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第一章 紫電の射手
act.8 勇者が師匠なのは伊達じゃない!
しおりを挟むバージスに戻り、食事をとったイグナールとモニカは残りの路銀を見て頭を抱えていた。
「ディルクが残してくれたとは言え心許ないな」
魔界へと旅立つための装備や食料等を揃え終え、余った分の金をモニカに持たせてくれていたとはいえ限りはある。魔王討伐の拠点と言われるだけあり、揃う武具も一級品ばかりで、宿屋や飯屋の類も質がいい。
つまり、バージスで留まるには金がいるのだ。イグナールとモニカは家は貴族であり、旅に出る際は十分な路銀を持たせれてはいたが、それはもはや2年前でありとうの昔に尽きている。
「これは早いとこギルド登録して依頼をこなさないと野宿のうえ、野草を貪ることになりそうだぞ……」
「そんなの絶対いや!」
完全な拒絶を見せるモニカ。この2年間の旅は貴族としての暮らしに慣れた彼女としては、我慢の連続だっただろう。長い道中に野宿を強いられることや、食料が底を尽き野生の動物や川の魚を口にしたことは何度かあった。
だからと言って、金の問題で目の前にやわらかなベッドと美味しい食事があると言うのを我慢しろと言うのは酷な話だ。彼女はまだまだ多感な少女なのだから。
「これは死活問題だわ。せめて1日1食分と2人分の部屋を確保したい! あ、いやなんなら1人部屋でも全然、その……私は構わないこともないけど」
「あぁ、俺は構わないけど……野宿で一緒に寝たときはお前の寝相に苦労したからな出来るなら別室にしたい」
真顔で言うイグナールに烈火の如く感情の炎を滾らせて睨み付けるモニカ。恥ずかしさと怒りが複雑に入り交じった表情を彼が察するのは難しい。
「うるさい!」
モニカが持っている皮製のカバンを横なぎに振り、イグナールの横っ面に迫る。それをいとも簡単に半身で躱すイグナール。死角からの突発的な一撃だったものの難なくよけて見せる。
「そこは当たってよ!」
「俺だって伊達に勇者を師匠に修行してないんだよ」
2年間で剣術を磨いたイグナールは、勇者ディルクと共にいると霞んでしまうものの実力は相当のものだ。両親から受け継いだ才覚か、みるみるうちに上達した。
更に、彼は努力家であった。最強の魔法使いの間に生まれながらも魔法の使えない無能と蔑まれた過去を糧に、無能とは2度と言わせないと剣術に打ち込んだ。
しかし、結果はこの通り。勇者ディルクからは認めてもらうことは出来なかった。いや、その才覚を認め、可能性を感じたからこその勇者の判断なのかもしれない。
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