終わりよければ総て良し

花影

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ラシードの事情

おまけのおまけ6

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パトラは庭園を見渡せるテラスで午後のお茶を楽しんでいた。バースィルと共に暮らすようになって5日経っている。いつもなら彼と過ごすのだが、休暇中とはいえ立場上どうしても数日に一度は顔を出す必要があるらしい。
昨夜も激しく求められて彼女が起きたのは昼に近い時間だったので、今朝早くに宮城へ出かけたと教えてくれたのは身の回りの世話をしてくれる老夫婦からだった。

「はぁい、パトラ」

そこへ姿を現したのは、恩人でもあるオネェな医者だった。

「まあ、わざわざ来て下さってありがとうございます」
「元気そうだね」

彼はパトラの姿を眺めてなぜか満足そうに頷いている。彼が言うには、体力が有り余っているバースィルが無体をしすぎて彼女がやつれていないか心配だったらしい。
せっかく会いに来てくれたので、彼のお茶を勧めようとするとそれは固辞される。

「早速で悪いけど、忘れ物取りに来てくれない?」

彼はそう言ってパトラを連れ出した。



確か、バースィルと結ばれた2日後(翌日は体に力が入らなくて動けなかった)に救護院へ世話になった人たちへの挨拶と一緒に置いたままになっていた私物も引き取ってきたはずだった。しかし、何を忘れたか思い出そうとしてみたが、一向に思い出せないまま馬車は救護院についていた。

「さあ、こっちよ」

医者や救護院で暮らしている女性達に手を引かれて向かった先は、簡易の医術院にあった彼女が使っていた部屋だった。家具も片づけられた部屋は意外に広く感じる。しかし、彼女の眼は部屋に飾られていた瑠璃色の晴れ着にくぎ付けとなっていた。

「どう? 気に入った?」
「どうしたの? これ……」
「パトラをお祝いしようと、みんなで縫ったのよ」

そう教えてくれるが、どう考えてもこの2、3日で出来上がるような品ではない。医者を振り返ると、彼は肩をすくめて白状する。

「だって、バースィルが本気だったのは分かっていたし、なんだかんだ言ってもパトラも嫌がってはいなかったでしょう? だからね、随分前からみんなで相談して用意してたの。それでね、パトラの決心がついたら、みんなでお祝いして送り出そうって決めてたのよ」

みんなが口々に言うには、事件の後すぐにパトラがバースィルのところへ行ってしまったので、ちゃんと送り出してあげれなくて残念に思っていたらしい。けれども、パトラもここの家族だから改めてお祝いしたい。先日、挨拶に来た時には準備が間に合わなかったので、今日は改めて彼女を呼んでくれたのだ。
パトラは晴れ着を手に取ってみる。一面に施されている刺繍は、大人だけでなく小さな子もパトラの幸せを願って施してくれたらしい。
少女達はもしかしたら自分にも物語のような恋が訪れるかもしれないと夢見て針を刺していたかもしれない。

「ありがとう……」

みんなの気持ちが嬉しくてパトラは目頭が熱くなる。

「この後、バースィルもここへ来ることになっているの。さぁ、急いで準備をしましょう」

湿っぽくならないように気を使ってか、医者が明るい声で促す。パトラは涙を拭うと、小さく頷いた。
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