禁断のblue rose

秋村篠弥

文字の大きさ
14 / 14
2 第2章 ~絡み合う糸の先端~

過去と察しは使いよう

しおりを挟む
「ふざけんなぁ!」
そう気迫のある声が聞こえたかと思うと、目の前の男子の頭上に勢いよくバッドが落ちた。
カランカランッ
シーンとなっていた場にリズム良く転がるバッド。
その予想もしなかった光景に周りの男子も狼狽えた。
そして1人が、バッドを振り下ろした彼女の脇を通り、玄関から逃げていくとそれに続きみんな出ていってしまった。
「根性ねぇなら最初からヤんなよなぁ、男ってホント阿呆」
そう言って私の前にしゃがむと、自分の着ていた上着を肩にかけ、頭を優しく撫でてくれた。
「怖かったな、ごめんな、気付いてあげられなくて」
私はその一言に、感謝を通り越して怒りさえ湧いてきた。
何で…、何で来てくれたの?何で謝るの?何で慰めてくれるの?何で、こんなにも暖かいの…?
「ぁりがとぅ」
私は弱々しい感謝の言葉を口に出す。
「無事で良かった」
その言葉を聞いて、私の頬に暖かい何かが伝った。


「はっ!」
目を覚ますといつもと同じ天井がそこにはあった。
たまにうなされる、凌との馴れ初め。
好きになってしまったきっかけの夢を見てしまう。
ユキは高校の時、1度しつこく告白された先輩と付き合ってしまった事がある。それがまた女に手を出す男だった。
気に入らなければ髪を引っ張られ、人気のない所へ連れて行かれ、蹴られたり殴られたりした。
だからもう学校外では会わないと決め、デートの約束も断っていた。そんなある日、学校で泣き付かれ、家に来て欲しいと言われ行ってしまった。
その後はレイプまがいのことをされかけた…。
そう、され掛けた、ですんだのだ。
いつもユキの隣にいる、カノジョのおかげで。

それは一見して、トラウマを抉り返されるものであるはずなのに、そう言いきれない懐かしい心地の良い感じがある。
夢だから美化されてしまっているのかもしれないけれど。
私はあの日以来、凌に好意を抱いている。一般では認めてもらえなさそうな、そんな恋心。
あぁ、何でこんな夢を見てしまったのか分かった、彩織さんが聞いてきたからね。
ユキは凌への気持ちを本人に伝えたら幸せだなぁと、思っていた。
もちろん、伝えなくても、伝えても今も十分幸せなのだが。

「あぁ~、眠いなぁ~」
龍都は自分のせいでギリギリの時間に家を出たのにそんな呑気なことを抜かしていた。
「何だよ!龍都のせいで時間ギリギリになっちゃったんだぞ!少しくらい急いでよ!」
その言葉に、龍都は微笑んで僕の頬をつつく。
「何プリプリしてんだよー、なら俺を残して大翔だけ先に出ちゃったら良かったじゃないか~」
それが出来ない事を知ってそんな軽口を叩く。
「それが出来たら僕に今の不満は無いよーだ!」
そう言って少し大股で歩くが、龍都の方が悔しい事に足が長いのですぐ追いつかれてしまう。
僕のこのプリプリは校門前まで続いた。
「おっは~」
凌の挨拶に、僕と龍都は会釈なり、手を挙げるなりして答えた。
「おはよう2カップルとも!」
タイミングよく来た彩織も混じっていつものメンバー…、
「2カップルってなんだ!」
僕のツッコミにみんな朝から笑っていた。
なんだなんだ、気になるのは僕だけか?
腑に落ちないまま、僕らはそれぞれの教室に足を運んだ。

「私、凌にコクハクする!」
昼休み、僕達3人はいつも通り5時限目の2人を待つために食堂へ向かう。
そこでユキが珍しく意を決して言い放った。
「うにゅ?」
「おお!」
僕はいきなりの宣言に驚き言葉にならなかったが、彩織は遂に来たか、拍手する勢いだった。
「なして、そう思ったの?」
彩織の問いにユキは恥ずかしそうに答えた。
「私、凌の何が好きなのか、とかいつから好きなのか、とかずっと気にしてた。けど、あの日から彼女には惹かれていたんだなって思ったら、そしたらもう私の愛を彼女にも受け取って欲しくて」
「愛がエゴなのは知ってる、でも」
付け加えて言うユキに、彩織は静かに言った。
「エゴだって分かってるなら加減を気にすればいい事、エゴだなんだって言ってたら、始まるものも始まらなくなるからね!応援してる」
その言葉に、ユキは安心したように、微笑んだ。
「僕も、応援してるよ、2人は2人で幸せになるべきだ」
「ありがとう、2人とも」
今にも泣きそうなユキに、彩織が慌てて言う。
「コラコラ、泣いたらご飯が塩っぱくなるぞ!それに可愛い顔が腫れちゃったらどうすんのさ」
ユキはハッとしてグッと堪えた。そして嬉しそうに
「持つべきものは、友人だね」と言った。

その後、食堂を後にした僕達は、図書館へ向かった。
その合間に、ユキは凌に『大事な話があるから、授業終わり次第、中庭に来て欲しい』と連絡をしていた。
何だか結果は分かりきっているようなものだけど、僕らもドキドキだった。
と言っても、2人が上手くいっても、傍からじゃ何も変わらないだろうけど。変わるとしたら…後に夜の営みが入るか、くらい?

それから数十分後…、
ユキがソワソワし始めた、もうそろそろ授業が終わる時間だ。
僕らも同じようにいてもたってもいられなくなりそうな気持ちを抑えていた。そして、連絡がユキの携帯に入った。
『お疲れ様、ユキ。今から行くよ』
ユキがバっと立ち上がる、拳を握り、どことなく緊張で震えている様な気がする。
そんな彼女の手を握り、彩織は言う。
「大丈夫よ、きちんと伝えてきな、ね?」
ユキは数回頷くとバッグを持って走っていった。
「また明日~!」
その背中に手を振る。
「ユキ、大丈夫かなぁ?」
僕の間抜けな言葉に、彩織は、
「まぁどこかで確信あって言ってるんでしょ、だってそうじゃないと告白して断られた後の気まずさなんて考えたら正気じゃないよ」
と言う。
正論だ。


しおりを挟む
感想 3

この作品の感想を投稿する

みんなの感想(3件)

羅刹十鬼
2018.07.29 羅刹十鬼
ネタバレ含む
2018.07.29 秋村篠弥

ありがとう❗
早い反応とても嬉しいです。
実は温めていたのだったのですが、別の物語の新作が出そうだったので出しちゃいました。(´>∀<`)ゝ
いつも、コメントホントにありがとうございます✨✨
ガンバります(≧▽≦)

解除
羅刹十鬼
2016.12.17 羅刹十鬼
ネタバレ含む
解除
羅刹十鬼
2016.12.17 羅刹十鬼
ネタバレ含む
解除

あなたにおすすめの小説

平凡ワンコ系が憧れの幼なじみにめちゃくちゃにされちゃう話(小説版)

優狗レエス
BL
Ultra∞maniacの続きです。短編連作になっています。 本編とちがってキャラクターそれぞれ一人称の小説です。

上司、快楽に沈むまで

赤林檎
BL
完璧な男――それが、営業部課長・**榊(さかき)**の社内での評判だった。 冷静沈着、部下にも厳しい。私生活の噂すら立たないほどの隙のなさ。 だが、その“完璧”が崩れる日がくるとは、誰も想像していなかった。 入社三年目の篠原は、榊の直属の部下。 真面目だが強気で、どこか挑発的な笑みを浮かべる青年。 ある夜、取引先とのトラブル対応で二人だけが残ったオフィスで、 篠原は上司に向かって、いつもの穏やかな口調を崩した。「……そんな顔、部下には見せないんですね」 疲労で僅かに緩んだ榊の表情。 その弱さを見逃さず、篠原はデスク越しに距離を詰める。 「強がらなくていいですよ。俺の前では、もう」 指先が榊のネクタイを掴む。 引き寄せられた瞬間、榊の理性は音を立てて崩れた。 拒むことも、許すこともできないまま、 彼は“部下”の手によって、ひとつずつ乱されていく。 言葉で支配され、触れられるたびに、自分の知らなかった感情と快楽を知る。それは、上司としての誇りを壊すほどに甘く、逃れられないほどに深い。 だが、篠原の視線の奥に宿るのは、ただの欲望ではなかった。 そこには、ずっと榊だけを見つめ続けてきた、静かな執着がある。 「俺、前から思ってたんです。  あなたが誰かに“支配される”ところ、きっと綺麗だろうなって」 支配する側だったはずの男が、 支配されることで初めて“生きている”と感じてしまう――。 上司と部下、立場も理性も、すべてが絡み合うオフィスの夜。 秘密の扉を開けた榊は、もう戻れない。 快楽に溺れるその瞬間まで、彼を待つのは破滅か、それとも救いか。 ――これは、ひとりの上司が“愛”という名の支配に沈んでいく物語。

後宮の男妃

紅林
BL
碧凌帝国には年老いた名君がいた。 もう間もなくその命尽きると噂される宮殿で皇帝の寵愛を一身に受けていると噂される男妃のお話。

久々に幼なじみの家に遊びに行ったら、寝ている間に…

しゅうじつ
BL
俺の隣の家に住んでいる有沢は幼なじみだ。 高校に入ってからは、学校で話したり遊んだりするくらいの仲だったが、今日数人の友達と彼の家に遊びに行くことになった。 数年ぶりの幼なじみの家を懐かしんでいる中、いつの間にか友人たちは帰っており、幼なじみと2人きりに。 そこで俺は彼の部屋であるものを見つけてしまい、部屋に来た有沢に咄嗟に寝たフリをするが…

ある日、友達とキスをした

Kokonuca.
BL
ゲームで親友とキスをした…のはいいけれど、次の日から親友からの連絡は途切れ、会えた時にはいつも僕がいた場所には違う子がいた

BL 男達の性事情

蔵屋
BL
漁師の仕事は、海や川で魚介類を獲ることである。 漁獲だけでなく、養殖業に携わる漁師もいる。 漁師の仕事は多岐にわたる。 例えば漁船の操縦や漁具の準備や漁獲物の処理等。 陸上での魚の選別や船や漁具の手入れなど、 多彩だ。 漁師の日常は毎日漁に出て魚介類を獲るのが主な業務だ。 漁獲とは海や川で魚介類を獲ること。 養殖の場合は魚介類を育ててから出荷する養殖業もある。 陸上作業の場合は獲った魚の選別、船や漁具の手入れを行うことだ。 漁業の種類と言われる仕事がある。 漁師の仕事だ。 仕事の内容は漁を行う場所や方法によって多様である。 沿岸漁業と言われる比較的に浜から近い漁場で行われ、日帰りが基本。 日本の漁師の多くがこの形態なのだ。 沖合(近海)漁業という仕事もある。 沿岸漁業よりも遠い漁場で行われる。 遠洋漁業は数ヶ月以上漁船で生活することになる。 内水面漁業というのは川や湖で行われる漁業のことだ。 漁師の働き方は、さまざま。 漁業の種類や狙う魚によって異なるのだ。 出漁時間は早朝や深夜に出漁し、市場が開くまでに港に戻り魚の選別を終えるという仕事が日常である。 休日でも釣りをしたり、漁具の手入れをしたりと、海を愛する男達が多い。 個人事業主になれば漁船や漁具を自分で用意し、漁業権などの資格も必要になってくる。 漁師には、豊富な知識と経験が必要だ。 専門知識は魚類の生態や漁場に関する知識、漁法の技術と言えるだろう。 資格は小型船舶操縦士免許、海上特殊無線技士免許、潜水士免許などの資格があれば役に立つ。 漁師の仕事は、自然を相手にする厳しさもあるが大きなやりがいがある。 食の提供は人々の毎日の食卓に新鮮な海の幸を届ける重要な役割を担っているのだ。 地域との連携も必要である。 沿岸漁業では地域社会との結びつきが強く、地元のイベントにも関わってくる。 この物語の主人公は極楽翔太。18歳。 翔太は来年4月から地元で漁師となり働くことが決まっている。 もう一人の主人公は木下英二。28歳。 地元で料理旅館を経営するオーナー。 翔太がアルバイトしている地元のガソリンスタンドで英二と偶然あったのだ。 この物語の始まりである。 この物語はフィクションです。 この物語に出てくる団体名や個人名など同じであってもまったく関係ありません。

  【完結】 男達の性宴

蔵屋
BL
  僕が通う高校の学校医望月先生に  今夜8時に来るよう、青山のホテルに  誘われた。  ホテルに来れば会場に案内すると  言われ、会場案内図を渡された。  高三最後の夏休み。家業を継ぐ僕を  早くも社会人扱いする両親。  僕は嬉しくて夕食後、バイクに乗り、  東京へ飛ばして行った。

王子を身籠りました

青の雀
恋愛
婚約者である王太子から、毒を盛って殺そうとした冤罪をかけられ収監されるが、その時すでに王太子の子供を身籠っていたセレンティー。 王太子に黙って、出産するも子供の容姿が王家特有の金髪金眼だった。 再び、王太子が毒を盛られ、死にかけた時、我が子と対面するが…というお話。

処理中です...
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。

このユーザをミュートしますか?

※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。