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ゲーム前
囚われの身
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「ーーー…」
「ーーー…っ!」
遠くで、誰かの啜り泣く声とそれを励ましているような声が聞こえる。
それを認識した瞬間、次々と耳を刺激してくるざわめき。
それは悲哀を伴って止む気配はない。
「帰りたいよぉ…」
近くで女の子が嗚咽混じりに呟く声に誘われて、私はまだ重い瞼を何とか持ち上げる。
「そんな弱気になるな。これはチャンスなんだ。雇い主の言う通りにしていれば、食いっぱぐれることはなくなるんだから…」
女の子にそう声を掛ける男の子も、不安からか声が震えている。
そう、言う通りにしていれば…。
この男の子は言う通りにならなければ、罰として何をされるか分からない、貴族の元へ行っても、その待遇に安寧などどこにもない環境だということを少しは聞いているのだろう。
ぼんやりとした視界に入ってきたのは、どこかの部屋に押し込められた子どもたち。
そして、恐らく先程の声の主であろう、両手で顔を覆う女の子とそれを慰めるように女の子の背に手を添えている男の子がぼんやりと霞んで見える。
数回瞬きを繰り返して、ようやく視界と頭がはっきりしてくると同時に、気を失う前のイザベラ様の話が脳裏を過る。
「…もしかして、あなたたちはコランジから来たの?」
身を起こしながら徐に問いかける私を、2人が訝しげに振り返った。
魔法の作用のせいか、少し痛む頭を押さえながら2人に目を向ける私に、彼らは明らかに警戒の色を強める。
「何でお貴族様がこんなところにいるんだ?」
「…」
男の子は語気強めにそう言い放ち、女の子は怯えたように男の子へ身を寄せる。
まだ10歳にも満たないであろうに、お互いを頼り支えようとする姿は、こんな時でもなければ「萌え~!」とか言って眺めていたに違いないと、断言できるほど神々しかった。
「…」
「…」
「…おい」
いかんいかん、こんな時でもなければと言いつつ、しっかり堪能していたらしい。
私の脳内を見透かしたように、不審者を見るような目で私に突っ込むような声を掛ける男の子に、ハッと現実に引き戻された。
でも、まだ自分が置かれている状況に目を背けたい気持ちは変わらない。
「これって、拐われたのかしら?」
「知らねぇよ」
私の言葉に間髪入れず突っ込む男の子の反応に、思わずくすりと笑いが漏れる。
「何だよ!」
「ルーカス!」
私が笑いを漏らしたことで、バカにされたとでも思ったのか、息巻く男の子を慌てたように女の子が制止をかける。
「ふふ、ごめんなさい。活きがいいなぁと思ったらつい…」
「この状況でそんなことで笑えるなんて、よっぽどのアホか胆が座ってるかだけど…」
そう言った男の子に、とても憐れみの籠った視線を向けられる。
つまり、よっぽどのアホだと判断されたようだ。
そっちの方が警戒が薄れるのも早そうだし、都合がいいかもしれないと思う反面、ナタリア様の様子が違うのに気づきながらもノコノコ着いて行った危機管理のなさは、もうアホの域かもしれないと自分のことながら情けない。
しかし、今は反省会を開いている場合ではないと、頭を振り気持ちを切り替える。
「私、ユリっていうの。
もう一度聞くけど、あなたたちはコランジから連れてこられたのね?」
私は、敢えてあまり呼ばれていない愛称を2人に告げた。
その方が後々きっと動きやすいだろうから。
私の確信を持った問いかけにこくりと頷く2人。
コランジから連れてこられて、これから貴族へと売られようとしている子どもたち。
それはつまり…ーーー。
「あなたたちは魔法が使えるのね」
首を巡らせて周囲を見回しながら話す私を、2人がハッと目を見開いて見つめる視線を感じる。
コランジから集められた魔法の才能を開花させた子どもたち。
怯えや悲哀、不安を感じている子もいれば、反対に野心を燃やしている子もいることが窺える。
年齢層も幅広い。
栄養状態が低い分、体が小さいことが考えられるが、少なくとも見た目からは最低7歳から最高15歳くらいだろう。
ざっと数えて20人程度か。
人身売買はこの国でもタブーとされていることではあるが、前世の記憶が、その行為への嫌悪感に更に拍車をかける。
ここにいる子どもたちが、売られていくのを黙って見てるだけなんて、できるはずもない。
イザベラ様とナタリア様が何を期待して私をここに放り込んだのかという思惑など、もはや二の次だ。
この子どもたちを私1人で、どこまで安全に守れるかなんて保証はないし、もしかしたら、私がしようとすることを余計なお世話だと一蹴する子もいるかもしれない。
だけどもし、この女の子のように解放されることを望む子が他にもいるとしたら、その手助けをしてあげたい。
私1人の力は無理でも、みんなの魔法の力を合わせればどうにかなるんじゃないか…なんて、希望的観測かもしれないけど。
「お姉さんは一体…?」
女の子が私に不安と期待の入り交じった視線を向ける。
「何企んでんだ、あんた」
ルーカスと呼ばれた少年が憮然とした顔を私に向ける。
そんな2人に、私は敢えてにっこりと満面の笑みを向けた。
「私と一緒に、ここから逃げましょう」
「ーーー…っ!」
遠くで、誰かの啜り泣く声とそれを励ましているような声が聞こえる。
それを認識した瞬間、次々と耳を刺激してくるざわめき。
それは悲哀を伴って止む気配はない。
「帰りたいよぉ…」
近くで女の子が嗚咽混じりに呟く声に誘われて、私はまだ重い瞼を何とか持ち上げる。
「そんな弱気になるな。これはチャンスなんだ。雇い主の言う通りにしていれば、食いっぱぐれることはなくなるんだから…」
女の子にそう声を掛ける男の子も、不安からか声が震えている。
そう、言う通りにしていれば…。
この男の子は言う通りにならなければ、罰として何をされるか分からない、貴族の元へ行っても、その待遇に安寧などどこにもない環境だということを少しは聞いているのだろう。
ぼんやりとした視界に入ってきたのは、どこかの部屋に押し込められた子どもたち。
そして、恐らく先程の声の主であろう、両手で顔を覆う女の子とそれを慰めるように女の子の背に手を添えている男の子がぼんやりと霞んで見える。
数回瞬きを繰り返して、ようやく視界と頭がはっきりしてくると同時に、気を失う前のイザベラ様の話が脳裏を過る。
「…もしかして、あなたたちはコランジから来たの?」
身を起こしながら徐に問いかける私を、2人が訝しげに振り返った。
魔法の作用のせいか、少し痛む頭を押さえながら2人に目を向ける私に、彼らは明らかに警戒の色を強める。
「何でお貴族様がこんなところにいるんだ?」
「…」
男の子は語気強めにそう言い放ち、女の子は怯えたように男の子へ身を寄せる。
まだ10歳にも満たないであろうに、お互いを頼り支えようとする姿は、こんな時でもなければ「萌え~!」とか言って眺めていたに違いないと、断言できるほど神々しかった。
「…」
「…」
「…おい」
いかんいかん、こんな時でもなければと言いつつ、しっかり堪能していたらしい。
私の脳内を見透かしたように、不審者を見るような目で私に突っ込むような声を掛ける男の子に、ハッと現実に引き戻された。
でも、まだ自分が置かれている状況に目を背けたい気持ちは変わらない。
「これって、拐われたのかしら?」
「知らねぇよ」
私の言葉に間髪入れず突っ込む男の子の反応に、思わずくすりと笑いが漏れる。
「何だよ!」
「ルーカス!」
私が笑いを漏らしたことで、バカにされたとでも思ったのか、息巻く男の子を慌てたように女の子が制止をかける。
「ふふ、ごめんなさい。活きがいいなぁと思ったらつい…」
「この状況でそんなことで笑えるなんて、よっぽどのアホか胆が座ってるかだけど…」
そう言った男の子に、とても憐れみの籠った視線を向けられる。
つまり、よっぽどのアホだと判断されたようだ。
そっちの方が警戒が薄れるのも早そうだし、都合がいいかもしれないと思う反面、ナタリア様の様子が違うのに気づきながらもノコノコ着いて行った危機管理のなさは、もうアホの域かもしれないと自分のことながら情けない。
しかし、今は反省会を開いている場合ではないと、頭を振り気持ちを切り替える。
「私、ユリっていうの。
もう一度聞くけど、あなたたちはコランジから連れてこられたのね?」
私は、敢えてあまり呼ばれていない愛称を2人に告げた。
その方が後々きっと動きやすいだろうから。
私の確信を持った問いかけにこくりと頷く2人。
コランジから連れてこられて、これから貴族へと売られようとしている子どもたち。
それはつまり…ーーー。
「あなたたちは魔法が使えるのね」
首を巡らせて周囲を見回しながら話す私を、2人がハッと目を見開いて見つめる視線を感じる。
コランジから集められた魔法の才能を開花させた子どもたち。
怯えや悲哀、不安を感じている子もいれば、反対に野心を燃やしている子もいることが窺える。
年齢層も幅広い。
栄養状態が低い分、体が小さいことが考えられるが、少なくとも見た目からは最低7歳から最高15歳くらいだろう。
ざっと数えて20人程度か。
人身売買はこの国でもタブーとされていることではあるが、前世の記憶が、その行為への嫌悪感に更に拍車をかける。
ここにいる子どもたちが、売られていくのを黙って見てるだけなんて、できるはずもない。
イザベラ様とナタリア様が何を期待して私をここに放り込んだのかという思惑など、もはや二の次だ。
この子どもたちを私1人で、どこまで安全に守れるかなんて保証はないし、もしかしたら、私がしようとすることを余計なお世話だと一蹴する子もいるかもしれない。
だけどもし、この女の子のように解放されることを望む子が他にもいるとしたら、その手助けをしてあげたい。
私1人の力は無理でも、みんなの魔法の力を合わせればどうにかなるんじゃないか…なんて、希望的観測かもしれないけど。
「お姉さんは一体…?」
女の子が私に不安と期待の入り交じった視線を向ける。
「何企んでんだ、あんた」
ルーカスと呼ばれた少年が憮然とした顔を私に向ける。
そんな2人に、私は敢えてにっこりと満面の笑みを向けた。
「私と一緒に、ここから逃げましょう」
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