隣の家の幼馴染と転校生が可愛すぎるんだが

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1年生:2学期編

第39話 林間学校1日目

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朝から続いた移動とハイキングの説明を終え、三人は体操服姿のままハイキングコースへと足を踏み入れた。
森の中はひんやりとしていて、木々の間を抜ける風が、夏の暑さを少しだけ和らげてくれる。土の匂いが濃く、踏みしめるたびに靴底から伝わる感触が、街中とはまったく違っていた。

「思ったより、ちゃんと山だね……」

美羽が額の汗をタオルで拭きながら笑う。
日差しはあるものの、木陰に入ると空気が一段階冷たくなり、肌に触れる風が心地よかった。

「だな。林間学校って、もっとゆるいと思ってた」

晴はそう言いながらも、足取りは軽い。息は少し上がっているが、表情に余裕がある。
紗耶は二人の少し後ろを歩きながら、周囲をきょろきょろと見渡していた。

ステージや楽屋とはまるで違う景色。
人工的な光も、整えられた床もない。代わりにあるのは、木々のざわめきと、足元の土と、遠くで響く鳥の声。

「こういうの、初めてかも」

ぽつりとこぼれた紗耶の声に、晴が振り返る。

「え、山とか来たことないの?」

「うん、山は来たことはないかな~(笑)」

そう言って微笑む紗耶の表情は柔らかい。けれど、その奥にほんの少しだけ、取り残されたような影が見えた気がして、美羽は何も言えなくなる。

ハイキングは思った以上に起伏があり、次第に三人とも口数が減っていった。
息を整えることに意識が向き、会話は短く、必要最低限になる。それでも、不思議と気まずさはなかった。

やがて視界が開け、木々の隙間から遠くの景色が見え始める。

「……すごい!!」

美羽が思わず声を漏らす。
眼下には、どこまでも続く緑と、その上に広がる空。さっきまで歩いてきた道が、細い線のように見えた。

「頑張った甲斐あったね」

「だな」

晴は短く頷き、深く息を吸い込む。
少し遅れて辿り着いた紗耶は、その景色を見た瞬間、足を止めた。

言葉が出ない。
ただ、じっと見つめる。

(……こういう時間、知らなかった)

誰かと一緒に歩いて、同じ景色を見て、同じ疲れを感じる。
それだけのことなのに、胸の奥がじんわりと温かくなる。

夕方、施設に戻るころには、空がオレンジ色に染まり始めていた。
足の疲れは確かにある。それでも、不思議と気分は軽かった。

夜になり、広場に集められた生徒たちの前で、キャンプファイヤーの火が灯される。
一気に立ち上がった炎が、闇を押しのけるように揺れ、周囲を赤く照らした。

ぱちぱちと薪がはぜる音。
揺れる炎が、三人の影を地面に映す。

歌や簡単なレクリエーションが終わり、班ごとに短い自由時間が与えられる。
周囲では笑い声が続いているが、その輪から少し外れたところで、紗耶が小さく息を吸った。

「……晴くん、二人で少し歩かない?」

晴に向けられたその声は控えめで、けれど確かだった。
一瞬迷ったあと、晴は頷く。

二人は焚き火から少し離れ、森の端へ向かう。
炎の光がかろうじて届く距離。だが、周囲の声はもう遠い。

「ハイキング、どうだった?」

晴が何気なく尋ねる。

「楽しかった」

紗耶は即答だった。

「すごく疲れたけど……普通の高校生みたいで」

その言葉に、晴は返す言葉を失う。
焚き火の炎が、紗耶の横顔を赤く照らしていた。

「ね、晴くん」

足を止め、紗耶は深く息を吸う。

「私、ライブの時に助けてもらった日からずっと考えてたことがあるの」

静かな声。真剣な眼差し。

「私……晴くんのこと、好きになっちゃった。」

はっきりとした告白だった。
ライブのとき、今日のハイキング、気づけば目で追っていたこと。
守ってくれたこと。普通に話してくれたこと。

沈黙が落ちる。
焚き火の音だけが、二人の間を満たす。

晴の胸に、美羽の笑顔が浮かぶ。
一緒に歩いた時間、何気ない会話。

「……すぐに、答えられない」

正直な言葉だった。

紗耶は少しだけ目を伏せ、それから静かに頷く。

「うん。それでいい」
「伝えたかっただけだから」

二人はそのまま焚き火の輪へ戻る。
美羽は一瞬だけ二人を見て、何かを感じ取ったように視線を落とした。

炎は変わらず燃えている。
けれど、その夜――三人の心には、それぞれ違う熱が残っていた。

焚き火が消され、生徒たちは順番に宿舎へ戻っていく。
夜の森は想像以上に暗く、昼間聞こえていた鳥の声は消え、代わりに虫の音が静かに響いていた。

部屋に戻った美羽は、敷かれた布団の上に腰を下ろし、天井を見上げる。
今日一日の出来事が、ゆっくりと頭の中で再生されていく。
ハイキングの景色、焚き火の炎、そして――少し離れて歩いていた二人の背中。

(……何、話してたんだろ)

考えないようにしても、胸の奥がざわつく。
それが嫉妬なのか、不安なのか、自分でも分からないまま。

一方、別の部屋で布団に入った晴は、目を閉じても眠れずにいた。
紗耶の言葉と、美羽の存在が、心の中で絡み合って離れない。

紗耶もまた、布団の中で静かに目を開けていた。
後悔はなかった。ただ、少しだけ胸が痛む。それでも、気持ちは確かに軽かった。

同じ夜空の下で、同じ林間学校の一日を過ごしながら、
三人の想いは、それぞれ違う方向へと、静かに動き始めていた。

森の奥で風が木々を揺らす音がする。
その音に包まれながら、林間学校一日目の夜は、ゆっくりと更けていった。
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