2 / 82
第2話 彼の「奴隷」
しおりを挟む
「おはようございます、御主人様」
目の前の銀髪の少女は、彼を見ながらそう言いました。
それは、もはや私の妹ではありません。
妹の姿をした、完全な別人でした。
「おはよう、ミーシャ。お前は、今日から俺の『奴隷』だ。分かったな?」
「はい、御主人様」
その少女は……ミーシャと同じ姿形で、そして、ミーシャと同じ声で……。
本日この町にやって来て、知り合ったばかりの男の……「奴隷」としての振る舞いをしたのです。
私は、しばらくの間、あらゆる思考を停止してしまいました。
「……ミーシャ?」
私が名前を呼んでも、ミーシャは、いつもの愛らしい笑顔を浮かべることはありませんでした。
ただ、つまらないものを見るような目で、私を一瞬だけ見たのです。
それは……明確に、私が妹を失った瞬間でした。
「おい、女。お前の妹だったミーシャは、今日から俺の『奴隷』として生まれ変わった。というわけで、お前とミーシャは今日から他人だ。だから、俺はこいつを旅に連れて行く。分かったな?」
「待ってください! ミーシャの身体を、お助けいただいて……その身体は、今までどおりに暮らすのではないのですか!?」
「馬鹿かお前は? ミーシャは生まれ変わったんだ。お前の妹として振る舞うはずがないだろう?」
「そんな……! それは、あまりにも非道ではないですか! 私にミーシャを返してください!」
「……いいか、女。よく聞け」
彼は、私のことを見下すような目をしながら、ミーシャの頭に手を乗せました。
そんな彼を、ミーシャの姿をした彼の「奴隷」は、嬉しそうな顔をしながら見上げています。
それは、見ることが耐え難い光景でした。
「俺は、マニに食われた女を、俺の女に作り変えて集めている。今日から、ミーシャは俺のコレクションだ。それを奪い取ろうとする奴は……殺すぞ?」
「そんな……!」
「せっかくだ。いっそのこと、ミーシャに殺されてみるか? 今のミーシャは、俺の女に相応しい力を手に入れている。ナイフの1本でもあれば、お前のことなど、一瞬で切り刻んでみせるはずだ。嘘だと思うなら、その身体で試してみればいい」
彼は、楽しそうに笑いました。
まるで、人生最高のアイディアを思い付いた、とでも言わんばかりの態度です。
この男は……最低最悪の人でなしだ。そう思いました。
私の心に、生まれて初めて、ドス黒い感情が芽生えました。
出来ることなら、今すぐに、この極悪非道な男を殺してしまいたい。
しかし……それが難しいことは理解していました。
先ほどマニを仕留めた少女達の様子を見れば、彼女達が相当な実力者であることは容易に推測できます。
そして、彼女達は、この最低な男のことを兄や父として慕っているのです。
彼は、ミーシャも他の少女と同じような力を手に入れたと言いました。
この、人の道に外れた男は、少女達に強大な力を与えることができる……ということなのでしょうか?
そのような魔法は、見たことも聞いたこともありません。
しかし、口から出任せを言っているようには思えませんでした。
私には、力尽くで妹を取り戻すことなどできません。
しかし、私のたった1人の大切な妹を、この極悪非道な男に委ねることなど、できるはずがありませんでした。
「でしたら……私を、妹と共に連れて行ってください!」
私は、必死に懇願しました。
もはや、これしか方法がありません。
こんな男と共に旅をするのは、到底耐えられないことです。
しかし、とにかく妹と一緒にいることが、何よりも重要だと思いました。
共に旅をしていれば、男の隙を窺うことも、ミーシャを説得することも可能でしょう。
何とかして、妹を彼から取り戻す方法を見付けねばなりません。
しかし、彼は……私の言葉を聞いて、鼻で笑いました。
「馬鹿な奴だ。誰がお前など連れて行くか!」
「お願いします! 私も、ミーシャと一緒に……貴方の奴隷にしてください!」
私は、最大限の譲歩をしました。
こんな男の奴隷になったら、どれ程悲惨な目に遭うか……想像するだけでも恐ろしいことです。
そもそも、この国では、奴隷を使用することは認められておりません。人の道に反しているからです。
しかし、たとえ惨たらしい仕打ちを受けたとしても、ミーシャと一緒ならば耐えられる。そう思いました。
ところが、彼は、私のそんな悲壮な覚悟をも嘲笑いました。
「冗談じゃない。俺の『奴隷』はミーシャだけだ。まあ、どうしてもと言うなら……」
男は、そこまで言ってから、私を下卑た目で眺めました。
「今すぐに、全裸になって跪き、改めてお願いすれば……少しだけ考えてやってもいいぞ?」
「!」
私は、自分の身体を抱いて、後ずさりしました。
そんな私を見て、彼は満足そうな顔をしました。
「お前のような女に、そんなことは出来ないだろう? まあ……仮に出来たとしても、俺の気は変わらないだろうがな」
そう言って、彼はゲラゲラと笑いました。
この男は……私が、それほどのことをして、必死に頼み込んだとしても……妹を連れ去ってしまうと言っているのです。
それを聞いた時、私の頭の中で、何かが弾けたような気がしました。
目の前の銀髪の少女は、彼を見ながらそう言いました。
それは、もはや私の妹ではありません。
妹の姿をした、完全な別人でした。
「おはよう、ミーシャ。お前は、今日から俺の『奴隷』だ。分かったな?」
「はい、御主人様」
その少女は……ミーシャと同じ姿形で、そして、ミーシャと同じ声で……。
本日この町にやって来て、知り合ったばかりの男の……「奴隷」としての振る舞いをしたのです。
私は、しばらくの間、あらゆる思考を停止してしまいました。
「……ミーシャ?」
私が名前を呼んでも、ミーシャは、いつもの愛らしい笑顔を浮かべることはありませんでした。
ただ、つまらないものを見るような目で、私を一瞬だけ見たのです。
それは……明確に、私が妹を失った瞬間でした。
「おい、女。お前の妹だったミーシャは、今日から俺の『奴隷』として生まれ変わった。というわけで、お前とミーシャは今日から他人だ。だから、俺はこいつを旅に連れて行く。分かったな?」
「待ってください! ミーシャの身体を、お助けいただいて……その身体は、今までどおりに暮らすのではないのですか!?」
「馬鹿かお前は? ミーシャは生まれ変わったんだ。お前の妹として振る舞うはずがないだろう?」
「そんな……! それは、あまりにも非道ではないですか! 私にミーシャを返してください!」
「……いいか、女。よく聞け」
彼は、私のことを見下すような目をしながら、ミーシャの頭に手を乗せました。
そんな彼を、ミーシャの姿をした彼の「奴隷」は、嬉しそうな顔をしながら見上げています。
それは、見ることが耐え難い光景でした。
「俺は、マニに食われた女を、俺の女に作り変えて集めている。今日から、ミーシャは俺のコレクションだ。それを奪い取ろうとする奴は……殺すぞ?」
「そんな……!」
「せっかくだ。いっそのこと、ミーシャに殺されてみるか? 今のミーシャは、俺の女に相応しい力を手に入れている。ナイフの1本でもあれば、お前のことなど、一瞬で切り刻んでみせるはずだ。嘘だと思うなら、その身体で試してみればいい」
彼は、楽しそうに笑いました。
まるで、人生最高のアイディアを思い付いた、とでも言わんばかりの態度です。
この男は……最低最悪の人でなしだ。そう思いました。
私の心に、生まれて初めて、ドス黒い感情が芽生えました。
出来ることなら、今すぐに、この極悪非道な男を殺してしまいたい。
しかし……それが難しいことは理解していました。
先ほどマニを仕留めた少女達の様子を見れば、彼女達が相当な実力者であることは容易に推測できます。
そして、彼女達は、この最低な男のことを兄や父として慕っているのです。
彼は、ミーシャも他の少女と同じような力を手に入れたと言いました。
この、人の道に外れた男は、少女達に強大な力を与えることができる……ということなのでしょうか?
そのような魔法は、見たことも聞いたこともありません。
しかし、口から出任せを言っているようには思えませんでした。
私には、力尽くで妹を取り戻すことなどできません。
しかし、私のたった1人の大切な妹を、この極悪非道な男に委ねることなど、できるはずがありませんでした。
「でしたら……私を、妹と共に連れて行ってください!」
私は、必死に懇願しました。
もはや、これしか方法がありません。
こんな男と共に旅をするのは、到底耐えられないことです。
しかし、とにかく妹と一緒にいることが、何よりも重要だと思いました。
共に旅をしていれば、男の隙を窺うことも、ミーシャを説得することも可能でしょう。
何とかして、妹を彼から取り戻す方法を見付けねばなりません。
しかし、彼は……私の言葉を聞いて、鼻で笑いました。
「馬鹿な奴だ。誰がお前など連れて行くか!」
「お願いします! 私も、ミーシャと一緒に……貴方の奴隷にしてください!」
私は、最大限の譲歩をしました。
こんな男の奴隷になったら、どれ程悲惨な目に遭うか……想像するだけでも恐ろしいことです。
そもそも、この国では、奴隷を使用することは認められておりません。人の道に反しているからです。
しかし、たとえ惨たらしい仕打ちを受けたとしても、ミーシャと一緒ならば耐えられる。そう思いました。
ところが、彼は、私のそんな悲壮な覚悟をも嘲笑いました。
「冗談じゃない。俺の『奴隷』はミーシャだけだ。まあ、どうしてもと言うなら……」
男は、そこまで言ってから、私を下卑た目で眺めました。
「今すぐに、全裸になって跪き、改めてお願いすれば……少しだけ考えてやってもいいぞ?」
「!」
私は、自分の身体を抱いて、後ずさりしました。
そんな私を見て、彼は満足そうな顔をしました。
「お前のような女に、そんなことは出来ないだろう? まあ……仮に出来たとしても、俺の気は変わらないだろうがな」
そう言って、彼はゲラゲラと笑いました。
この男は……私が、それほどのことをして、必死に頼み込んだとしても……妹を連れ去ってしまうと言っているのです。
それを聞いた時、私の頭の中で、何かが弾けたような気がしました。
0
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
セクスカリバーをヌキました!
桂
ファンタジー
とある世界の森の奥地に真の勇者だけに抜けると言い伝えられている聖剣「セクスカリバー」が岩に刺さって存在していた。
国一番の剣士の少女ステラはセクスカリバーを抜くことに成功するが、セクスカリバーはステラの膣を鞘代わりにして収まってしまう。
ステラはセクスカリバーを抜けないまま武闘会に出場して……
JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――
のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」
高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。
そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。
でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。
昼間は生徒会長、夜は…ご主人様?
しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。
「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」
手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。
なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。
怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。
だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって――
「…ほんとは、ずっと前から、私…」
ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。
恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。
男女比がおかしい世界の貴族に転生してしまった件
美鈴
ファンタジー
転生したのは男性が少ない世界!?貴族に生まれたのはいいけど、どういう風に生きていこう…?
最新章の第五章も夕方18時に更新予定です!
☆の話は苦手な人は飛ばしても問題無い様に物語を紡いでおります。
※ホットランキング1位、ファンタジーランキング3位ありがとうございます!
※カクヨム様にも投稿しております。内容が大幅に異なり改稿しております。
※各種ランキング1位を頂いた事がある作品です!
旧校舎の地下室
守 秀斗
恋愛
高校のクラスでハブられている俺。この高校に友人はいない。そして、俺はクラスの美人女子高生の京野弘美に興味を持っていた。と言うか好きなんだけどな。でも、京野は美人なのに人気が無く、俺と同様ハブられていた。そして、ある日の放課後、京野に俺の恥ずかしい行為を見られてしまった。すると、京野はその事をバラさないかわりに、俺を旧校舎の地下室へ連れて行く。そこで、おかしなことを始めるのだったのだが……。
スライム10,000体討伐から始まるハーレム生活
昼寝部
ファンタジー
この世界は12歳になったら神からスキルを授かることができ、俺も12歳になった時にスキルを授かった。
しかし、俺のスキルは【@&¥#%】と正しく表記されず、役に立たないスキルということが判明した。
そんな中、両親を亡くした俺は妹に不自由のない生活を送ってもらうため、冒険者として活動を始める。
しかし、【@&¥#%】というスキルでは強いモンスターを討伐することができず、3年間冒険者をしてもスライムしか倒せなかった。
そんなある日、俺がスライムを10,000体討伐した瞬間、スキル【@&¥#%】がチートスキルへと変化して……。
これは、ある日突然、最強の冒険者となった主人公が、今まで『スライムしか倒せないゴミ』とバカにしてきた奴らに“ざまぁ”し、美少女たちと幸せな日々を過ごす物語。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる