黒い記憶の綻びたち

古鐘 蟲子

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19.駅で怒り狂う男の子

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 これは我が子を妊娠したときの話。

 この話について賛否はあると思うけれど、私は私で選んだ道なので他者に何か言われる筋合いはないというのを前提に。

 私はご存知の通り田舎のクソみたいな家で育ち、両親ともに異常者であったため、普通の家族というものに憧れていた。

 現在は現夫と三人の子らと、わりかし平穏に暮らせているけれども、これは長男を身ごもった頃の話。


 長男は今年の春に中学生になる。
 反抗期も始まったが、不思議と産んで後悔をしたことはない。将来きちんとした大人になれるかの不安はあるけれども。

 長男を身ごもったのは、私がまだ十代後半の頃だった。周囲の同級生はまだ高校生という頃である。

 実母は我関せずという感じが七割、子どもが子ども産んでどうするんだという罵りが三割という感じだった。

 義家族は東京の人間で、一家全員モラハラ家族という地獄みたいな家だったことをあとから知るわけだが、やはり現実的に育てるより下ろせと勧められていた。

 そりゃあそうだ。

 私は十七そこそこ。相手は二つ年上だが専門学校中退で働く気など微塵もないような男だと義家族にも認められるようなやつだった。

「お金は出してあげるから」

 そう義母に言われて、一旦は中絶の方向で話がまとまった。


 そしてその日の夜のことである。

 私は眠りについていた。夢を見ていた。

 何となく、これは夢だと気づいていた。不思議なものだ。あまり夢と気づくことは少ないけれど、このときは確信していた。

 私はよく電車の夢を見ることが多い。

 それがどういう意味を持つのかはわからないけれど、そのときも駅のホームで電車を待っていた。

 すると、ホームの端の方から、小学生になりたてくらいの年頃の男の子が、物凄い形相で怒りながら私に近づいてくる。

 誰に対して怒っているんだろう?と辺りを見渡すが、男の子の視線の先にいるのはどう考えても私なのだ。


 つまり、私に対して猛烈に怒りを抱いているということ。


「え、え、私この子に何か怒られるようなことしたっけ──」

 あたふたしているところで目が覚めた。

 時刻は明け方近く。


 そして、男の子に怒られる心当たりを寝起きの頭がふと捉えた。

「──あぁ、そうか」


 ──このお腹に今いる子は、男の子で間違いない。

 変な確信があった。

 ちなみに中絶の話の段階ではまだ性別がわからない状態だった。

 あの夢の男の子は、きっとお腹の中の子だ。

 何となく、そう思ったのだ。

 それを考えると、産んであげられない自分が情けなくて、「ごめんね、ごめんね」と涙が止まらず、元夫に相談した。

 元夫は「じゃあ産んでくれ。俺と育てよう」と言ってくれて、長男を産むことになる。

 元夫はそれはもうクズオブクズだったけれど、長男が現夫と今こうして妹たちも交えて平和に暮らしていることを考えると、判断をしてくれたことには感謝している。


 ちなみに。
 長男が一歳頃の話。

 そのときは既に元夫とは別れていて、実母の住む地元からも離れたところで仕事をしながら子を育てていたのだけれど、地元に顔を見せに電車で行き、住処のある街の駅へ帰ってきたとき、あの夢の風景と合致する出来事があった。

 長男がイヤイヤ期が酷く、駅のホームで手がつけられないくらい暴れていたのである。

 ホームはさすがに落ちたら危ないので、駅構内へと移動する私。

 どこかで既視感があるなと思ったら、長男を産むきっかけになったあの夢と同じことをしていた。

 正夢だったのか、もしくは正夢になったのか。
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