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くもいの館 後編
6.
しおりを挟むカツン。
燭台をテーブルに置く音が高らかに鳴った。
立ち上がった私はくもいさんと対峙する。
「今、あなたと話しているのは私なんですよね?」
畳み掛けるように話していたくもいさんが面白いものを見付けたかのように愉快げに笑う。
「そうね。わたくしったら、お客さまに対して礼を欠いてしまったわ」
「ひとつ、聞きたいことがあるんです。厨房にいた蜘蛛のことです。あのおっさんを蜘蛛に変えたのはあなたですか」
「まぁ、コックに会ったの? 厨房に入ったのね。危ないわよぉ、火を使うんだから」
「質問に答えてください。…あのひと、元は人間ですよね」
「ええ、そうよ」
あっさりと返った応えに、長く息を吐く。
「なぜ怒っているの?」
きょとんと不思議そうにくもいさんは小首を傾げている。彼女の問いに努めて冷静に「いいえ」と返す。
「さっきのお願いってなんですか?」
「うふふ、こちらへ、わたくしの側にいらっしゃいな。そうしたら申しあげるわ」
手首にするりと糸が巻き付く。大の男を締め上げる程の力を籠められるはずの糸はしかし緩く巻き付いているだけで、それ以上何をするでもない。
あくまで私の意思で来いと言っているのだ。
脚を前に踏み出す。
膝をついたひつじさんが首を横に振っているのが視界に映った。行くなと言いたいんだろう。
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