終わりよければ総て良し

花影

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ラシードの事情

おまけのおまけ5

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午後の穏やかな日差しが降り注ぐテラスでパトラは遅い昼食を摂っていた。日よけの下にしつらえられたテーブルには女性でも食べやすいように一口サイズの料理が並び、咲き誇る花々を眺めながらの食事は実に贅沢な時間である。

けれども……。

「はい、パトラ」

目の前に差し出されたのは小さく切られた果物。彼女は今、大きめの椅子に胡坐あぐらをかいて座っているバースィルに抱え込まれるようにして座らされている。本当は一人で座りたいのだが、昨夜の濃厚な交わりのおかげで足腰が立たず、今日は横になって過ごしていたのだ。
一方の当事者であるバースィルはまさに気力が充実しているようで、午前中のうちに仕事を済ませてつい先ほど帰ってきたのだ。そこで一緒に昼食を摂ることになったのだが、抵抗する間もなくこのような状態となっていた。

「食べないの?」

バースィルに不思議そうに問われ、パトラ心を無にしてそれをほおばった。質素倹約を旨とする救護院ではなかなか口にできない高級な果実だけあり、みずみずしい果汁が口いっぱいに広がる。おいしいものに罪はない。内心ため息をつきながらも、次々差し出される料理を平らげた。



「昨日の話をしても大丈夫か?」

用意されていた食事も粗方なくなり、食後のお茶を出されたところでバースィルがそう切り出した。昨日の事と聞いて思い出されるのは昨夜交わした濃密な情事。自分がさらしたあられもない姿と彼のたくましい体を思い出して顔がほてってくる。必死で振り払おうとしていると、バースィルが落ち着かせるように優しく背中を撫でた。

「昨日の事って、あの、その……」
「もしかして誘ってる?」
「いえ、あの……」
「お望みなら今からでも寝室に連れて行くけど?」

見上げると彼は意地悪な笑みを浮かべている。慌てて首を振ると彼はクスリと笑い、彼女のつむじに唇を落とした。そして表情を引き締める。

「昨日の夕方の事だ。当事者だから結果を報告しておこうと思ってね」

そう言われてようやく襲われかけた記憶がよみがえる。だが、バースィルの腕の中にすっぽりと納まっているせいか、不思議と恐怖心は沸き起こってこなかった。「大丈夫」と答えると彼はほほ笑んで今度は額に口づけた。

「10年前にアブドゥル……陛下とご生母アイシャ様を奸計によって陥れた件で、アルマースに同調した貴族は多かれ少なかれ処罰を言い渡された。だが、若い皇帝なら後宮に美女を送り込んで篭絡ろうらくすれば傀儡くぐつにできると踏んだのだろう、彼等は素直に応じることはなかった。
だが、陛下はジャルディードからファラ様を正妃に迎えられ、後宮は物理的にも解体した。一筋縄ではいかないと察した彼らは、俺達側近に目を付けたんだ」

残念ながらパトラはその頃はまだ体調が思わしくなくてジャルディードからの輿入れ行列をその目で見ることは叶わなかった。それでも目の当たりにした人達から話を聞き、胸を躍らせたのは記憶に新しい。

「あからさまに賄賂を贈ってきた奴をその場で捕えて処罰を追加すると、今度は婚姻による取り込みに方針を変えてきた。特に俺は後ろ盾が弱いと思ったらしく、うっとおしいくらいに縁談をよこしてきた。もちろん、全て断ったが。
俺が君に会いに救護院に通い詰めているのは周知の事実になっていて、君がいなくなれば俺も考えを変えるだろうと考えた奴は少なくなかった。
だが、実際に奴らが行動を起こす前に救護院自体が皇帝の庇護下にあることと、あそこで保護されている人達は皆、責任者に指名されたライラ様の後ろ盾がある事を知らしめることで諦めさせることができたんだ」

このあたりの事は以前にも説明を受けていたが、陰では思った以上に大事になっていたことにパトラは表情を曇らせる。バースィルは彼女を優しく抱擁し、額に口づけて彼女を安心させた。

「ただ、一人の令嬢が俺に執着して諦めていなかったらしく、昨日の医術院の引っ越しにまぎれて君を拉致する計画を立てたらしい。捕えた男が全てを白状して関わった奴は全て捕えたよ」

どうやら、2人で甘い時間を過ごしていた間に事件は全て解決していたらしい。計画がずさんだったのか、兵団がよほど優秀だったのか……。おそらく両方なのだろう。

「と、いう訳で仕事に一区切りついた。まとまった休みももぎ取ってきたから、存分に蜜月を堪能できるよ」

実にいい笑顔でバースィルは宣言する。一方、昨夜だけで一杯一杯だったパトラは思わず表情を凍り付かせた。

私……体がもつかしら……。

そう思う反面、幸せだと思えるのは既に彼にほだされているからかもしれない。
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