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くもいの館 中編
12.
しおりを挟む熱心に言うひつじさんの圧に押され、言われるがまま、すう、と大きく息を吸って目を閉じる。耳に甦ったのは、出来る出来ないの問題じゃない。やれ。と威風堂々宣った何処ぞの鬼上司の声だ。なんてことだ、毒されている…。
とにかく、夢を見ていたような先ほどの感覚を思い出そうとする。うん、何となくはわかる。が、これ次どうすりゃいいんだ…。掴めそうで掴めないのが、余計に焦ってくる。
---注意力散漫だ。集中しろ。
「…………」
また上司の声だ。
散々叱られてきた数々の言葉の中で、なんで今の状態を叱咤するような言葉を的確に思い出すんだろう…。
広がっている意識を一点に集中させるイメージを思い描く。
ふう、と吐く深い息が跳ねる鼓動を宥めていく。
周りの微かな音が徐々に消えていく。
不意に水の跳ねる音がした。
同時に、ぼうっと脳裏に浮かんだものがあった。
「…みず…の、波紋…、そこに灯りがあります…」
----…そういえば、灯りをつけようと屋敷内を奔走していたわけだけど、そもそもどうして灯りをつけようと思ったのだろう?
「…弱い灯りです。ライト? …違う、行灯…いや、灯籠かな…」
ひつじさんの目が暗闇の中では見えていなかったから。私も暗闇の中では動きづらいから。どれも理由のひとつだけど、そうではなく、もっと重要な理由があったからのような…、
「そうだ…」
----隠してあるものを見付けるために、だ。
「大切な灯りがこの邸にあるんです。私、あの灯りを見付けるために火をつけていたんだと思います。盗られてしまわないために隠してあるから」
一見すると突拍子もないと捉えられそうな言葉だったと思うが、ひつじさんは馬鹿にすることもなく頷いてくれた。
「お疲れ様でした。ありがとうございます」
「でも、今みたのがあのひとのものなのかはわからないですよ」
「彼女の依頼は失くしたものを見付けてほしいというものでした。貴女のみたものが関係ある可能性は充分あります」
ひつじさんの言うところによると、失せ物とは単に落としてしまったり、埋もれてしまったものだけでなく、本人の意識から外れてしまったものも指すのだそうだ。
「なので、本当ならば其処にあるのに認識することが出来なくなっているのです」
なくしものは屋敷の中にある。と言った上司の言葉が甦る。あのひとは一体何処までわかっていたんだろう。
「彼女の探し物をわたしたちが先に見付けられたら、交渉手段の有力なひとつになるでしょう。たとえそれが彼女の探し物ではなかったとして、盗られぬよう隠しておきたいと思うものならば彼女にとって大切なものには変わりありません」
灯りの消えた洋燈を見上げた私に、心得たようにひつじさんが頷いた。
「試す価値はあるでしょう」
つづく
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