限界社畜さんは怪異となかよし

あさの

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救っておくれ

2.

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※ ※ ※



「わざわざ休みの日にサイン会ってさぁ、仕事でも本は関わってんだろうに。仕事人間っていうかなんていうか」

「それとこれとは別問題なんだよ。そういうお前こそわたしと似たり寄ったりってかそれ以上のワーカホリックっぽいじゃん」

「やめろやめろ。皆まで言うんじゃない」

「はぁほどほどにしような、お互いに」

新卒で入社した出版社で順調に社畜レベルをあげている友人と軽口を叩きあい、最終的にはため息を吐いて落ち着く。
「あ、そういや」と思い出したように友人が言う。切り替えの早さは私達の長所だ。

「取引先のひとから聞いた話なんだけどさ」

「あ、いいです」すかさず遮る。こういう口上から始まる話に良かった試しがないんだ。

「私もあんまり頻繁に会うひとじゃないんだけど、そのひとが世間話で言ってたわけよ」

「おい聞けよ!」

私の必死の抵抗むなしく全無視で話は続く。

「そのひとの知り合いの編集者さんの担当してる作家さんが」

「遠いな」

「まぁ聞けって。…消えたんだって、それもいきなり」

「消えた? バックレたわけじゃなくて?」

穏やかでない話に足を止める。友人が神妙な顔で頷く。

「確かにこの業界バックレるひともいるっちゃいるし、そのひとも締め切りとか守らない困ったちゃんらしいんだけどさ、今回の締め切りはしっかり守ってきたから、何か心境の変化でもあったのかなとか担当編集のひとも軽く思ってたんだって。そしたら次の日に忽然とよ。で、消える前日にそのひと気になること言ってたんだって」

周りの音が消え、友人の声だけがした。

「『これで僕は救われるんです』って…」

いつの間にか聞こえなくなっていた喧騒が戻ってくる。それでも厭な沈黙と薄ら寒さが消えない。

「新しい神を見出だされたかな…?」

「やめろやめろ」

日本は多神教だけど。と友人が呟き、

「そのひと執筆で相当悩んでたみたいで、聞いたところじゃ捜索願も出すかどうかの話にまでいってるって話だよ。遠いひとの話だけどさ、まじでウチらも気を付けようや。まっ、何はともあれ休みの日は好きなことして思いっきり気分転換だな!」

後半になっていきなりぱっと華やいだ顔に呆れる。

「最終的にはそこに落ち着くんだな。おい、私は今日付き合ってやってんだから後で奢れよ」

「神のサイン本が手に入るチャンスに微塵も興味がないとはなんと罪深い…あっ先に手ぇ洗いに行くから! 万全の状態で握手に臨まなければ…!」

うわガチじゃん…。腕まくりして戦場もかくやの気迫を醸し出す友人に続いて行った。

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