限界社畜さんは怪異となかよし

くもいの館 後編

3.

いや、まずは落ち着こう。

正直、小一時間くらい膝突き合わせて、身の内に込み上げている熱き思いを機関銃のごときぶっ放したいが、いかんせん今は優先しないといけないことがある。

目的の灯りを脳裏で描きながら、とにかく片っ端から屋敷の洋燈を灯す。

だがまったく手応えがない。

何しろ鬼がいる中での探索だ。くもいさんに見付からないように気を張りながら探し物をするのはとてつもない緊張を強いられる。広い屋敷といえど、灯りを点けてしまえば、すなわちその場所に私達がいた証となる。わざわざ隠れ場所のヒントを残して歩き回っているようなものだ。
追われていることにより気力と体力は削られ、探し物が一向に見付からない焦燥に拍車をかける。

更に問題があった。
ここにきて厨房の蜘蛛のおっちゃんから貰った蝋燭が尽きそうになっている。

残り僅かとなった蝋燭の芯と、弱々しくなった炎を見下ろし呟きが漏れた。

「だめか…」

自分らしくない弱音が漏れたことに後れ馳せながら気付き慌てて頭を振る。

打つ手なし－－－…いや、ひとつだけある。