りゅうはきっと、役に立つ。ピュアクール幼児は転生AI?!最強知識と無垢な心を武器に、異世界で魂を灯すためにばんがります!

ひつじのはね

文字の大きさ
140 / 184

136話 一応大人

しおりを挟む
しっかり両手で握ったフィッシュサンドを、はむ、と咥えた。
柔らかいパンを通り抜け、爽やかなソースと柔らかい魚、そして顎に心地よい抵抗を感じさせる野菜。
ひとくちで上手に全てを口内に収め、頬をパンパンにしながら咀嚼する。
中々ぱちりとは開かなかった目が、ひと噛みごとにしゃっきりしてきた。

「出てる、出てる」

苦笑したリトが、私の口からあふれ出した何かを拭って自分の口へ入れると、皿を真下に移動させた。
今日の朝食は、部屋でフィッシュサンド。
ということは、リトが早くに出るということ。どうりで、私も眠いわけだ。

昨日、何と言っていたか……船護衛だったかもしれない。船に同乗して海の魔物や賊から護衛するものだったはず。珍しくもないけれど、港での依頼に比べると朝が早くて、帰宅が不安定。
じっと私を見ているリトは、既に身支度を済ませていた。
たぶん、もう出なくてはいけないはず。

「りと、いってらったい」

大事にパンを置いて手を振ると、ハッとしたリトが情けなく眉尻を下げて立ち上がった。

「……ああ。じゃあ、行ってくるからな。大人しくしてろよ? 遅くなりそうなら、宿に言ってあるから――」
「りゅー、大丈夫」
「そうだな……確かにお前は大丈夫だ」

しゅん、と視線を下げたリトの肩から、ぱさりと髪も垂れた。
急いで椅子から下りた私は、とぼとぼ扉へ向かうリトの前へ回り込む。

「りと」

両手を上げると、大きな手が両脇に差し込まれ、軽々と持ち上がった。
目的地まで到達して、その首にぎゅうっとしがみつく。
顔を寄せると、ちくちくする頬が当たった。
リトの腕が私の身体を覆って、ぐっと締まる。ぐえ、となりそうにぺたんこになって、頬が潰れた。
リトの高い鼻が、私の首元に触れてこそばゆい。

「りと、お仕事ばんがって。いいこにね」
「…………ああ」

ぽんぽん、と頭を撫でてあげると、渋々離れたリトが少し不貞腐れたような顔をしている。

「……なんか、違うんだよな。こうじゃねえっつうか」
「何が、ちやう?」
「お前がしっかりしすぎだっつう話! なんか、俺の方が段々弱くなってるような気が……」

しっかりしていて困ることなど、ないと思うけれど。
大丈夫、もう少しリトは強いままで頑張ってくれれば、私がリトと交代できる。
私が強くなるまで、もうちょっと頑張ってくれれば。
宥めるように撫でながら、銀の瞳を見つめた。

「りと、ちゅよいから大丈夫」
「……そういうとこがな。お前の方が、断然余裕あるんだよな」

むすっと不機嫌な顔のままぶつぶつ言って、リトは今度こそ私を下ろして、何度か振り返って、そうして出て行った。
よし、今日は大体遅くまで帰って来ない。
私は急いで戻って椅子によじ登ると、はむ! と残ったパンに食いついて今日の計画を立てはじめたのだった。



「――あくるまふるす!」

べたべたになった口周りと手が、一気に綺麗になる。
この魔法、とても便利だ。
あんまり使うと、魔力不足でほとんど魔法の使えないファエルが、拗ねてしまうのだけど。
しっかり朝食を食べ終えた私は、さっそく昨日の続きを始めた。
傍目には、魔方陣を見つめてじっとしているようにしか見えないだろうけど。
私は、契約書を整理しているのだ。自分に必要な条件を洗い出し、組み込むために。

今、分かる限りの古代語でも、なんとか必要条件を書き記すことができるように。
午前いっぱいはこれをやって、午後からは魔方陣の練習をして、その後図書館へ行って。
そういう予定を組んでいたのに、廊下から予定を崩すものが近づいて来た。

「り、とぉ~! 朝から俺様が訪ねて来てやったぜ! 早く扉を開けなぁ!」

多分、開けないと分かっているからだろう。だんだんだん、と激しく扉を叩く音がする。
『うぜえ……!』なんて、いないはずのリトの声が聞こえた気がした。
やかましいので、仕方なく駆け寄って鍵を開ける。

「おっ、今日は素直じゃねえか! ……ってチビだけかよぉ!」
「りと、お仕事」
「チッ……この時間ならちょうど朝飯食えるかと思ったのに……!」

ずかずか入って来たラザクが、素早く周囲を見回した。

「りと、かめめの物は置いて行かない」
「チッ……ケツの穴のちっせえヤツがよぉ! 男ならこう、どーんと金貨袋くらい置いていきゃあいいじゃねえか!」

言いながら枕の下までチェックするラザクについて歩く。何かあれば、リトに報告しておかなければいけないし。
お金があったところで、盗っていけば借金がかさむだけなのに、ラザクは一体何がしたいんだろうか。

「クソ、何もねえな……これだから、収納袋持ちはよぉ……」
「らざく、お金ない?」
「ったりめえだ。このラザク様、金がある日なんざぁあるかよ!」

まったく褒められたことじゃないけれど、まあラザクだからそんなものだろう。

「魔法書は? そちたら、役にたちゅれちぴ教える」
「あっ、そうだった。けどよぉ、そうそう簡単に見つかるかよぉ~。ならさ、レシピ1個でいいから、なんか今すぐ俺に頼みてえことねえのかよ? 簡単で俺様がパッとできてパッとレシピが手に入るようなやつ。かつ、レシピは即金になりそうなやつ」
「はぁ~クズ極まれり。なんとも悪しき寝覚めよ」
まだ寝ていたファエルが、大あくびして飛んできた。
「早起きして活動してる分、ゲテモノよりマシだわ!!」
「我は、優秀な頭を保護するために、十分な睡眠を確保しているだけですぅ~!」

どっちも似た者同士だと思っていることは、言わない方が良さそうだ。
とりあえず、魔法書がないならラザクはいらない。

「らざく、邪魔。どっか行って」
「いやあぁ! 無垢な魂から放たれるどストレートな暴言が突き刺さるぅ!!」

どしゃり、と崩れ落ちたラザクは、そんなことを言いながらもなかなか出て行かない。本当に、面倒。リトの気持ちがよく分かる。
何かラザクに頼める適当なことはないかと首を捻って、そうだ、ラザクは大人だと気が付いた。
『大人と一緒なら』をクリアする条件に含まれるということだ。
町で買い物してもいいし、海へも行ける。いや、海はラザクでは危ないかもしれない。

「……じゃあ、りゅーをちゅれて本のお店とぎれいの間、ちゅれていってくれたら、れちぴあげる!」
「儀礼の間ぁ? けどあそこはよぉ……まあ、いっか! よしきた、とっとと行って終わらせんぞ! レシピは、金になるやつだろうなあ?!」

小脇に抱えられながら、頷いた。
ついでに、私にメリットあるレシピにしておこう。そうすれば一石二鳥どころか三鳥にも四鳥にもなる。
双方腹に何かしら別の思惑を抱え、私とラザクと、ついでにペンタとファエルは町へ繰り出したのだった。





◇◇◇◇◇◇◇

2025/4/1まで、Amazon kindleで販売中のデジドラ短編集、『りゅうとりと まいにち』が半額セール対象のようです! kindleアンリミテッドに登録中の方は、元々無料で読めますよ!

しおりを挟む
感想 311

あなたにおすすめの小説

3点スキルと食事転生。食いしん坊の幸福無双。〜メシ作るために、貰ったスキル、完全に戦闘狂向き〜

幸運寺大大吉丸◎ 書籍発売中
ファンタジー
伯爵家の当主と側室の子であるリアムは転生者である。 転生した時に、目立たないから大丈夫と貰ったスキルが、転生して直後、ひょんなことから1番知られてはいけない人にバレてしまう。 - 週間最高ランキング:総合297位 - ゲス要素があります。 - この話はフィクションです。

異世界で目覚めたら、もふもふ騎士団に保護されてました ~ちびっ子だけど、獣人たちの平穏のためお世話係がんばります!!~

ありぽん
ファンタジー
神のミスで命を落とした芽依は、お詫びとして大好きな異世界へ転生させてもらえることに。だが転生の際、またしても神のミスで、森の奥地に幼女の姿で送られてしまい。転生の反動で眠っていた瞳は、気づかないうちに魔獣たちに囲まれてしまう。 しかしそんな危機的状況の中、森を巡回していた、獣人だけで構成された獣騎士団が駆け付けてくれ、芽依はどうにかこの窮地を切り抜けることができたのだった。 やがて目を覚ました芽依は、初めは混乱したものの、すぐに現状を受け入れ。またその後、同じ種族の人間側で保護する案も出たが、ある事情により、芽依はそのまま獣騎士団の宿舎で暮らすことに。 そこで芽依は、助けてくれた獣騎士たちに恩を返すため、そして日々厳しい任務に向かう獣人たちが少しでも平穏に過ごせるようにと、お世話係を買って出る。 そんな芽依に、当初は不安だった獣人たちだったが、元気で明るい瞳の存在は、次第に獣人たちの力となっていくのだった。 これはちびっ子転生者の芽依が、獣人や魔獣たちのために奮闘し、癒しとなっていく。そんな、ほっこりまったり? な物語。

白い結婚の末、離婚を選んだ公爵夫人は二度と戻らない』

鍛高譚
恋愛
白い結婚の末、「白い結婚」の末、私は冷遇され、夫は愛人を溺愛していた――ならば、もう要らないわ」 公爵令嬢 ジェニファー・ランカスター は、王弟 エドワード・クラレンス公爵 のもとへ政略結婚として嫁ぐ。 だが、その結婚生活は冷たく空虚なものだった。夫は愛人 ローザ・フィッツジェラルド に夢中になり、公爵夫人であるジェニファーは侮辱され、無視され続ける日々。 ――それでも、貴族の娘は耐えなければならないの? 何の愛もなく、ただ飾り物として扱われる結婚に見切りをつけたジェニファーは 「離婚」 を決意する。 しかし、王弟であるエドワードとの離婚は容易ではない。実家のランカスター家は猛反対し、王宮の重臣たちも彼女の決断を 「公爵家の恥」 と揶揄する。 それでも、ジェニファーは負けない。弁護士と協力し、着々と準備を進めていく。 そんな折、彼女は北方の大国 ヴォルフ公国の大公、アレクサンダー・ヴォルフ と出会う。 温かく誠実な彼との交流を通じて、ジェニファーは 「本当に大切にされること」 を知る。 そして、彼女の決断は、王都の社交界に大きな波紋を呼ぶこととなる――。 「公爵夫人を手放したことを、いつか後悔しても遅いわ」 「私はもう、あなたたちの飾り人形じゃない」 離婚を巡る策略、愛人の凋落、元夫の後悔――。 そして、新たな地で手にした 「愛される結婚」。

魔境へ追放された公爵令息のチート領地開拓 〜動く屋敷でもふもふ達とスローライフ!〜

幸運寺大大吉丸◎ 書籍発売中
ファンタジー
公爵家に生まれたエリクは転生者である。 4歳の頃、前世の記憶が戻って以降、知識無双していた彼は気づいたら不自由極まりない生活を送るようになっていた。 そんな彼はある日、追放される。 「よっし。やっと追放だ。」 自由を手に入れたぶっ飛んび少年エリクが、ドラゴンやフェンリルたちと気ままに旅先を決めるという物語。 - この話はフィクションです。 - カクヨム様でも連載しています。

転生無双なんて大層なこと、できるわけないでしょう! 公爵令息が家族、友達、精霊と送る仲良しスローライフ

幸運寺大大吉丸◎ 書籍発売中
ファンタジー
アルファポリス様より書籍化! 転生したラインハルトはその際に超説明が適当な女神から、訳も分からず、チートスキルをもらう。 どこに転生するか、どんなスキルを貰ったのか、どんな身分に転生したのか全てを分からず転生したラインハルトが平和な?日常生活を送る話。 - カクヨム様にて、週間総合ランキングにランクインしました! - アルファポリス様にて、人気ランキング、HOTランキングにランクインしました! - この話はフィクションです。

【長編・完結】私、12歳で死んだ。赤ちゃん還り?水魔法で救済じゃなくて、給水しますよー。

BBやっこ
ファンタジー
死因の毒殺は、意外とは言い切れない。だって貴族の後継者扱いだったから。けど、私はこの家の子ではないかもしれない。そこをつけいられて、親族と名乗る人達に好き勝手されていた。 辺境の地で魔物からの脅威に領地を守りながら、過ごした12年間。その生が終わった筈だったけど…雨。その日に辺境伯が連れて来た赤ん坊。「セリュートとでも名付けておけ」暫定後継者になった瞬間にいた、私は赤ちゃん?? 私が、もう一度自分の人生を歩み始める物語。給水係と呼ばれる水魔法でお悩み解決?

【完結】小さな元大賢者の幸せ騎士団大作戦〜ひとりは寂しいからみんなで幸せ目指します〜

るあか
ファンタジー
 僕はフィル・ガーネット5歳。田舎のガーネット領の領主の息子だ。  でも、ただの5歳児ではない。前世は別の世界で“大賢者”という称号を持つ大魔道士。そのまた前世は日本という島国で“独身貴族”の称号を持つ者だった。  どちらも決して不自由な生活ではなかったのだが、特に大賢者はその力が強すぎたために側に寄る者は誰もおらず、寂しく孤独死をした。  そんな僕はメイドのレベッカと近所の森を散歩中に“根無し草の鬼族のおじさん”を拾う。彼との出会いをきっかけに、ガーネット領にはなかった“騎士団”の結成を目指す事に。  家族や領民のみんなで幸せになる事を夢見て、元大賢者の5歳の僕の幸せ騎士団大作戦が幕を開ける。

ネグレクトされていた四歳の末娘は、前世の経理知識で実家の横領を見抜き追放されました。これからはもふもふ聖獣と美食巡りの旅に出ます。

旅する書斎(☆ほしい)
ファンタジー
アークライト子爵家の四歳の末娘リリアは、家族から存在しないものとして扱われていた。食事は厨房の残飯、衣服は兄姉のお下がりを更に継ぎ接ぎしたもの。冷たい床で眠る日々の中、彼女は高熱を出したことをきっかけに前世の記憶を取り戻す。 前世の彼女は、ブラック企業で過労死した経理担当のOLだった。 ある日、父の書斎に忍び込んだリリアは、ずさんな管理の家計簿を発見する。前世の知識でそれを読み解くと、父による悪質な横領と、家の財産がすでに破綻寸前であることが判明した。 「この家は、もうすぐ潰れます」 家族会議の場で、リリアはたった四歳とは思えぬ明瞭な口調で破産の事実を突きつける。激昂した父に「疫病神め!」と罵られ家を追い出されたリリアだったが、それは彼女の望むところだった。 手切れ金代わりの銅貨数枚を握りしめ、自由を手に入れたリリア。これからは誰にも縛られず、前世で夢見た美味しいものをたくさん食べる生活を目指す。

処理中です...