鬼神の血脈

花影

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第拾壱話

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鬼、登場。
取っ組み合い程度の暴力シーンがあります。


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 意気込んで飛び出したものの、話をちゃんと聞かされていない知里にはどこへ向かえばいいのか分かっていない。既に恭佳の姿も見えず、立ち尽くしていると、またもや地響きが起こる。音は母屋の裏手、清めの泉があると教えられた辺り。知里は意を決すると走り出した。
 走るには不向きな草履を履いていたために思うように足が動かせない。何度も転んで足を擦りむき、痛みに耐えながらようやく目的地に着いた。目に飛び込んできた光景に知里は目を疑った。
「グルゥアァァ」
「落ち着けって」
 しめ縄を飾られた泉の手前、2人の大男が取っ組み合っていた。しかし、その2人は特殊メイクでも施されたかのように現実ではありえない姿をしている。1人は赤銅色の肌に鋼色の髪。獣じみた咆哮を上げ、理性を失った瞳は爛々と赤く輝いている。その男を取り押さえようとしているのは黒に見間違えるような濃い藍色の肌に燃え盛るような金髪。瞳は青く、相手の動きを読もうと見据えている。そして極め付きなのは、2人の頭にある黒い2本の角だった。
「嘘……」
 現実のものとは思えない光景に知里は呆然と立ち尽くす。その間にも彼らの激しい取っ組み合いは続き、その巨体が転ぶたびにあのズン!という地響きが起こっていた。
「いやぁぁぁ!」
 悲鳴が聞こえた方を見ると、取っ組み合いをしている彼らの向こうにひとりの女性が腰を抜かしたように座り込んでいるのが見える。赤銅色の男は彼女に掴みかかろうとしており、藍色の男がそれを阻止しているように見える。
 念入りにしていたらしい化粧は涙で崩れ、ブランドものらしい服は泥まみれになっているが、よくよく見てみるとその女性は昨日知里に突っかかってきた瑠奈だった。
「グォォォォ」
 赤銅色の男は咆哮をあげて襲い掛かる。振り乱した髪でよく見えなかった顔が垣間見え、知里は直感で分かってしまった。彼は間違いなく夫の実篤だと。
 何がどうなってこの状況になっているのかわからないが、それでも彼を止めなければと思うと同時に体が動いていた。だが、腕を強引にグイッと引っ張られて止められる。
「危ない、知里ちゃん」
 鼻先を飛んできた小石がかすめる。振り向くとそこには恭佳が立っていた。
「大人しく待っていてって言ったのに」
「でも、さぁ君が……」
「……とにかく任せて」
 知里の答えに恭佳は一瞬息をのむ。しかし、すぐに表情を引き締めると知里を背後に庇い、取っ組み合っている大男達の様子を伺う。
「お待たせしました」
 祭の参加者らしい白い着物を着た男が手にした何かを恭佳に差し出す。それは小粒の水晶を連ねたもので、実篤が肌身離さず身に付けていたものとよく似ている。彼女はそれを受け取ると、念じるようにしてそれに力を籠めた。やがてそれは淡い光を纏う。
「準備出来たわ」
「おっしゃぁぁ!」
 今まで防戦一方だった藍色の肌をした大男が気合いを入れ、掴みかかってくる実篤らしき赤銅色の大男に体当たりをして瑠奈から遠ざける。だが、その図体に反して機敏に起き上がると再度掴みかかってくる。それでも慌てることなくその腕をがっちりと掴み、その勢いを利用して見事に投げ飛ばす。
「頭冷やして来いやぁぁ!」
 投げ飛ばされた赤銅色の大男は派手な水しぶきを上げて清めの泉の中に背中から落ちる。驚いた知里は悲鳴を上げた。
「さぁ君!」
 波立つ水面が収まったころ、ザバッと水音がして泉の淵に赤銅色の手がかかる。体を引き上げた彼の瞳からは狂気の色が失せていた。濡れた髪を振るって水気を飛ばし、視線をめぐらす。
「目ぇ覚めたか?」
「……ああ」
 投げ飛ばした本人が手を差し出す。彼はその手を取るが、そのままグイッと引っ張った。
「おわっ!」
 油断していたらしく、藍色の大男も頭から泉に落っこちた。赤銅色の男は何事もなかったように泉から出ようとしたが、後ろから引きずり込まれる。今度は泉の中で2人の大男のもみ合いが始まっていた。
「さ、さぁ君……」
 寒気は緩んだとはいえ夜明けから間もない早朝の時間帯。今日も相当冷え込んでいる。そんな中で冷たい水の中に浸かっているなんて正気の沙汰ではない。風邪をひくのではないかと知里は気が気ではない。
「いい加減にしなさい、あんたたち」
 恭佳の一喝で2人はようやくもみ合いを止め、バツが悪そうに泉から出てきた。間近で見ると2人ともとにかく大きい。恭佳が子供に見えてしまうほどだ。
「さぁ君!」
「え?」
 そこへ知里が駆け寄り、濡れるのも構わず赤銅色の大男に抱き着いた。彼は驚いた様子で固まる。
「とにかく払うわよ」
 恭佳は扇子を手にすると、何かを打ち払うように彼の周囲で動かしていく。知里の目には見えていないが、彼の周囲には黒い靄が渦巻いており、それを恭佳が扇子で払うたびに消えていく。そしてあっという間に黒い靄は全て消え去っていた。
 彼は大きく息を吐くと、目を閉じる。その姿が揺らぎ、縮んだと思った瞬間見慣れた実篤の姿に戻っていた。
「やっぱり、さぁ君だ」
「知里……」
 そのあり得ない現象に目の当たりにしても知里は動じることなく夫に抱きつく。実篤は戸惑いながらも変わらずに接してくれる彼女を優しく抱きしめる。その手は心なしか震えていた。


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サブタイトルに大字を使用したことに今更ながら後悔。
だってこんなに長くなるとは思わなかったんだもん。
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