緒にすんじゃねえ!」

ラザクはひたすら悪態をつきながらも、必死に着いてくる。
だって、リトはあまり魔物に襲われない。虫系の魔物はともかく、動物系の魔物はリトが大きいから怖いのだと思う。
たまに飛びかかってくる何かは、簡単に蹴飛ばしたりなぎ払ったり。私とラザクが歩いていた時と大違いだ。

「遅いと、魔物来る」
「はぁ、ふぅ……分かってんよぉ!!」

怒鳴り返す元気があるなら、大丈夫だろう。
目的地がオリオトスの町と決定してから、私たちはまた一つ町を越えた。
私のいた世界の町は、人の居住区がずうっと繋がっているものが多かったけれど、この世界の町はこうして町から町が離れていることが常らしい。まだまだ未開の地、という印象だ。

道だけはある、という状態の大地を、みな馬車や徒歩で地道に進む。私はどちらも好きだけれど、もう少し効率的な移動手段をとれればいいのにと思う。
見たことはないけれど、実際にあるのだ。夢人を乗せていたらしい、飛空艇。それがあれば、簡単に移動できるだろうに。
気持ちばかり逸って走りたくなるけれど、そうするとむしろ遅くなるということを十分に学んだ。不本意ながら、現状こうして背負子に乗っているのが最速なのだ。

ああ、気持ちだけはどんどん先へ、リトよりもずっと先へ走っていく。
だって、もうすぐ――多分、もうすぐ海が見られるのだ。
すん、と嗅いだ空気は、土と草とリトのニオイしかしない。シオノカオリ、というやつはまだらしい。
――海。しょっぱい水が、世界を埋め尽くす巨大な水域。そこには様々な生態系が存在し、気候や天候にまで影響を与えるという。
ちゃんと知識としては、知っている。
見たことは、ない。
私の知る大きな水域は、川や池程度のもの。お風呂よりは大きいけれど、どれも小規模だ。
ちょうどそこにある、あの池と同程度の……。

ふと気がついて、ごく小さな池にじっと目を凝らした。

「りと、採取推奨品」

ぽんぽん、と汗ばむ肩を叩いた瞬間、声が上がった。

「何ぃ! どこだ?! 行くぞ野郎どもぉ!!」

リトよりも早く反応を示したラザクが、さっきまでとは打って変わって目を輝かせている。

「あそこ、池のそば。あくあみんと」

言い終わるよりも早く走って行くラザクは、果たしてどれがアクアミントが分かっているのだろうか。

「その距離でよく分かるな……ただの草だろ?」

リトはさほど興味もなさそうに言いながら、ゆっくりと池のほとりへ歩いて行く。
そんなことを言ったら、どんな植物もただの草だと思うけれど。
葉は緑色で丸みを帯びた卵形、葉の縁には小さな鋸歯があり、やや光沢がある。対生配置で淡い紫色の小さな花が穂状に密集して咲く。ここまで分かれば、ざっくりと見分けがつくと思う。あとは環境が合致すれば大体外さない。

背負子から下りてアクアミントを確認し、きちんと同定した。
私たちはこうして、歩きながら適宜採取を行っている。そのために私は知識を得てきたのだから。

「おい、どれだ! ミントだろぉ? ニオイで分かんだろフツー!」

手当たり次第に草を掴んでは嗅いでいるラザクは、むしろその距離でなぜ分からないんだろうか。
アクアミントは割と幅広い用途のある有名な植物のはず。

「あの野郎……」

リトが、苛立たしげに舌打ちをした。ということは……

「おおっ、これじゃね?! すーっとする気が……」
「ピィッ!」


「ぬ゛あ゛ぁあ゛あ゛?! ぎゃあ?! 待っで、り゛どぉお!!」

ペンタの、警戒鳴き……と同時に、ラザクの濁音だらけの悲鳴が響いた。

「上手」
「マジで逃げるのだけは上手いよな。攻撃が見えてるとは思えねえんだけど」

見えてはいないだろう。むしろ、見てもいないだろう。
そろり、とラザクの背後に近づいていたのは、私くらいのサイズのワニっぽい魔物。その大きな顎がラザクを捉えようとするたび、奇跡のようにすり抜けている。

「だずげて、り゛どぉお!! 銀貨2枚! いや3枚! 金貨でもいいからあぁ!」

「……放っといても、大丈夫な気がする」

紙一重の攻防を続けるラザクは、段々服がボロボロになっていくものの、確かに怪我はしていない。

「りゅーが行く!」
「あ、おい!」

すんでの所で捕まらないラザクに、ワニも段々興奮して我を忘れている。

「らざく!」

ぱちり、と着火道具の火花が散った瞬間、ごうっと火を吹く。
夢中になっていたワニは突如火に急襲されて驚いたか、もんどり打って転がった。
もう一度! 体勢を戻したワニへ、さらに近づいて火を噴く。
ワニが、あからさまに怖じ気づいて下がった。

「りゅーが、焼きわにちゅくるよ!!」

食ってやる、と言うつもりで宣言すると、池の中へ後ずさりするワニへ間近く駆け寄ってもう一度!
顔面を火に舐められたワニが、ついに池の方へ身を翻し――ホッとした私は、油断した。
後ろを向いたワニの、太い尻尾が。
まるで鞭のようにしなって、私の小さい身体を横薙ぎに襲った。
ラザクは、すごいな。コレを避けられるのか。
ほんの欠片も動けなかった私は、重い尻尾を難なくつかみ取った手を見つめ、その顔を見上げた。

「よくやったな」

安堵と苦笑を浮かべ、大きな手がどこか誇らしげに私の頭を撫でた。

掴んだ尾を支点に、ぶんと一振りして背中から地面へ叩き付け、流れるようにナイフで一刺し。地面へ縫い付けられたワニは、一度身を震わせて……それだけだった。

「りゅー、油断した」

動かなくなったワニを見つめて肩を落とすと、リトは私を抱き上げてぎゅうっとした。

「よくやった、っつったろ? 冒険者になるなら、必要な度胸だ。けど、俺がいる時だけにしてくれ……怖えわ。いい教訓になったろ? 前へ出るんじゃねえよ、お前に戦闘はまだ早いんだよ」

むしろ、リトがいない時に前へ出る必要があると思うのだけど。

「お前、すげえよな。それっぽっちの武器で、よくあんだけ魔物に近づけるもんだ」

呆れたような、感心したような言葉に首を傾げる。

「近付くの、誰でもできる」

足があるなら近寄れる。そこから攻撃や回避をすることが難しいだけだ。少しばかりへそを曲げて唇を結ぶと、リトが笑った。

「できるか、ばーか! お前は冒険者が最も越えられねえ壁を越えちまってんだよ。普通は、恐怖心が勝って足が竦むもんだ」
「でも、たかかうのに? 近付かないと、たかかえない」

だってそれは、怪我や死ぬことへの恐怖なのでは。なら、戦わないと間違いなく怪我や死が待っているのに、恐怖心を勝たせている場合ではないのでは。

「そういうもんだ。分かっていても、動けねえんだよ。お前は怖がらねえ分、余計に注意しなきゃいけねえけどな。必要なんだよ、怖がることも」

そうなのか。私も、ちょっと怖かったけれど。あの大きな口で噛まれたら、もの凄く痛いだろうし。
でも他の人は、もっと怖いのか。

「りとも、怖い?」
「俺は、お前が食われそうで怖いわ。マジでやめてくれ……手ぇ震えるわ」

はあ、と深く息を吐いて、リトは私の身体に顔を埋めた。

「ちょっとリトぉ! 俺は? 俺が食われそうな時だって、もうちょっとばかり心配とか!」

そういえば、ラザクがいた。
随分汚くなったけれど、やっぱり怪我はしていない。すごいものだ。

「お前はいい加減、食われてもいい。助けねえって言っただろが! 毎度毎度魔物の餌になりに行きやがって……!!」
「俺のせいじゃねえぇ! あっちが! 勝手に!!」
「てめえの警戒度が足りなさすぎんだよ!!」

まあ、その割にラザクは逃げられるので、余計に警戒心が育たないのでは。

結局、襲われるたびにリトが助ける羽目に。
せっかく、道中こうして採取をして借金返済を狙っているのに……。
かえって積み上がっていく借金を思って、私はちょっと笑ったのだった。
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