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第参話
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到着した2人は先に本家の当主に到着の挨拶を済ませると、今回知里を招いてくれた長老の元へと通された。当主の座を息子に譲って20年。現在は離れで悠々自適に暮らしているらしい。
「よおきたのぉ」
既に100歳近い年齢と聞いていたが、弱弱しさは一切感じられない。背筋を伸ばして座る姿は堂々としており、とても一線を退いているとは思えない。
「お久しぶりでございます、長老。彼女が妻の知里です」
「お招きありがとうございます。実篤の妻の知里です」
「堅苦しい挨拶はよいよい」
厳しい人だと聞いていたのだが、知里はどうやら気に入られたらしい。年寄りを疲れさせないように気を使い、挨拶だけで退出しようと思っていたのだが、共に夕食を勧められる。
「1人で食事をするのも味気ないからのう……」
10年前に妻を亡くしており、たまに友人が訪ねてくるとこうして食事に誘うらしい。今日も実篤が来るのが分かっていたので、誘うつもりで支度をさせていたようだ。その張り切りようはテーブルに所狭しと並べられて行く料理の数々でよくわかった。刺身に根菜の煮物、巻きずし等々、更には燗酒も運ばれてくる。
「若い者の口に合うかわからんが、食べて下され」
来客は嬉しいらしく、長老は上機嫌で実篤に酒を勧める。中身はこの辺りで有名な地酒。実篤は酒豪揃いの親戚連中の中でも特に強い。運ばれてきた徳利はすぐに空になっていた。
和やかに食事をしていると、不意に襖がガラリと空く。入ってきたのは駅にいたオレンジ色の髪の男だった。
「爺さん、久しぶり」
「御影か。お主も相変わらずじゃのう」
「変わりようはねぇよ」
どうやら彼も長老のお気に入りだったらしい。簡単に挨拶をしてずかずかと中に入ってくる。そして挨拶が済むと平然と酒を煽っている実篤に詰め寄る。
「実篤、てめぇ、さっきはよくも置いて行ってくれたな」
2メートル近い男が詰め寄ってくるのだ。標的になったのは実篤でも、隣にいた知里は恐怖で震える。そんな彼女を安心させるように夫は妻の腰を抱き寄せる。
「長老の御前だ弁えろ。妻が怯える」
実篤は静かに怒りを含んだ視線を男に向ける。だが、それは相手を更に激昂させる。
「そもそもお前が!」
「ちゃんと迎えを手配しただろう?」
「ふざけんな!」
「御影、止めなさい」
なおも詰め寄ろうとした男を止めたのは和服姿の女性だった。凛とした佇まいの美しい人で、他人を従わせる何かを感じとれる。彼女はオレンジの髪の男を制すると、まだ震えの治まらない知里に優しい笑みを向ける。
「驚かしてごめんなさいね、知里さん。私は権堂恭佳。よろしくね」
「いえ、こちらこそ……」 今回、本家へ招かれるにあたり、義母の助けを借りて主要な人物を覚えこんできた。自己紹介された名前と照らし合わせると、本家当主の娘で実篤の又従姉にあたる人物だった。数百人規模の式と披露宴だった上に時間も経っているので、今では記憶もあやふやになってしまっているが、自分達の式にも来ていただいたはずだ。義母からは一番味方に付けるべき相手だと忠告されていた。
「この図体のでかいオレンジ頭は八代御影。私達の遠縁にあたるの」
知里は名前を聞いてようやく思い出した。彼もこの本家で幼少期を過ごした実篤の幼馴染の1人だった。いつの間にかちゃっかり席について酒を飲んでいた御影は、紹介されるとぶっきらぼうに頭を下げた。長老になにやら言われて実篤への怒りを無理やり抑え込んだらしい。
「そなた達は相変わらず賑やかじゃのう」
一連の騒動をニコニコと眺めていた長老はのんびりとした口調で口を挟む。これも知里は義母から聞いた話だが、実篤達が本家に滞在していたころ、ちょうど隠居したばかりの長老が彼らの事を気にかけてくれていたらしい。だから現在も彼らは長老に頭が上がらないのだ。
「では、私達はこれで休ませていただきます」
紹介が終わったところで実篤は早々に席を立つ。彼としては愛しい妻と早く2人きりになりたいのだ。御影を邪険に扱うのはいつもの事で、同乗させなかったのは邪魔されたくなかったのと知里が気疲れしないための配慮が主な理由だった。
「おや、もういいのかね?」
実篤の独占欲を垣間見た長老は苦笑しつつ知里に尋ねてくる。
「はい。ご馳走様でした」
まだ表情が強張っているが、知里はどうにか笑みを浮かべると長老に頭を下げる。長老は機嫌よく頷き、恭佳が案内役を買って出る。
「御影はどうするの?」
「俺はもうちょっと飲ませてもらう」
「ほどほどにしなさいよ」
御影はこのまま居座って酒を飲むつもりらしく、酒の追加を給仕の女性に頼んでいた。長老も咎めるつもりはないらしく、久しぶりに顔を合わせた孫にも等しい彼に付き合う事にしたらしい。
「おう」
恭佳の忠告に御影が頷き、運ばれてきた酒に早速手を伸ばす。実篤と知里は改めて長老に挨拶をすると、恭佳に促されて部屋を出た。
「さあ君、放してもらっちゃだめ?」
「だめ」
恭佳に部屋まで案内してもらっている道中、実篤はずっと彼女の腰に手をまわしたままだ。恭佳は笑いをかみ殺しているし、すれ違った人は驚いたように二度見する。知里は恥ずかしくて仕方がない。
「聞いた時には半信半疑だったけど、本当に溺愛してるのね」
「当然だろう」
実篤はすまして応え、知里を更に抱き寄せる。
「はいはい、ご馳走様」
2人に充てられながら恭佳が案内したのは別の離れ。本家の客間で一番格式が高い部屋だ。知里は長老に招かれた客となるのでこの部屋が用意されたらしい。ご丁寧にも部屋付きのお手伝いさんまで手配してくれているらしい。
「じゃ、私はここで。ごゆっくりどうぞ」
「ああ、わざわざ済まない」
「ありがとうございました」
母屋に戻る恭佳を2人は頭を下げて見送る。その間も実篤は知里の腰に手をまわして体を寄せる。そして恭佳の姿が見えなくなると、知里を抱き上げついばむように唇を重ね、部屋の中へと入っていった。
その様子を忌々しい思いで見ている者がいるとも気付かずに……。
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
権堂 恭佳 27歳
本家当主の娘で実篤の又従姉弟。
実篤と御影が喧嘩するといつも仲裁している。
八代 御影 26歳
実篤の幼馴染。喧嘩友達。権堂家とは遠縁。
長老 もうじき100歳
本家の前当主。
実篤と御影が本家に預けられていた時に何かと面倒を見てくれた恩人。
2人とも頭が上がらない。
次はRシーン。
お風呂エッチにするか浴衣でエッチにするか悩む……。
「よおきたのぉ」
既に100歳近い年齢と聞いていたが、弱弱しさは一切感じられない。背筋を伸ばして座る姿は堂々としており、とても一線を退いているとは思えない。
「お久しぶりでございます、長老。彼女が妻の知里です」
「お招きありがとうございます。実篤の妻の知里です」
「堅苦しい挨拶はよいよい」
厳しい人だと聞いていたのだが、知里はどうやら気に入られたらしい。年寄りを疲れさせないように気を使い、挨拶だけで退出しようと思っていたのだが、共に夕食を勧められる。
「1人で食事をするのも味気ないからのう……」
10年前に妻を亡くしており、たまに友人が訪ねてくるとこうして食事に誘うらしい。今日も実篤が来るのが分かっていたので、誘うつもりで支度をさせていたようだ。その張り切りようはテーブルに所狭しと並べられて行く料理の数々でよくわかった。刺身に根菜の煮物、巻きずし等々、更には燗酒も運ばれてくる。
「若い者の口に合うかわからんが、食べて下され」
来客は嬉しいらしく、長老は上機嫌で実篤に酒を勧める。中身はこの辺りで有名な地酒。実篤は酒豪揃いの親戚連中の中でも特に強い。運ばれてきた徳利はすぐに空になっていた。
和やかに食事をしていると、不意に襖がガラリと空く。入ってきたのは駅にいたオレンジ色の髪の男だった。
「爺さん、久しぶり」
「御影か。お主も相変わらずじゃのう」
「変わりようはねぇよ」
どうやら彼も長老のお気に入りだったらしい。簡単に挨拶をしてずかずかと中に入ってくる。そして挨拶が済むと平然と酒を煽っている実篤に詰め寄る。
「実篤、てめぇ、さっきはよくも置いて行ってくれたな」
2メートル近い男が詰め寄ってくるのだ。標的になったのは実篤でも、隣にいた知里は恐怖で震える。そんな彼女を安心させるように夫は妻の腰を抱き寄せる。
「長老の御前だ弁えろ。妻が怯える」
実篤は静かに怒りを含んだ視線を男に向ける。だが、それは相手を更に激昂させる。
「そもそもお前が!」
「ちゃんと迎えを手配しただろう?」
「ふざけんな!」
「御影、止めなさい」
なおも詰め寄ろうとした男を止めたのは和服姿の女性だった。凛とした佇まいの美しい人で、他人を従わせる何かを感じとれる。彼女はオレンジの髪の男を制すると、まだ震えの治まらない知里に優しい笑みを向ける。
「驚かしてごめんなさいね、知里さん。私は権堂恭佳。よろしくね」
「いえ、こちらこそ……」 今回、本家へ招かれるにあたり、義母の助けを借りて主要な人物を覚えこんできた。自己紹介された名前と照らし合わせると、本家当主の娘で実篤の又従姉にあたる人物だった。数百人規模の式と披露宴だった上に時間も経っているので、今では記憶もあやふやになってしまっているが、自分達の式にも来ていただいたはずだ。義母からは一番味方に付けるべき相手だと忠告されていた。
「この図体のでかいオレンジ頭は八代御影。私達の遠縁にあたるの」
知里は名前を聞いてようやく思い出した。彼もこの本家で幼少期を過ごした実篤の幼馴染の1人だった。いつの間にかちゃっかり席について酒を飲んでいた御影は、紹介されるとぶっきらぼうに頭を下げた。長老になにやら言われて実篤への怒りを無理やり抑え込んだらしい。
「そなた達は相変わらず賑やかじゃのう」
一連の騒動をニコニコと眺めていた長老はのんびりとした口調で口を挟む。これも知里は義母から聞いた話だが、実篤達が本家に滞在していたころ、ちょうど隠居したばかりの長老が彼らの事を気にかけてくれていたらしい。だから現在も彼らは長老に頭が上がらないのだ。
「では、私達はこれで休ませていただきます」
紹介が終わったところで実篤は早々に席を立つ。彼としては愛しい妻と早く2人きりになりたいのだ。御影を邪険に扱うのはいつもの事で、同乗させなかったのは邪魔されたくなかったのと知里が気疲れしないための配慮が主な理由だった。
「おや、もういいのかね?」
実篤の独占欲を垣間見た長老は苦笑しつつ知里に尋ねてくる。
「はい。ご馳走様でした」
まだ表情が強張っているが、知里はどうにか笑みを浮かべると長老に頭を下げる。長老は機嫌よく頷き、恭佳が案内役を買って出る。
「御影はどうするの?」
「俺はもうちょっと飲ませてもらう」
「ほどほどにしなさいよ」
御影はこのまま居座って酒を飲むつもりらしく、酒の追加を給仕の女性に頼んでいた。長老も咎めるつもりはないらしく、久しぶりに顔を合わせた孫にも等しい彼に付き合う事にしたらしい。
「おう」
恭佳の忠告に御影が頷き、運ばれてきた酒に早速手を伸ばす。実篤と知里は改めて長老に挨拶をすると、恭佳に促されて部屋を出た。
「さあ君、放してもらっちゃだめ?」
「だめ」
恭佳に部屋まで案内してもらっている道中、実篤はずっと彼女の腰に手をまわしたままだ。恭佳は笑いをかみ殺しているし、すれ違った人は驚いたように二度見する。知里は恥ずかしくて仕方がない。
「聞いた時には半信半疑だったけど、本当に溺愛してるのね」
「当然だろう」
実篤はすまして応え、知里を更に抱き寄せる。
「はいはい、ご馳走様」
2人に充てられながら恭佳が案内したのは別の離れ。本家の客間で一番格式が高い部屋だ。知里は長老に招かれた客となるのでこの部屋が用意されたらしい。ご丁寧にも部屋付きのお手伝いさんまで手配してくれているらしい。
「じゃ、私はここで。ごゆっくりどうぞ」
「ああ、わざわざ済まない」
「ありがとうございました」
母屋に戻る恭佳を2人は頭を下げて見送る。その間も実篤は知里の腰に手をまわして体を寄せる。そして恭佳の姿が見えなくなると、知里を抱き上げついばむように唇を重ね、部屋の中へと入っていった。
その様子を忌々しい思いで見ている者がいるとも気付かずに……。
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
権堂 恭佳 27歳
本家当主の娘で実篤の又従姉弟。
実篤と御影が喧嘩するといつも仲裁している。
八代 御影 26歳
実篤の幼馴染。喧嘩友達。権堂家とは遠縁。
長老 もうじき100歳
本家の前当主。
実篤と御影が本家に預けられていた時に何かと面倒を見てくれた恩人。
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