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第二章 紫電の剣
act.37 守りたい気持ち
しおりを挟む「モニカ!」
先程までイグナールの頭があった場所に銀狼の鈍く光る牙が見える。標的を見失った銀狼は前足の爪をむき出しに、モニカの背中を抉る。
イグナールが仰向けに倒れ、それに重なるように負傷したモニカが倒れる。彼女の周りを漂っていた水弾はバシャリと音を立て弾け霧散する。モニカが持っていたであろう水槍は銀に色の床の上で徐々に形が崩れ、これも最終的には消えてなくなった。
モニカの体からの薄く霧が立ち昇り消える。彼女の負傷により集中が乱され、制御しきれなくなったのだ。
イグナールは倒れた彼女を見下ろす。モニカの背中には衣服を破り、頭を殴りつけるような衝撃的な赤の4本線が見える。
「クソがぁぁぁぁぁ!」
実験場の中にイグナールの雄たけびが木霊する。剣を持つ右手を強く握り締め、一方左手は彼の脚に覆いかぶさるモニカを優しく下ろす。
前方を確認すると正面に2匹、視界の左右の端に1匹づつ見える。イグナールは剣を背後に振り向きつつ思いっきり振るった。
紫電を纏った剣がイグナールの背後から襲い掛かった銀狼の首を刎ね飛ばした。
心が熱く滾る。今すぐ不甲斐ない自分を罵り罰を与えたい気分だ。しかし、頭は非情なまでに冷静である。後ろから迫る銀狼に対処出来たのは、俺がある種の達人だからではない。かといって勘頼りのあてずっぽうでもない。
奴らはそう動くであろうと冷静に働くイグナールの頭がそう判断を下したからだ。この銀狼達は本能で戦う獣ではない。相手を観察し弱い部分を見極め、戦略を立てて攻めてくる。これこそが確固たる人が作り出した証だろう。狡猾で、論理的だ。
残りの4匹は少し後退してこちらを伺っているように見える。どうやって意思疎通をしているか定かではないが、奴らの統率は完璧だ。先の戦略が破られ、今どうやってこちらを攻略したものかと考えを巡らせているに違いない。
「マキナ!」
イグナールが呼ぶまでもなく、マキナはすでに近くまで駆けつけていた。負傷したモニカを観察する。
「幸い傷は深くありませんが、気絶しているご様子です」
ホッと……出来るような状況ではないが、今ここで命の危機に瀕しているわけでないのならば、と上辺で自分を安心させる。モニカの怪我は自分が不甲斐ないせいだ。そして、この状況を切り抜けるには、そんな未熟者の手に委ねられているといってもいい。
「マキナ……奴らは見ているのか?」
イグナールは実験場の扉付近に目をやりながらマキナに尋ねる。初手様子見を行い水弾で跳ね飛ばされた銀狼は扉の近くから動く気配はない。
「はい、守護者(ガーディアン)は視界と思考は別所で共有、統括されております」
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