禁断のrainbow rose

秋村篠弥

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紅月先生がデキルまで

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  小さい足を交互に出し、駆ける。だが、その速さは大人のものには及ばない。その時の自分に対しては、上出来な一歩一歩だったはずだが。
昔から、スポーツは好きだった。今では仕事柄やらなくなってしまい、体を動かすのにも疎くなってしまった。
 スポーツ少年、それが俺のあだ名だった程だ。ある日は、バットを担いで。ある日は、サッカーボールを抱えて。近くの公園に友人と集まった。イジメなどはなく、みんな伸び伸びと過ごしていた。
 小学校時代にはアノ要素は皆無だったんだ。
 なら、どこだ?どこで、俺はアノ快楽を知ってしまった?
 恋愛は、高校一年生で止めたんだ。その経緯については、あまり話したくない。良いものではないからな。
 気がつけば、俺は夕日が差す高校の教室にいた。放課後だろう。廊下からも何も聞こえない。静かな空間に忽然と現れたモノ。
 違和感しか感じない。だが、それは誰にも意識されること無く生きた。
 自分が座っているイスが、妙にしっくりくる。今はこちら側になることは無い。大体黒板の手前に立って、チョークを持って……。
「悪ぃ、遅れた!」
 感傷に浸っているとドアが勢いよく開き、幼馴染みの蒼原剣が息を切らしていた。
「遅れたって……なにに?」
 彼の姿は、数年前のまだ少年が払拭出来ていないものだった。
「は?お前との約束に決まってんだろ」
 奇妙なものを見るように、蒼原は紅月の隣の席に座った。
「ほら、お前も出せよ」
 紅月は、隣でネクタイを緩めカバンを漁りだす蒼原に、何を出したら良いのか分からなかった。
 彼の漁る手をそのまま眺めていると、蒼原がついに言った。
「お前、理数系なんだろ。俺に教えてくれるって約束したじゃないか」
「あぁ、そうか。お前、進路変更したんだっけか?」
 覚えている、剣はずっと文科系に長けていたのに、いきなり俺と一緒にしだしたのだ。対抗心からか、それとも本当に進路を変えたのだろうか?
「あぁ、俺理科系教師になる」
 俺とキャラ丸かぶりじゃないか。
 俺の記憶が正しければ、蒼原剣は……俺の、
「…………さん?……さん!」
 次第に白けていた視界が色味を増す。
「お客さん!終点ですよ!」
 どうやら、電車が終点まで来てしまったようだ。
「お客さん、終電で乗り過ごしですか…」
 きっと次の日が休みだから、気を緩めて眠ってしまったのだろう。
 哀れそうに言う駅員を一瞥すると、短い悲鳴を上げた。誰も睨んでないのにな。
「どうも」
 そう言い、俺は電車から降りた。
 ガランと静まり返ったホームに、朝の騒がしさとは真逆の寂しさを感じた。
「寂しい、か。俺でもそんな事を思ってんだな」
 自分の歪んだ性格をあざ笑う。平気ではなかった。途中で降りなければいけない駅を乗り過ごし、それも終点。向かい側のホームに、電車が来ることはない。
 次の日が休みである事が不幸中の幸いではあるが。
 タクシーか、あるいは……。
 「よー!お前からなんて、俺嬉しいぞ?」
 やけにテンションが高い。もう飲んでいるのかもしれない。
『迎えに来い』
『おう!お前のいる所に俺だからな!すぐ行く』
 電話で駅名を伝え、約10分後奴が運転する車はやってきた。
「よっ!鎧ちゃん、迎えに来てやったぜ!」
 窓を開け、そこに肘をかけ、嬉しそうに身を乗り出す彼。
 昔から変わらない陽気な性格、輝く八重歯、人懐っこい雰囲気。それは確かに、俺達が会った日から変わっていない。だが、彼は俺の中では印象をコロコロ変える。
「あ、紅月先生の方が良いか!」
「結構だ、蒼原剣社長」
 そう言うと、照れ臭そうな表情をして、視線を俺から外した。
 乗っている車だって身の丈に合うイタリアの外車だ。
「飲んでなかったんだな」
「おぅ、まだ飲んでないな…いやぁ鎧ちゃんと飲めるんだったら1杯引っ掛けてくれば良かったなぁ」
「引っ掛けたら運転出来ないだろ」
「あぁ、それもそうだな」
 彼は笑い、隣のドアを開ける、俺は助手席に回り込み乗る。嗅ぎなれない香水の匂いに、頭がクラクラした。
「俺の家へレッツゴー!」
「お前の家へレッツゴーじゃねぇよ、俺の家だよ」
「はぁ?俺を呼んでおいてタダでかえれると思うなよ?」
 彼は視線はそのまま前を見ていたが、口の端だけは明らかに上がっていた。
 それから、昔話に花を咲かせ、初恋人や現在蒼原が付き合っている女性との恋バナを聞いたりした。恋愛などは、基本嫌いなのだが、蒼原が話すその手の話は好きだった。
 たぶん、話なんて何だっていいんだろう、彼が話せば。
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