隣の家の幼馴染と転校生が可愛すぎるんだが

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1年生:2学期編

第38話 林間学校へ

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林間学校当日の朝は、いつもより静かだった。
まだ完全に目を覚ましきっていない住宅街に、夏の終わりを告げるような、少し冷たい空気がゆっくりと流れている。早朝特有の澄んだ空気が、吐く息をわずかに白く見せるほどではないにせよ、確かに季節の変わり目を感じさせた。

美羽は玄関で靴を履きながら、自分の姿を一度だけ確認する。
学校指定の体操服。白いシャツに紺色のジャージ、胸元にはクラスと名前が印刷されている。普段は授業や部活で何気なく着ているはずの服なのに、今日はなぜか違って見えた。

これから始まる二日間を、そのまま形にしたような服装。
私服よりもずっと“逃げ場がない”感じがして、少しだけ背筋が伸びる。

「体操服で登校って、やっぱ変な感じだね」

隣で同じく体操服姿の晴が、苦笑いしながら言った。
大きめのリュックを背負い、肩紐が少し食い込んでいる。
中身の重さ以上に、行事特有の緊張が伝わってくる気がした。

「うん。でも、林間学校って感じするね!」

美羽はそう返し、二人で並んで歩き出す。
家々の間を抜ける朝の道は静かで、二人の足音だけがやけに大きく響いた。

体操服という“同じ格好”をしているはずなのに、並んで歩く距離は、どこかいつもより意識してしまう。
近すぎても、遠すぎても落ち着かない。そんな微妙な間合いを保ちながら、無言の時間が続いた。

少し進んだところで、前から手を振る人影が見えた。

「おはよ!」

紗耶だった。
彼女も体操服姿で、キャップは被らず、髪を一つにまとめている。ステージの上で見た華やかな姿とはまるで違う、素の高校生としての紗耶。

「おはよう、紗耶」
晴が声をかける。

「二人とも早いね。私、ちょっと緊張して、あんまり寝られなかった」
そう言って、紗耶は照れたように笑った。

その笑顔を見て、美羽は胸の奥が少しだけざわつく。
自分も紗耶と同じだったからだ。
楽しみと不安が入り混じって、いつもより早く目が覚めてしまった。

三人で並んで歩き始める。
体操服の布が擦れる音、リュックの揺れ、ひんやりとした早朝の空気。
それらが混ざり合い、「非日常が始まる朝」だという実感が、少しずつ、確実に強くなっていった。

学校に着くと、正門の前にはすでにバスが停まっていた。
白い車体が朝の光を反射し、いつもの登校風景とはまったく違う景色を作り出している。同じ体操服姿のクラスメイトたちが集まり、笑い声や話し声がいつもより大きく感じられた。

教室でのHRは、普段よりもざわついていた。
荷物を確認する声、座席を確かめる声。全員がどこか浮き足立っている。

「はい、席についてー。出欠取るぞ」

担任の声で、教室が少しだけ静まる。

「桐谷晴」
「はい」

「水瀬美羽」
「はい」

「黒瀬紗耶」
「はい」

三人の返事が続いた瞬間、美羽は小さく息を吸った。
同じ班、同じ行動、一泊二日。

(逃げ場、ないんだよね……)

そう思った瞬間、胸の奥がきゅっと縮む。
けれど同時に、その事実から目を逸らせない自分もいた。

担任は名簿を閉じて言った。
「じゃあ、バスに乗るぞ。班ごとに座れ」

バスに乗り込むと、エンジン音と独特の匂いが一気に広がる。
三人は自然と同じ列に座った。

窓側が晴、その隣に美羽、通路側に紗耶。
体操服姿で並ぶと、修学旅行よりもずっと“学校行事”らしく感じられる。

「こうやって並ぶと、ほんと班って感じするね」
紗耶が小さく言った。

「うん。逃げられないやつ」
晴が冗談っぽく言うと、美羽と紗耶が同時に笑った。

バスが動き出し、校舎が少しずつ遠ざかっていく。
見慣れた街並みが流れ、やがて窓の外は緑に覆われていった。

「ハイキング、結構歩くらしいよ」
晴がパンフレットを見ながら言う。

「体操服でよかった……私、私服だったら絶対後悔してた」
美羽は肩をすくめる。

「でも、山ってちょっと怖いかも」
紗耶は窓の外を見つめながら呟いた。

「三人一緒だし、大丈夫だよ」
美羽がそう言うと、紗耶は少し安心したように頷いた。

バスは長い山道を進み、やがて林間学校の施設に到着する。
扉が開いた瞬間、ひんやりとした森の空気が一気に流れ込んできた。

「……空気、全然違う」
晴が思わず言う。

「なんか、別の世界みたい」
美羽も周囲を見渡す。

木々に囲まれた広場に全員が集まり、担当の先生が前に立つ。

「これからハイキングの説明をします。班ごとに行動すること。勝手な行動は禁止だ」

地図が広げられ、ルートや注意点が説明される。
転倒注意、水分補給、体調管理。

美羽は説明を聞きながら、横に立つ晴と紗耶を見た。
体操服姿の三人は、まるで同じ立場に立たされたように見える。

この二日間で、何かが変わるのか。
それとも――変わってしまうのか。

林間学校一日目は、
静かに、しかし確実に始まっていた。
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