群青の空の下で(修正版)

花影

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第3章 ダナシアの祝福

18 選んだ道は5

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 10日間の休暇をルークと共に彼の故郷であるアジュガで過ごしたオリガは、緊張の面持ちでエアリアルの背から降り立った。本当は出立前日にフレアが疲れからか熱を出したので、今回の休暇は見合わせるつもりでいた。しかし、引き続きルークはフォルビア所属となり、オリガが皇都に行ってしまうと顔を見合わせるのも困難となる。また皇都に帰還してしまうと、国内の貴族向けのお披露目や国主選定会議、そして即位式も控えていて、今度はオリガ自身が忙しくなる。
 幸いにしてフレアの熱もすぐに下がり、オルティスにより手配された乳母も側仕えも揃った。周囲に勧められて、ようやく1年越しの休暇が実現したのだ。
 アジュガではルークの家族に歓待され、楽しい時間を過ごしてきたのだが、エドワルドの頼みで彼等は一足先に皇都に行くことになった。二つ返事で受けたは良いが、本宮どころか皇都に来るのも初めての彼女は、いささか緊張していた。
「心配ないよ。皆、良い方ばかりだ」
 ルークはその緊張を和らげようとしてくれるが、女性同士の付き合いの難しさまでは分かっていないだろう。主の為に身を粉にして働くのはいとわないが、皇都側がフレアの事情をどれだけ理解してくれるのかが問題である。エドワルドが自分を先行させたのは、その辺の事情を徹底させる目的もあると聞いている。国の中枢となる本宮という場所とその重大な責任にオリガの足は今にも震えだしそうになっていた。
 ルークが相棒を着陸させたのは本宮上層の着場。上級でも高位の竜騎士しか着地を許されない場所である。
 ルーク自身はハルベルトから特別な許可を得ていたので、2年前の夏至祭後から利用できていたのだが、無暗にその特権を使用した事は無い。今回は色々と注目を集めている恋人のオリガを守る為、その特権を行使したのだ。
「ルーク、オリガ嬢!」
 いち早く2人を出迎えてくれたのはユリウスだった。ルークが女性を伴って現れた噂はすぐさま広まり、興味本位から係員や竜騎士達が様子をうかがっていたのだが、彼の姿を見ると慌てて仕事に戻って行く。そんな彼等の姿にユリウスは苦笑すると、部下に飛竜達を休ませるように指示を与え、付き従って来たシュテファンとラウルにも休むように言って下がらせた。
「ようこそ本宮へ、オリガ嬢」
「お出迎えありがとうございます。ユリウス卿」
 見知ったユリウスの姿を見てオリガの緊張も多少は和らぎ、少々ぎこちないながらも淑女の礼をとる。彼女達が連絡を寄越さなかったのはやむを得ない状況だったと判断したエドワルドにより、その事で彼女達を責める事は禁じられている。一方の彼女達にも済んだことなのでその事を気に病む必要は無いと諭されていた。
「かしこまらなくていいよ。どうぞこちらへ」
 先程慌てて仕事に戻ったはずの係員達が仕事をするふりをしながらチラチラとこちらの様子を窺っている。この1年間にルークが纏《まと》っていたギスギスした空気は無くなっているが、それでも恋人に好奇の目を向けられれば彼をイラつかせるには十分らしい。どんどん機嫌が悪くなる親友を気遣い、ユリウスは彼等を南棟へと案内する。
 だが、いくらも進まないうちにオリガは数名の女性に取り囲まれたかと思うと、あっという間に拉致されていく。側に居たルークが庇《かば》う暇もないくらいに見事な連携だった。慌てて追おうとするルークを止めたのは案内役のユリウスだった。
「……そこをどけろ」
「落ち着けよ」
 地を這うような声に周囲にいた見物人達は震えあがる。だが、事情を聞かされていたユリウスは親友の居るような視線を飄々ひょうひょうかわし、落ち着いた様子でやじ馬たちに仕事に戻る様に言って追い払う。
「落ち着いていられるか」
「彼女達は母上の侍女だ。サントリナ家の侍女と北棟の女官も混ざっている」
「どう言う事だ?」
「もう間もなくセシーリア様主催のお茶会が開かれる。そこでオリガ嬢がお披露目される事になっている」
「……それで?」
「その支度の為に連れて行ったんだろう」
 ユリウスの答えにルークの機嫌が一気に悪くなる。
「奥方様の悪い噂が広まっているのは聞いているだろう? 奥方様の事を知っている人物が皇都には少ないのが一番の原因だ。今一番の話題だから、ねたんだ奴が絡むと途端に悪い方向の話が広まる。今日の会で一番近くに居る彼女の口から奥方様の人となりが伝われば、すぐには無理でもその噂が間違いなのは分かるはずだ」
「……大勢集まるのか?」
「母上にソフィア様、アルメリア姫、後はリネアリス公夫人等、有力貴族の奥方達だ。彼女達さえ味方に付ければ後はもうどうとでもできるだろう」
「……」
「ほら、俺達も着替えるぞ」
「何故?」
「俺達も呼ばれているからだ」
「は?」
「ほら、行くぞ」
 今度はルークがユリウスに拉致されて本宮の客間へと連れ込まれた。

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