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第6章 親子の物語
第22話
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季節は夏から秋へ移り、オリガの悪阻も治まってきた頃、皇都から皇女様誕生のめでたい知らせが届いた。本当は夫婦そろってお祝いに行くところなのだが、オリガにもカミルにも無理はさせられないので、俺だけ行ってくることとなった。
雷光隊隊長としての仕事もあるので、滞在は少し長くなりそうだ。皇都の屋敷の様子も気になるサイラスも俺の身の回りの世話をするために同行する。後は一応護衛という名目でアジュガに滞在中の俺の部下達。この2カ月の間に皇都とのやり取りで顔ぶれは変わったものの、現在はドミニクとファビアン、オスヴァルトが田舎暮らしを満喫しつつ滞在していた。
「行ってくるよ」
「気を付けて」
オリガやカミルと抱擁して別れを惜しみ、相棒の背に跨って先ずはヒース卿やリーガス卿、ジーン卿と合流するためにミステルへ移動する。アジュガに来ていただいても良かったのだが、同行する竜騎士も多くなるだろうし、特にヒース卿は騎士科にいるご子息のご様子も気になるだろうからミステルでの合流に決めていた。
俺達がミステルに着くと、案の定お3方は騎士科を見学していた。特にヒース卿は時間が無いにもかかわらず、生徒達への熱血指導が始まっていた。この分だと出立が遅れるのは間違いないだろう。
「お久しぶりです、ルーク卿」
驚いたのはその場にカイもいた事だった。休暇で来ているわけではなく、今回はリーガス卿の従者として皇都に同行することになっていた。
「レーナは、その、どんな様子ですか?」
あいさつもそこそこに思いつめた表情で聞いてきたのはレーナの事だった。彼女がカミルを庇って怪我をしたことを随分心配していた。しかし、まだ成熟していない相棒を放って飛び出すことは出来ずにもどかしく思っていたらしい。
しかし、皇家の慶事を祝いににリーガス卿が皇都へ出かけるのを知り、留守中の世話を仲間に頼んで了承を得たうえでリーガス卿に頼み込んだと言うのが真相の様だ。
「熱意に負けた」
リーガス卿がそう言うくらい、よほど熱心に頼み込んだのだろう。それでも彼のこれまでの努力を知っているから、ご褒美も兼ねて同行を許したらしい。何より事情を知ったジーン卿の後押しが大きかった様だ。
「手紙は出したんだろう?」
「はい。大丈夫としか書かれていませんでしたが……」
「もう回復して普通に生活出来ているそうだ」
皇都にいるリタから幾度か報告をもらっている。レーナ自身からも手紙は届いていて、もう普通に皇都での休暇を楽しんでいる様だ。
「そうですか……」
俺の答えにカイは幾分ホッとした表情を浮かべる。素直になれない性格もあって中々口に出さないが、それほど気にかけているのはレーナの事が既に特別な存在になっているからだろう。ジーン卿が応援したくなる気持ちはよくわかった。
そんな会話を交わしている間にヒース卿の熱血指導は終わった。そして予定より少し遅れて俺達は皇都へ向けて出立したのだった。
「陛下がお呼びでございます」
皇都に着いた早々、俺達は陛下に呼び出された。ヒース卿の熱血指導が長引いたおかげで既に遅い時刻ではあるが、それでも構わないらしく北棟へ案内された。
「呼び出して済まなかったな」
執務は終えられていたらしく、普段着姿の陛下が出迎えられた。エル坊達は既に就寝しているらしく、そのまま居間に案内された。思い思いの場所に腰掛けると、家令のヨハンさんが手際よく酒肴を用意されて退出していった。
「陛下、皇女様ご誕生おめでとうございます」
代表してヒース卿がお祝いを述べた。皇女様はフランチェスカ様と命名されたらしい。俺達も口々にお祝いを述べると、陛下は顔を綻ばせてお礼を言われていた。そして「アスターが娘を溺愛する気持ちが分かった気がする」と仰り、そのご様子から可愛くて仕方がないのが伝わった。
「ルーク、カミルの様子はどうだ?」
皇女様の話が落ち着いたところで、陛下から聞かれたのはカミルの事だった。幾度か近況を手紙で知らせていたのだが、やはり気になっておられたご様子だ。着いた早々呼ばれたのもカミルの事が気になっていたからの様だ。
「アジュガの環境があの子には合うようです。毎日ザシャやフリッツと泥だらけになって遊んでいます」
「そうか……」
アジュガへはリーガス卿やジーン卿も来られて様子を見に来て下さったこともある。お2人の話も加えて皇都を離れる直前の頃と比べようが無いくらい元気になった様子をお伝えすると、陛下も安心されたご様子だった。ここで俺はもう一つの大きなお知らせを伝えることにした。
「お兄ちゃんになると分かったのがいい影響を与えているみたいです」
「お前、それって……」
「オリガが身籠りました。予定は春先です」
実はオリガの懐妊をまだ先輩方にも伝えていなかった。一番に陛下にお知らせしたかったのもあって、出入りしていた雷光隊員にも口止めをしたくらいだ。彼等も律義にそれを守ってくれたらしく、情報はまだ伝わって無かったようだ。
「そうか、それはめでたい」
「良かったな、ルーク。オリガにも祝いを伝えておいてくれ」
特にオリガが中々子供が出来ない事を悩んでいたのをここにおられる方々はご存知だった。陛下は諸手を上げて喜び、ヒース卿とリーガス卿からはちょっと強めに小突かれた。ジーン卿はちょっと涙ぐんでいる。それでも皆喜んでくださったみたいで、言祝いで頂いた。
そして改めて杯に酒が満たされて、乾杯となった。その騒ぎにヨハンさんが何事かと思わず顔をのぞかせたほどだ。陛下がそんなヨハンさんを呼んで皇妃様に伝言を頼むと、ほどなくして皇妃様も居間にやって来られた。
「オリガの事、聞きましたわ。ルーク卿、おめでとうございます」
「ありがとうございます」
皇妃様に言祝いで頂いたと伝えたら、オリガは喜ぶだろう。その後は皇妃様も同席されてアジュガでの様子を聞かれるままに語っていた。特にカミルが元気に走り回る様子を話すと、皇妃様は涙ぐんで喜ばれた。本当にいろんな方に心配をかけていたのだと実感したのだった。
皇都到着の翌日、詰め所には雷光隊全員が顔をそろえていた。留守中の報告を聞き、討伐期の編成を決めるのが主な議題だった。
「我が家の事情で碌に引き継ぎをしないまま皇都を離れて済まなかった。だが、みんなが協力してくれたおかげで息子は元気を取り戻した。ありがとう」
冒頭にそう言って感謝を伝える。彼等は当然の事をしたまでだと言ってくれたのだが、それでも俺の気持ちをちゃんと伝えたかったのだ。更にはカミルが元気になったことを我が事の様に喜んでくれた。本当に俺は部下に恵まれたと思う。感謝しかない。
「その元凶になった男ですが、敬称剥奪の上、ラヴィーネでの労役が科せられることになりました」
先ずは忌まわしき事件の事後処理をシュテファンがしてくれた。フリードリヒは思った以上に重い罰が与えられた様だ。その労役も無期限と言うから、死罪以外では最も重い罰の部類に入るのではないだろうか。
「ミムラス家はハンネス氏が当主となり、レオナルトが補佐を務めます」
レオナルトが当主になるのだと思っていたからこれはちょっと意外だった。陛下からも要請があったはずだが、それを辞退してハンネス氏を推したのはミムラス家を変える意思表示らしい。
「自分はあの男の息子です。陛下の要請があったからと言って後を継いでしまっては、信用を得られないと思ったからです。後継も一族の子供達を教育して一番ふさわしい人物に託すつもりです」
胸を張ってそう答えるレオナルトの姿を見て、頼もしくなったとつくづく思った。自尊心の塊のようで、とても他者を陥れようと画策した人物とは思えない。人は環境で変われるものなのだと痛感した。
「雷光隊はどうする?」
「このままいさせてください」
「忙しいのではないのか?」
「大丈夫です。当主の仕事はきっちりやって頂きますし、アルバン氏にも協力を仰いでいますから」
2人とも目立つのが嫌で隠していたが、本来は優秀な人物らしい。この2カ月の間共に仕事をしてそれが良く分かったので、家内の事はもう任せてしまっているらしい。まあ、大丈夫ならいいだろう。
続けてラウルからは先日行われた会議の内容を報告された。新人が2名加わる事の他に今度の討伐期に各騎士団から派遣要請が来ていることが報告された。どこへ誰を派遣するかは雷光隊に決定権を与えてもらったらしい。それならば、思いっきり私事だが、今期俺はミステルに駐留させてもらおう。そう思いながら他の隊員の希望を先に聞いてみた。
「自分一人でもいいですから、第6騎士団に派遣を願います」
真っ先に手を上げたのはアルノーだった。ドムス領はその管轄内だ。何かあちらで問題でもあったのだろうか?
「理由は?」
「その……個人的な事なのですが、ジークリンデが身籠りまして……。出来るだけ側に居たいと……」
しどろもどろになりながら答えた内容は俺と同様の理由だった。めでたい知らせに他の隊員達から冷やかされている。もちろん、即座に了承し、ファビアンとルーペルトも派遣することに決まった。他の隊員からは特に要望は無かったので、俺のわがままを言わせてもらう事にした。
「今期、俺はミステルに居させてもらう。理由はカミルの事もあるが、まあ、アルノーと同じだ。オリガが身籠ったから傍に居たい」
「え?」
知らなかったのはおそらくラウルとシュテファン、そしてアルノーくらいだろう。彼等は一様に驚いた様子で俺の顔を見る。口止めを頼んでいた隊員は律義にそれを守って上役である彼等にも漏らさなかったのだ。
「おめでとうございます」
一瞬の間の後、歓声が起こって口々に祝ってくれる。彼等も付き合いが長いだけあって、俺達の事情を知っている。我が事の様に喜んでくれた。
「勿論そうして下さい」
ラウルはそう言って割り振りをその場で決めて行った。ミステルには俺の他にシュテファンとローラント、レオナルトと新人1人。皇都はラウルとドミニク、オスヴァルトともう1人の新人。今年は更に第4騎士団へコンラートとエーミール、マティアスを派遣することに決まった。
「新人2人は近日中に顔合わせをすることになっています」
配属が決まったばかりで今日の会議には間に合わなかったらしい。また改めて顔合わせすることになった。ミステルに配属になった1人はまたすぐに移動になってしまうが、新人の内はよくある事だと割り切ってもらおう。
今後はそれぞれの隊長の下で訓練を重ねることで話がまとまった。そしてさらに部下達からは祝わせてもらいたいと申し出があり、近日中に祝いの席が設けられる事が決まった。まあ、単にみんな口実を付けて飲みたいと言うのが正しいかもしれない。
雷光隊隊長としての仕事もあるので、滞在は少し長くなりそうだ。皇都の屋敷の様子も気になるサイラスも俺の身の回りの世話をするために同行する。後は一応護衛という名目でアジュガに滞在中の俺の部下達。この2カ月の間に皇都とのやり取りで顔ぶれは変わったものの、現在はドミニクとファビアン、オスヴァルトが田舎暮らしを満喫しつつ滞在していた。
「行ってくるよ」
「気を付けて」
オリガやカミルと抱擁して別れを惜しみ、相棒の背に跨って先ずはヒース卿やリーガス卿、ジーン卿と合流するためにミステルへ移動する。アジュガに来ていただいても良かったのだが、同行する竜騎士も多くなるだろうし、特にヒース卿は騎士科にいるご子息のご様子も気になるだろうからミステルでの合流に決めていた。
俺達がミステルに着くと、案の定お3方は騎士科を見学していた。特にヒース卿は時間が無いにもかかわらず、生徒達への熱血指導が始まっていた。この分だと出立が遅れるのは間違いないだろう。
「お久しぶりです、ルーク卿」
驚いたのはその場にカイもいた事だった。休暇で来ているわけではなく、今回はリーガス卿の従者として皇都に同行することになっていた。
「レーナは、その、どんな様子ですか?」
あいさつもそこそこに思いつめた表情で聞いてきたのはレーナの事だった。彼女がカミルを庇って怪我をしたことを随分心配していた。しかし、まだ成熟していない相棒を放って飛び出すことは出来ずにもどかしく思っていたらしい。
しかし、皇家の慶事を祝いににリーガス卿が皇都へ出かけるのを知り、留守中の世話を仲間に頼んで了承を得たうえでリーガス卿に頼み込んだと言うのが真相の様だ。
「熱意に負けた」
リーガス卿がそう言うくらい、よほど熱心に頼み込んだのだろう。それでも彼のこれまでの努力を知っているから、ご褒美も兼ねて同行を許したらしい。何より事情を知ったジーン卿の後押しが大きかった様だ。
「手紙は出したんだろう?」
「はい。大丈夫としか書かれていませんでしたが……」
「もう回復して普通に生活出来ているそうだ」
皇都にいるリタから幾度か報告をもらっている。レーナ自身からも手紙は届いていて、もう普通に皇都での休暇を楽しんでいる様だ。
「そうですか……」
俺の答えにカイは幾分ホッとした表情を浮かべる。素直になれない性格もあって中々口に出さないが、それほど気にかけているのはレーナの事が既に特別な存在になっているからだろう。ジーン卿が応援したくなる気持ちはよくわかった。
そんな会話を交わしている間にヒース卿の熱血指導は終わった。そして予定より少し遅れて俺達は皇都へ向けて出立したのだった。
「陛下がお呼びでございます」
皇都に着いた早々、俺達は陛下に呼び出された。ヒース卿の熱血指導が長引いたおかげで既に遅い時刻ではあるが、それでも構わないらしく北棟へ案内された。
「呼び出して済まなかったな」
執務は終えられていたらしく、普段着姿の陛下が出迎えられた。エル坊達は既に就寝しているらしく、そのまま居間に案内された。思い思いの場所に腰掛けると、家令のヨハンさんが手際よく酒肴を用意されて退出していった。
「陛下、皇女様ご誕生おめでとうございます」
代表してヒース卿がお祝いを述べた。皇女様はフランチェスカ様と命名されたらしい。俺達も口々にお祝いを述べると、陛下は顔を綻ばせてお礼を言われていた。そして「アスターが娘を溺愛する気持ちが分かった気がする」と仰り、そのご様子から可愛くて仕方がないのが伝わった。
「ルーク、カミルの様子はどうだ?」
皇女様の話が落ち着いたところで、陛下から聞かれたのはカミルの事だった。幾度か近況を手紙で知らせていたのだが、やはり気になっておられたご様子だ。着いた早々呼ばれたのもカミルの事が気になっていたからの様だ。
「アジュガの環境があの子には合うようです。毎日ザシャやフリッツと泥だらけになって遊んでいます」
「そうか……」
アジュガへはリーガス卿やジーン卿も来られて様子を見に来て下さったこともある。お2人の話も加えて皇都を離れる直前の頃と比べようが無いくらい元気になった様子をお伝えすると、陛下も安心されたご様子だった。ここで俺はもう一つの大きなお知らせを伝えることにした。
「お兄ちゃんになると分かったのがいい影響を与えているみたいです」
「お前、それって……」
「オリガが身籠りました。予定は春先です」
実はオリガの懐妊をまだ先輩方にも伝えていなかった。一番に陛下にお知らせしたかったのもあって、出入りしていた雷光隊員にも口止めをしたくらいだ。彼等も律義にそれを守ってくれたらしく、情報はまだ伝わって無かったようだ。
「そうか、それはめでたい」
「良かったな、ルーク。オリガにも祝いを伝えておいてくれ」
特にオリガが中々子供が出来ない事を悩んでいたのをここにおられる方々はご存知だった。陛下は諸手を上げて喜び、ヒース卿とリーガス卿からはちょっと強めに小突かれた。ジーン卿はちょっと涙ぐんでいる。それでも皆喜んでくださったみたいで、言祝いで頂いた。
そして改めて杯に酒が満たされて、乾杯となった。その騒ぎにヨハンさんが何事かと思わず顔をのぞかせたほどだ。陛下がそんなヨハンさんを呼んで皇妃様に伝言を頼むと、ほどなくして皇妃様も居間にやって来られた。
「オリガの事、聞きましたわ。ルーク卿、おめでとうございます」
「ありがとうございます」
皇妃様に言祝いで頂いたと伝えたら、オリガは喜ぶだろう。その後は皇妃様も同席されてアジュガでの様子を聞かれるままに語っていた。特にカミルが元気に走り回る様子を話すと、皇妃様は涙ぐんで喜ばれた。本当にいろんな方に心配をかけていたのだと実感したのだった。
皇都到着の翌日、詰め所には雷光隊全員が顔をそろえていた。留守中の報告を聞き、討伐期の編成を決めるのが主な議題だった。
「我が家の事情で碌に引き継ぎをしないまま皇都を離れて済まなかった。だが、みんなが協力してくれたおかげで息子は元気を取り戻した。ありがとう」
冒頭にそう言って感謝を伝える。彼等は当然の事をしたまでだと言ってくれたのだが、それでも俺の気持ちをちゃんと伝えたかったのだ。更にはカミルが元気になったことを我が事の様に喜んでくれた。本当に俺は部下に恵まれたと思う。感謝しかない。
「その元凶になった男ですが、敬称剥奪の上、ラヴィーネでの労役が科せられることになりました」
先ずは忌まわしき事件の事後処理をシュテファンがしてくれた。フリードリヒは思った以上に重い罰が与えられた様だ。その労役も無期限と言うから、死罪以外では最も重い罰の部類に入るのではないだろうか。
「ミムラス家はハンネス氏が当主となり、レオナルトが補佐を務めます」
レオナルトが当主になるのだと思っていたからこれはちょっと意外だった。陛下からも要請があったはずだが、それを辞退してハンネス氏を推したのはミムラス家を変える意思表示らしい。
「自分はあの男の息子です。陛下の要請があったからと言って後を継いでしまっては、信用を得られないと思ったからです。後継も一族の子供達を教育して一番ふさわしい人物に託すつもりです」
胸を張ってそう答えるレオナルトの姿を見て、頼もしくなったとつくづく思った。自尊心の塊のようで、とても他者を陥れようと画策した人物とは思えない。人は環境で変われるものなのだと痛感した。
「雷光隊はどうする?」
「このままいさせてください」
「忙しいのではないのか?」
「大丈夫です。当主の仕事はきっちりやって頂きますし、アルバン氏にも協力を仰いでいますから」
2人とも目立つのが嫌で隠していたが、本来は優秀な人物らしい。この2カ月の間共に仕事をしてそれが良く分かったので、家内の事はもう任せてしまっているらしい。まあ、大丈夫ならいいだろう。
続けてラウルからは先日行われた会議の内容を報告された。新人が2名加わる事の他に今度の討伐期に各騎士団から派遣要請が来ていることが報告された。どこへ誰を派遣するかは雷光隊に決定権を与えてもらったらしい。それならば、思いっきり私事だが、今期俺はミステルに駐留させてもらおう。そう思いながら他の隊員の希望を先に聞いてみた。
「自分一人でもいいですから、第6騎士団に派遣を願います」
真っ先に手を上げたのはアルノーだった。ドムス領はその管轄内だ。何かあちらで問題でもあったのだろうか?
「理由は?」
「その……個人的な事なのですが、ジークリンデが身籠りまして……。出来るだけ側に居たいと……」
しどろもどろになりながら答えた内容は俺と同様の理由だった。めでたい知らせに他の隊員達から冷やかされている。もちろん、即座に了承し、ファビアンとルーペルトも派遣することに決まった。他の隊員からは特に要望は無かったので、俺のわがままを言わせてもらう事にした。
「今期、俺はミステルに居させてもらう。理由はカミルの事もあるが、まあ、アルノーと同じだ。オリガが身籠ったから傍に居たい」
「え?」
知らなかったのはおそらくラウルとシュテファン、そしてアルノーくらいだろう。彼等は一様に驚いた様子で俺の顔を見る。口止めを頼んでいた隊員は律義にそれを守って上役である彼等にも漏らさなかったのだ。
「おめでとうございます」
一瞬の間の後、歓声が起こって口々に祝ってくれる。彼等も付き合いが長いだけあって、俺達の事情を知っている。我が事の様に喜んでくれた。
「勿論そうして下さい」
ラウルはそう言って割り振りをその場で決めて行った。ミステルには俺の他にシュテファンとローラント、レオナルトと新人1人。皇都はラウルとドミニク、オスヴァルトともう1人の新人。今年は更に第4騎士団へコンラートとエーミール、マティアスを派遣することに決まった。
「新人2人は近日中に顔合わせをすることになっています」
配属が決まったばかりで今日の会議には間に合わなかったらしい。また改めて顔合わせすることになった。ミステルに配属になった1人はまたすぐに移動になってしまうが、新人の内はよくある事だと割り切ってもらおう。
今後はそれぞれの隊長の下で訓練を重ねることで話がまとまった。そしてさらに部下達からは祝わせてもらいたいと申し出があり、近日中に祝いの席が設けられる事が決まった。まあ、単にみんな口実を付けて飲みたいと言うのが正しいかもしれない。
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