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箱庭を出よう
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すべすべでつるつる、鱗の感触は素晴らしかった。
落ち着いてくると、芽依は些細なことで泣きわめいしまった自分が恥ずかしくなる。日々のストレスもあり、感情的になったのだろう。久しぶりに泣いたため、少し頭が重く感じる。
そっと顔を上げ、龍の様子を窺うと、目が合った。
「ご、ごめんにゃしゃい!急に、あの、それと、ありがとうごじゃいました?」
わたわたと舌を噛みつつ、芽依は龍から離れ、ぺこりと頭を下げた。
『落ち着いたか?』
「はい~、もぅ大丈夫です」
『では、話を続けるぞ。我はクラン・ネイファを守護する蒼龍だ。永き眠りの淵から、其方の気によって癒され目覚めた。礼を言おう』
民の心が離れたため、力が弱まり眠っていた蒼龍は、突然暖かい気が流れ込み、力が満ちるのを感じた。
地上には、自身の分身とも言える神木がある。その神木を通して、癒しの力が働いたのだ。
「わたし?何もしてないけど…」
この木に抱きついて、すりすりしたくらいだ。
『其方は、この世界にはない存在。膨大な魔力も有しているな。はぁ…あの方か…』
龍が溜息ついてる。かわいいな!
芽依が内心悶えていると、蒼龍のすぐ上に光が生まれた。
『呼んだかのう~?』
空中にパッと現れたのは、10歳くらいに見える少女だった。身長よりも長い真っ直ぐな闇色の髪は、まるで水中にいるかのように、ふわりふわりと揺れている。
奈良時代の服によく似た着物は、プリーツスカートのようで、可愛らしかった。鮮やかな朱色に、黄金の花が描かれている。
『母神よ、貴女ですね』
『何を怒っておる?』
きょとんとする少女と、それを叱る龍。
なんとも、シュールな絵だと、芽依は他人事に思い、眺めていた。
『やはり、兄神の国の人間は、想像力が豊かでいぃのぉ。これで安心じゃな!』
『そうではないであろう!我らが世界の問題に、異世界の幼子を巻き込むなど。貴女はいつも、そう思いつきで行動ばかりなさる!』
『うっ…、しかしの、あのままでは、みなが、消えてしまうところじゃったんじゃ!妾は、嫌じゃ!しかと成人した者を召喚の対象にしたぞ!』
『では、何故ここに幼子が居るのだ』
蒼龍と母神の視線が、芽依に注がれる。
『なぜじゃ!どう見ても、30歳前後ではないか!』
「あのぉ…、わたし、この世界の人間じゃないんですよね?」
『そうだ。母神によって、異世界より召喚されたようだ。迷惑をかける…』
芽依を見つめて固まっている母神にかわり、蒼龍が答える。
芽依は、低くなっていた視界が、体が縮んだためだと理解した。異世界召喚という出来事に加え、幼児になっていたことに、芽依は眩暈をおぼえると、はぁ、と溜息を吐いた。
芽依の世界では、成人は20歳であるが、こちらの世界では30歳を幼子と言っている。
このことが、縮んだことに原因があるのかもしれないと、芽依は考えた。
「わたしの世界だと、成人は20歳なので、30歳のわたしは、立派な大人なんですが」
『なんじゃと?!なるほど、それ故か。すまぬ、世界で時の流れの違いがあることを、失念しておったわ…。まぁ、本人が大人と言うておるのじゃから、良しとしようではないか!』
『ですから、問題はそこだけでは…』
「あ、あの!わたし、帰りたいんですけど」
芽依が話に割って入ると、沈黙が降りた。
蒼龍はジロリと、母神を睨めつけており、母神は、唇を尖らせている。
芽依は思い切って、もう一度口を開いた。
「帰れるんですよね?ね?!」
母神は、うぅ~と唸ると、空中で地団駄を踏んだ。
『ダメじゃ~!嫌じゃ~!』
『母神よ、駄々をこねるでない。召喚できたのだから、帰せるであろう』
『すぐには、無理じゃ…。無理をした故、今の妾と龍たちの力では、ちと足らぬ』
しぶしぶ、母神は答える。
召喚よりも送り帰す方が困難であり、弱まっているこの世界の力では、正しく元の時空軸に戻せる可能性が低いのだ。
「力が増えれば、帰れるんですね?」
『あちらの世界との、繋がりも必要じゃ』
芽依は考え、ふと胸のネックレスに手を置いた。これは、和葉のピアスと対になっている。これこそ、繋がりではないだろうか。
「このネックレスは?友達のピアスとセットで1つだから」
『ほぉ、澄んだ力に満ちておるな。うむ、繋がりの糸もあるようじゃし、充分じゃ』
「それなら、あとは力を増やせば帰れるんですね?」
『そうじゃ』
「どうしたら、増えるんですか?わたし、手伝いますから…」
『なんと!やってくれるか!では、そこな蒼龍と共に地上の国々を巡り、全ての龍たちを癒すのじゃ。さすれば、世界の力は満ち、巡り、妾の力も存分に使えるというもの。』
母神は、芽依の言葉を遮ると、一気にまくし立てた。蒼龍と芽依が何かを言う前に、言うだけ言って光に包まれた。
『ではな!』
さっと、光の中に消えて行った母神に、蒼龍と芽依は呆気にとられていた。
「行っちゃいました…」
『すまぬ』
「とりあえず、ここから出て、国々?を、巡ればいいんですかね?」
『そうだな。いや、其方はこの世界ではまだ幼子だ。人とは弱い生き物である故、一先ず我が守護するクランの神殿へ行くか』
「うぅ~、この世界のこととか、よくわからないので、いろいろお願いします」
芽依がぺこりと頭を下げると、蒼龍は穏やかに頷いた。芽依が小さいため、背に乗せるのは危険があると、手の中に優しく包むと、蒼龍はゆっくりと飛び立った。
芽依は隙間から外を覗き、ここが異世界であることを再認識した。
箱庭のように白い壁で覆われていた花畑は、神殿からすぐ近くの場所にあった。
上空からから見える世界は、日本とはかけはなれていた。高いビルなどは無く、石積みの可愛らしい家々が並んでいる。車は見当たらず、馬車が走り、中世の西洋の風景だと、芽依は感じた。
「ファンタジー…」
芽依の呟きは、空に吸い込まれていく。
短い空中散歩を終えると、蒼龍は神殿の中庭に降り立った。
落ち着いてくると、芽依は些細なことで泣きわめいしまった自分が恥ずかしくなる。日々のストレスもあり、感情的になったのだろう。久しぶりに泣いたため、少し頭が重く感じる。
そっと顔を上げ、龍の様子を窺うと、目が合った。
「ご、ごめんにゃしゃい!急に、あの、それと、ありがとうごじゃいました?」
わたわたと舌を噛みつつ、芽依は龍から離れ、ぺこりと頭を下げた。
『落ち着いたか?』
「はい~、もぅ大丈夫です」
『では、話を続けるぞ。我はクラン・ネイファを守護する蒼龍だ。永き眠りの淵から、其方の気によって癒され目覚めた。礼を言おう』
民の心が離れたため、力が弱まり眠っていた蒼龍は、突然暖かい気が流れ込み、力が満ちるのを感じた。
地上には、自身の分身とも言える神木がある。その神木を通して、癒しの力が働いたのだ。
「わたし?何もしてないけど…」
この木に抱きついて、すりすりしたくらいだ。
『其方は、この世界にはない存在。膨大な魔力も有しているな。はぁ…あの方か…』
龍が溜息ついてる。かわいいな!
芽依が内心悶えていると、蒼龍のすぐ上に光が生まれた。
『呼んだかのう~?』
空中にパッと現れたのは、10歳くらいに見える少女だった。身長よりも長い真っ直ぐな闇色の髪は、まるで水中にいるかのように、ふわりふわりと揺れている。
奈良時代の服によく似た着物は、プリーツスカートのようで、可愛らしかった。鮮やかな朱色に、黄金の花が描かれている。
『母神よ、貴女ですね』
『何を怒っておる?』
きょとんとする少女と、それを叱る龍。
なんとも、シュールな絵だと、芽依は他人事に思い、眺めていた。
『やはり、兄神の国の人間は、想像力が豊かでいぃのぉ。これで安心じゃな!』
『そうではないであろう!我らが世界の問題に、異世界の幼子を巻き込むなど。貴女はいつも、そう思いつきで行動ばかりなさる!』
『うっ…、しかしの、あのままでは、みなが、消えてしまうところじゃったんじゃ!妾は、嫌じゃ!しかと成人した者を召喚の対象にしたぞ!』
『では、何故ここに幼子が居るのだ』
蒼龍と母神の視線が、芽依に注がれる。
『なぜじゃ!どう見ても、30歳前後ではないか!』
「あのぉ…、わたし、この世界の人間じゃないんですよね?」
『そうだ。母神によって、異世界より召喚されたようだ。迷惑をかける…』
芽依を見つめて固まっている母神にかわり、蒼龍が答える。
芽依は、低くなっていた視界が、体が縮んだためだと理解した。異世界召喚という出来事に加え、幼児になっていたことに、芽依は眩暈をおぼえると、はぁ、と溜息を吐いた。
芽依の世界では、成人は20歳であるが、こちらの世界では30歳を幼子と言っている。
このことが、縮んだことに原因があるのかもしれないと、芽依は考えた。
「わたしの世界だと、成人は20歳なので、30歳のわたしは、立派な大人なんですが」
『なんじゃと?!なるほど、それ故か。すまぬ、世界で時の流れの違いがあることを、失念しておったわ…。まぁ、本人が大人と言うておるのじゃから、良しとしようではないか!』
『ですから、問題はそこだけでは…』
「あ、あの!わたし、帰りたいんですけど」
芽依が話に割って入ると、沈黙が降りた。
蒼龍はジロリと、母神を睨めつけており、母神は、唇を尖らせている。
芽依は思い切って、もう一度口を開いた。
「帰れるんですよね?ね?!」
母神は、うぅ~と唸ると、空中で地団駄を踏んだ。
『ダメじゃ~!嫌じゃ~!』
『母神よ、駄々をこねるでない。召喚できたのだから、帰せるであろう』
『すぐには、無理じゃ…。無理をした故、今の妾と龍たちの力では、ちと足らぬ』
しぶしぶ、母神は答える。
召喚よりも送り帰す方が困難であり、弱まっているこの世界の力では、正しく元の時空軸に戻せる可能性が低いのだ。
「力が増えれば、帰れるんですね?」
『あちらの世界との、繋がりも必要じゃ』
芽依は考え、ふと胸のネックレスに手を置いた。これは、和葉のピアスと対になっている。これこそ、繋がりではないだろうか。
「このネックレスは?友達のピアスとセットで1つだから」
『ほぉ、澄んだ力に満ちておるな。うむ、繋がりの糸もあるようじゃし、充分じゃ』
「それなら、あとは力を増やせば帰れるんですね?」
『そうじゃ』
「どうしたら、増えるんですか?わたし、手伝いますから…」
『なんと!やってくれるか!では、そこな蒼龍と共に地上の国々を巡り、全ての龍たちを癒すのじゃ。さすれば、世界の力は満ち、巡り、妾の力も存分に使えるというもの。』
母神は、芽依の言葉を遮ると、一気にまくし立てた。蒼龍と芽依が何かを言う前に、言うだけ言って光に包まれた。
『ではな!』
さっと、光の中に消えて行った母神に、蒼龍と芽依は呆気にとられていた。
「行っちゃいました…」
『すまぬ』
「とりあえず、ここから出て、国々?を、巡ればいいんですかね?」
『そうだな。いや、其方はこの世界ではまだ幼子だ。人とは弱い生き物である故、一先ず我が守護するクランの神殿へ行くか』
「うぅ~、この世界のこととか、よくわからないので、いろいろお願いします」
芽依がぺこりと頭を下げると、蒼龍は穏やかに頷いた。芽依が小さいため、背に乗せるのは危険があると、手の中に優しく包むと、蒼龍はゆっくりと飛び立った。
芽依は隙間から外を覗き、ここが異世界であることを再認識した。
箱庭のように白い壁で覆われていた花畑は、神殿からすぐ近くの場所にあった。
上空からから見える世界は、日本とはかけはなれていた。高いビルなどは無く、石積みの可愛らしい家々が並んでいる。車は見当たらず、馬車が走り、中世の西洋の風景だと、芽依は感じた。
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芽依の呟きは、空に吸い込まれていく。
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