限界社畜さんは怪異となかよし

くもいの館 中編

11.

「灯りを灯しましょう。そうすれば良く見えます」

不思議そうに小首を傾げたひつじさんが近寄ってくる。後から聞いた話だが、この時の私は一点を見詰めているようで何処も見ていないような尋常でない様子であったらしい。

「どうしました」

ひつじさんが訝しげな中に心配げな色を混ぜて問い掛けてくる。けれどそれに応える余裕もなく、勝手に口から言葉が転がり出てくるのを止められない。

「…いいえ、だめよ。隠しておかないと盗られてしまうわ」

ここでようやく私は目が覚めたように我に返った。

「…ぁ、えっ…？　今…？　あ、すみません…！　私変なこと言いましたね！？」

自分が言った言葉を反芻して慌てる私の前で、一見すると険しく見えるような表情でじっと私を見たひつじさんは「社長が仰っていたのはこのことですか…」と考え込みながら呟き、やおら言った。

「何が盗られてしまうのですか？」

「な、なにを…？」

「隠さねば盗られてしまうと、仰いましたね。何が盗られてしまうのか、わたしに教えて頂けますか？」

「あの、すみません…、自分でもなんでそんなこと言ったのかわからなくて…」

「おそらく貴女は彼女の意識と同調していたのではないでしょうか」

「は、ぇ…」アホみたいな声が出た。だがしかしひつじさんは至って真剣に言う。

「彼女の影響が強い屋敷内にいるのですから不思議ではありません。どうかもう一度、彼女の意識を辿ってみて頂けませんか？」

「わ、わかりました。やってみます」