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クラン・ネイファ王国
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クラン・ネイファ王国は、狼族が住まう国である。その毛色は、灰褐色から黒がほとんどで、王家のみ、白い色を持っていた。
王宮では、日々広がって行く病と、続く日照りに困窮していた。
「キラン、神殿から返事はまだか」
クランの王であるファーガルは、解決策の見つからない会議に頭を抱えていた。
王家と神殿では、神の力が弱まっていることに気がついていた。しかし、対策がわからず、会議は進まなかった。その間に、病が広がりはじめてしまったのだ。
王宮内では、白魔法の使い手を召集し、臨時の治療院の開設などが進められている。だが近年、魔力を有する者も、それを扱える者も減ってきている。そのため、病の広がりが抑えられずにいるのだ。
キランは、次々と届く書類を手に、ファーガルへと目を向けた。
「先程催促にユアンを出したばかりですよ、陛下」
「しかしな、こうも手詰まりでは…」
執務室に沈黙が落ちる…と、廊下が急に騒がしくなってきた。
平時ではありえない、ドタドタと走る足音が近づいてくるのだ。
「騒がしいな、何かあったか」
ファーガルは、キランに目で促した。
「陛下はおさがりください」
キランは頷き、立ち上がると扉に目を向ける。
それと同時に、扉が忙しなく叩かれた。
「陛下!閣下!神殿より使者を連れて参りました!急を要するとのことであります!」
駆けてきたのは、使いに出していたユアンだった。
待ちわびた知らせに、ファーガルは立ち上がった。
「入れ」
キランが短く告げると、ユアンと共に神殿騎士が入ってきた。
騎士は、すっと騎士の礼をとる。
「待ちわびたぞ。さぁ、面を上げよ。何か策は見つかったか」
ファーガルが、急かす様に問いかける。
騎士は、「はっ」と答え、顔を上げた。
「神官長様より、お言葉を預かって参りました。神殿の奥、聖域とされている神木の箱庭に、膨大な魔力が出現しました。それと同時に多くの精霊が集まってきているとのことです。また、わずかですが、神力の高まりが見られたそうです…」
「なんと!」
ファーガルは驚愕し、騎士の言葉を遮った。近年、失われてきた神の加護が戻るかもしれないのだ。
神力が戻り、加護を得られれば、気候も穏やかになるだろうし、民の心も癒される。
「報告を続けてください」
キランは、この事態に驚いてはいるが、騎士の言葉の続きを促した。
「はっ。また、神官長様は、世界神様よりお告げもいただいたとのことです」
「ほう、神託もか」
「陛下、いちいち口を挟まれると、話が進みません。さ、続けなさい」
神託が告げられることは、各国でも稀にあることだった。しかし、それは年に一度の祭事の時である。
ファーガルは稀なる出来事に、現状も打破されるのではないかと、期待が膨らんだ。
「まもなくクランの守護神蒼龍が神の癒し手である少女とともに降り立つ、とのこと。神殿では、お迎えするための準備が進められております」
執務室は、またもや静寂が支配した。
クラン・ネイファ王国では、神殿において世界神と共に、守護神として蒼龍を祀っており、数百年前の古文書などでは、蒼龍は頻繁に地上に降り立っていたことが記されている。しかし、昨今ではその姿は神殿の彫刻で見られるだけとなっていた。
その蒼龍が、地上に降りて来るという。
ファーガルは、自身が王位にある時に、この様な僥倖に恵まれるとは思っていなかった。
また、蒼龍と共に来る少女は、癒し手と言うからには、白魔法も扱えるのであろう。
「日々の祈りが、神の御許まで届いたのか」
ファーガルは呟き、一時瞳を閉じた。
「では、私が参りましょう」
「キラン!」
神託があったと報告を受けたからには、王宮として後手にまわるわけにはいかない。
キランは、早急に各部署へ指示を出し、神殿へと向かうことにした。
「ユアンは、私と共に神殿へ」
「はっ、お供いたします」
「くっ、余も行きたいが、今はキランに任せるのが賢明か。しかと、その目で確認してまいれ」
「このキラン、しかとこの目で確認して参ります」
キランは、深く礼をすると、神殿騎士に案内を任せた。
神殿までは、馬で1時間かかる。
王宮を、三頭の馬が駆け出た頃、神殿の中庭には蒼龍が少女をその手に包んで、降り立ったのであった。
王宮では、日々広がって行く病と、続く日照りに困窮していた。
「キラン、神殿から返事はまだか」
クランの王であるファーガルは、解決策の見つからない会議に頭を抱えていた。
王家と神殿では、神の力が弱まっていることに気がついていた。しかし、対策がわからず、会議は進まなかった。その間に、病が広がりはじめてしまったのだ。
王宮内では、白魔法の使い手を召集し、臨時の治療院の開設などが進められている。だが近年、魔力を有する者も、それを扱える者も減ってきている。そのため、病の広がりが抑えられずにいるのだ。
キランは、次々と届く書類を手に、ファーガルへと目を向けた。
「先程催促にユアンを出したばかりですよ、陛下」
「しかしな、こうも手詰まりでは…」
執務室に沈黙が落ちる…と、廊下が急に騒がしくなってきた。
平時ではありえない、ドタドタと走る足音が近づいてくるのだ。
「騒がしいな、何かあったか」
ファーガルは、キランに目で促した。
「陛下はおさがりください」
キランは頷き、立ち上がると扉に目を向ける。
それと同時に、扉が忙しなく叩かれた。
「陛下!閣下!神殿より使者を連れて参りました!急を要するとのことであります!」
駆けてきたのは、使いに出していたユアンだった。
待ちわびた知らせに、ファーガルは立ち上がった。
「入れ」
キランが短く告げると、ユアンと共に神殿騎士が入ってきた。
騎士は、すっと騎士の礼をとる。
「待ちわびたぞ。さぁ、面を上げよ。何か策は見つかったか」
ファーガルが、急かす様に問いかける。
騎士は、「はっ」と答え、顔を上げた。
「神官長様より、お言葉を預かって参りました。神殿の奥、聖域とされている神木の箱庭に、膨大な魔力が出現しました。それと同時に多くの精霊が集まってきているとのことです。また、わずかですが、神力の高まりが見られたそうです…」
「なんと!」
ファーガルは驚愕し、騎士の言葉を遮った。近年、失われてきた神の加護が戻るかもしれないのだ。
神力が戻り、加護を得られれば、気候も穏やかになるだろうし、民の心も癒される。
「報告を続けてください」
キランは、この事態に驚いてはいるが、騎士の言葉の続きを促した。
「はっ。また、神官長様は、世界神様よりお告げもいただいたとのことです」
「ほう、神託もか」
「陛下、いちいち口を挟まれると、話が進みません。さ、続けなさい」
神託が告げられることは、各国でも稀にあることだった。しかし、それは年に一度の祭事の時である。
ファーガルは稀なる出来事に、現状も打破されるのではないかと、期待が膨らんだ。
「まもなくクランの守護神蒼龍が神の癒し手である少女とともに降り立つ、とのこと。神殿では、お迎えするための準備が進められております」
執務室は、またもや静寂が支配した。
クラン・ネイファ王国では、神殿において世界神と共に、守護神として蒼龍を祀っており、数百年前の古文書などでは、蒼龍は頻繁に地上に降り立っていたことが記されている。しかし、昨今ではその姿は神殿の彫刻で見られるだけとなっていた。
その蒼龍が、地上に降りて来るという。
ファーガルは、自身が王位にある時に、この様な僥倖に恵まれるとは思っていなかった。
また、蒼龍と共に来る少女は、癒し手と言うからには、白魔法も扱えるのであろう。
「日々の祈りが、神の御許まで届いたのか」
ファーガルは呟き、一時瞳を閉じた。
「では、私が参りましょう」
「キラン!」
神託があったと報告を受けたからには、王宮として後手にまわるわけにはいかない。
キランは、早急に各部署へ指示を出し、神殿へと向かうことにした。
「ユアンは、私と共に神殿へ」
「はっ、お供いたします」
「くっ、余も行きたいが、今はキランに任せるのが賢明か。しかと、その目で確認してまいれ」
「このキラン、しかとこの目で確認して参ります」
キランは、深く礼をすると、神殿騎士に案内を任せた。
神殿までは、馬で1時間かかる。
王宮を、三頭の馬が駆け出た頃、神殿の中庭には蒼龍が少女をその手に包んで、降り立ったのであった。
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