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第二章 紫電の剣
act.38 四面楚歌
しおりを挟むイグナールの目線の先と言葉の意図を即座に読み取り、マキナは答えを返す。魔物の中にもリーダー格の個体が後ろから全体を見渡し、指示を出すチームワークに優れた奴らがいる。それを更に高度で緻密な次元で行って来るのがこの銀狼達だ。
そういった敵と対峙した場合、司令塔となる魔物を倒すことで相手のチームワークを瓦解させることが出来る。しかし……
「司令塔がまた別の所にいるのか……」
マキナの言葉からするとその司令塔の担うリーダーは扉の前で構えている奴ではないらしい。あの銀狼は言わ第三の目。俺の死角から放った攻撃……それは奴らにとって見えていたということらしい。
「ある種の達人は背中にも目があるなんて言うが……俺の後ろに目があったなんてな」
さて、どうしたものか……モニカをマキナに任せ、俺の魔力を放出し薙ぎ払うなんて力技の案もある。ただしそれは、ここが地上であるならばの話だ。地下に造られた空間でそんなことをやってみろ。この場全員の墓穴になってしまう。
ならばモニカを守りながら剣で1体1体倒していくか? 幸い俺の魔力を纏った剣は、銀狼に対して十分な威力だ。だが奴らは確実に学習している。モニカの水弾をあえて避けなかったのは、それが脅威になり得ないからだ。
俺やマキナの攻撃は、その威力を先行した銀狼の身をもって知っている。奴らの虚を突いて1匹減らせたのは良かったが、それもさっきが最初で最後だろう。
「それにしても襲い掛かってくる気配がないな……」
「彼らに疲労といった概念は存在しません。マスターが疲れるのを待っているのでしょう」
それはまた合理的だ。疲れ知らずの狼が獲物の弱るのを待っている。勿論、こちらが隙を見せたら襲い掛かってくるに違いない。いつまで続くかもわからない硬直、それを打破する方法は……モニカだ。
「ん、私……うっ……」
イグナールの考えに呼応するかのように微かに聞こえるモニカの声。マキナが目を覚ました彼女を支え立ち上がらせる。
「大丈夫かモニカ!……すまなかった……」
振り返り、彼女の目を見て謝罪したい気持ちを抑え、四方の銀狼共に睨みを利かせる。
「いいのイグナール、私の体が勝手に動いちゃっただけなの。ごめんなさい足引っ張っちゃったかな……」
「ありがとう……モニカ。助かったよ」
彼女の優しさが痛い。弱い自分であることが憎い。だけど「ありがとう」の言葉は素直な気持ちで言えたと思う。
「起きてばかりで悪いがモニカ。俺の作戦を聞いてくれないか」
「大丈夫、傷は浅いし。でも跡が残ったら責任とってよね!」
「ああ、勿論だ」
この窮地を脱したらいくらでも付き合ってやる。買い物の荷物持ちでも食い物屋巡りでもな!
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