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第拾肆話
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忙しかったのと、家族を一巡した風邪を最後にもらって体調不良だったのと、会話の流れをどうするか悩んで堂々巡りしたのとで間が開いてしまいました。お待たせしてすみませんでした。
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
「あれがさぁ君の本当の姿……」
「ああ。本当は、こんな形で晒すつもりはなかったのだが……」
黙っていた後ろめたさから彼の口調は自嘲めいたものになる。知里はそんな彼を気遣い、その頬に触れる。
「怖くはないのか?」
鬼の姿を知ってもなお、普通に接してくれる妻に彼は正直に言って驚いていた。思い出すのも腹立たしいが、瑠奈の言動こそが普通の反応だと思っていたからだ。
「ちょっとびっくりしたけど、でも、さぁ君だから怖くは……ないかな? まだ、ちょっと信じられないのは確かだけど」
「本当に君は……」
よくできた嫁の答えに実篤は感動してその頬に口づけた。出会ってから地道に築き上げてきた絆の勝利とも言えるのだろうが、これはまだ一つ目の関門を乗り越えただけだ。実篤は気を引き締め直すと、言葉を続ける。
「あの姿になるのは稀だが、それでも人の姿でいる時よりも不思議と落ち着くんだ。他人に見られるわけにもいかないし、邪気をより強く引き付ける事もあって本性を晒す場所は自然と限られる」
「確かにそうよね」
「この本家やうちの実家には邪気を寄せない結界が張ってあり、そこでなら安心して本性を晒せる。特に本家の結界は、歴代の巫女が手掛けているから強力だ。今回は結界内で邪気を放つ奴がいたからこんな事態になってしまった」
今朝の実篤の暴走は瑠奈の欲望から発した邪気によって引き起こされたものだった。彼女の行動は許されるものではなく、先程の一族会議で本人と彼女をそそのかした両親は一族の庇護から外される事が決まった。後から調べて分かったことだが、彼らは多額の負債を抱えている。再建はよほどのことが無い限り困難となるだろう。
「結界のない所ではどうやって防いでいるの? 人の姿だと邪気は来ないの?」
「鬼の姿の時ほど引き寄せないけれど、それでも普通の人よりも多くの邪気を引き付ける。それに、人の血を引いているから自分でも邪気を発してそれも取り込んでしまう。感情を抑える努力は常にしているけど、それも万全ではないしね」
実篤はそう言うと、浴衣の袷を開けて首にかけていたお守りを知里に見せる。
「これは守り珠と呼んでいて、これが邪気から私の身を守ってくれている。前にしていたのは劣化してしまって、今朝の騒動の折に耐えきれなくなって壊れてしまった。これは当座を凌ぐのに御影が作ってくれた。
八代家はこういった細工に秀でている人間を多く輩出している。御影も昔から手先が器用で、更には真贋の力を持っているから今の仕事は天職と言えるだろう。
あいつはこれをあり合わせで作った気休めと言ったが、恭佳が力を込めてくれたから数年は持つだろう。あいつの職人としてのプライドがこの程度では許さないらしいが、本気で作った物がどのくらいの物になるのか楽しみだ」
間近で見ると、革ひもで簡易に繋げた水晶は仄かな光を放っている。そのどれもが混じりけのない美しさを持っていて、確かにこれであり合わせというのならば、彼が厳選したものを見てみたいとも思えた。
「さぁ君も何か力があるの?」
「私の力は先読み……少し先の未来の吉凶が分かる程度の力がある。予知までできた先祖に比べるとささやかな力だが、それでもこれのおかげで大事な決断をする時には役に立ってきた」
「すごーい」
尊敬の眼差しを向けられて実篤は面映ゆくなる。実は、彼の力は恭佳や御影と比べると脆弱なのだ。そんなに尊敬されると恥ずかしくなってくる。
「君とここへ来る事が決まった時に使ってみたが、出てきたのは吉凶両方だった。何が起こるかまでは分からなかった所為で事態を回避できなかっただけでなく、君まで傷つけられた。結局、役に立たなかったんだ」
「でも、さぁ君の所為ではないでしょう?」
知里の何気ない言葉に実篤は目を泳がせる。
「そうでも……ない」
「さぁ君?」
実篤の歯切れのない答えに知里は首を傾げる。
「確かに、騒動の原因は私の責任では無い。けれども、君が傷けられた、その根本的な悩みに関してはどうしても言えなかったことがある」
「どういう事?」
実篤が言う根本的な悩みとはやはり子供が出来ない事だろうか? 知里が先を促すと、緊張しているらしい彼は大きく深呼吸をして居住まいを正す。
「どういった理屈でそうなっているのか今でもわからないのだが、先祖がえりした鬼は本性のまま交わらないと子供が出来ない。君が、子供が出来ないと悩んでいるのを知っていても、本性を晒して君に嫌われるのが怖くて今まで言えなかった。……すまない」
実篤は手をつくと知里に頭を下げる。彼女はどうしていいか分からず、その姿をただ唖然として見ていた。
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
実篤の本性を見てもさほど動じていないように見える知里。でも実際は、色々とありすぎて彼女もテンッパっています。
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「あれがさぁ君の本当の姿……」
「ああ。本当は、こんな形で晒すつもりはなかったのだが……」
黙っていた後ろめたさから彼の口調は自嘲めいたものになる。知里はそんな彼を気遣い、その頬に触れる。
「怖くはないのか?」
鬼の姿を知ってもなお、普通に接してくれる妻に彼は正直に言って驚いていた。思い出すのも腹立たしいが、瑠奈の言動こそが普通の反応だと思っていたからだ。
「ちょっとびっくりしたけど、でも、さぁ君だから怖くは……ないかな? まだ、ちょっと信じられないのは確かだけど」
「本当に君は……」
よくできた嫁の答えに実篤は感動してその頬に口づけた。出会ってから地道に築き上げてきた絆の勝利とも言えるのだろうが、これはまだ一つ目の関門を乗り越えただけだ。実篤は気を引き締め直すと、言葉を続ける。
「あの姿になるのは稀だが、それでも人の姿でいる時よりも不思議と落ち着くんだ。他人に見られるわけにもいかないし、邪気をより強く引き付ける事もあって本性を晒す場所は自然と限られる」
「確かにそうよね」
「この本家やうちの実家には邪気を寄せない結界が張ってあり、そこでなら安心して本性を晒せる。特に本家の結界は、歴代の巫女が手掛けているから強力だ。今回は結界内で邪気を放つ奴がいたからこんな事態になってしまった」
今朝の実篤の暴走は瑠奈の欲望から発した邪気によって引き起こされたものだった。彼女の行動は許されるものではなく、先程の一族会議で本人と彼女をそそのかした両親は一族の庇護から外される事が決まった。後から調べて分かったことだが、彼らは多額の負債を抱えている。再建はよほどのことが無い限り困難となるだろう。
「結界のない所ではどうやって防いでいるの? 人の姿だと邪気は来ないの?」
「鬼の姿の時ほど引き寄せないけれど、それでも普通の人よりも多くの邪気を引き付ける。それに、人の血を引いているから自分でも邪気を発してそれも取り込んでしまう。感情を抑える努力は常にしているけど、それも万全ではないしね」
実篤はそう言うと、浴衣の袷を開けて首にかけていたお守りを知里に見せる。
「これは守り珠と呼んでいて、これが邪気から私の身を守ってくれている。前にしていたのは劣化してしまって、今朝の騒動の折に耐えきれなくなって壊れてしまった。これは当座を凌ぐのに御影が作ってくれた。
八代家はこういった細工に秀でている人間を多く輩出している。御影も昔から手先が器用で、更には真贋の力を持っているから今の仕事は天職と言えるだろう。
あいつはこれをあり合わせで作った気休めと言ったが、恭佳が力を込めてくれたから数年は持つだろう。あいつの職人としてのプライドがこの程度では許さないらしいが、本気で作った物がどのくらいの物になるのか楽しみだ」
間近で見ると、革ひもで簡易に繋げた水晶は仄かな光を放っている。そのどれもが混じりけのない美しさを持っていて、確かにこれであり合わせというのならば、彼が厳選したものを見てみたいとも思えた。
「さぁ君も何か力があるの?」
「私の力は先読み……少し先の未来の吉凶が分かる程度の力がある。予知までできた先祖に比べるとささやかな力だが、それでもこれのおかげで大事な決断をする時には役に立ってきた」
「すごーい」
尊敬の眼差しを向けられて実篤は面映ゆくなる。実は、彼の力は恭佳や御影と比べると脆弱なのだ。そんなに尊敬されると恥ずかしくなってくる。
「君とここへ来る事が決まった時に使ってみたが、出てきたのは吉凶両方だった。何が起こるかまでは分からなかった所為で事態を回避できなかっただけでなく、君まで傷つけられた。結局、役に立たなかったんだ」
「でも、さぁ君の所為ではないでしょう?」
知里の何気ない言葉に実篤は目を泳がせる。
「そうでも……ない」
「さぁ君?」
実篤の歯切れのない答えに知里は首を傾げる。
「確かに、騒動の原因は私の責任では無い。けれども、君が傷けられた、その根本的な悩みに関してはどうしても言えなかったことがある」
「どういう事?」
実篤が言う根本的な悩みとはやはり子供が出来ない事だろうか? 知里が先を促すと、緊張しているらしい彼は大きく深呼吸をして居住まいを正す。
「どういった理屈でそうなっているのか今でもわからないのだが、先祖がえりした鬼は本性のまま交わらないと子供が出来ない。君が、子供が出来ないと悩んでいるのを知っていても、本性を晒して君に嫌われるのが怖くて今まで言えなかった。……すまない」
実篤は手をつくと知里に頭を下げる。彼女はどうしていいか分からず、その姿をただ唖然として見ていた。
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実篤の本性を見てもさほど動じていないように見える知里。でも実際は、色々とありすぎて彼女もテンッパっています。
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