限界社畜さんは怪異となかよし

あさの

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くもいの館 中編

1.

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私は怒っていた。

必ず、かの邪智暴虐の美女を除かなければならぬと決意した。
どこぞの文豪の書いた話の冒頭のようなことを思いながら、私はスマホのライトを片手に手探りで屋敷の真っ暗な廊下を歩いていた。


----なぜ社長がわたしをあなたにつけられたと思いますか? あなたを無事に帰すためですよ。


最後に聞いたひつじさんの言葉を思い出して、ぐっと奥歯を噛み締める。食堂から逃げ出す直前、ひつじさんはそう言って私だけを逃がした。
あんなことを言われて、はいそうですか。で、誰が帰るか。私だけ逃げ出すとかそんな胸糞悪いことはない。

闇に慣れた目でも視界は狭く、いつ何処から何が飛び出してくるかわからない恐怖が背筋を寒くする。
暗くて広い屋敷にひとりっきり。
怖くないわけがない。
私の足はか弱いバンビのように震えそうだ。(※まだ震えてない)

だが、しかし!

今、私を突き動かしているのはかのメ●スのように純然たる怒りなのだった。

そもそも上司も上司だ。
今回の案件が危険度高めなのだったら事前に伝えて然るべきじゃないのか。依頼主に襲われていると言っても差し支えない現状。こんなの予想しろと言う方が無理だ。

「そういやため息吐いてたなぁ…!」

あれもしかしてそういう意味かい。せめて言葉にして伝えてくれ。ヒントにもなんないぞ。

誰に対する怒りか最早わからなくなりつつある。「はああああ…」とクソでかいため息を吐きながら、私は廊下の突き当たりにあった扉を開けた。
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