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芒種 2
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「あのう……風邪をひかれますよ」
遠慮がちにかけられた声で和敬は目を覚ました。目を開けると見覚えのない若い女性が顔を覗き込んでいる。以前の教訓からこの場所に部外者が無断で入り込むことはもうできないのは分かっているのだが、それでも身に着いてしまっている習性からか、飛び起きた和敬は反射的に身構えていた。
「きゃっ」
女性は驚いてその場で尻餅をついた。大倉家お仕着せのワンピースの裾がめくれ、彼女のほっそりとした足が丸見えになってしまっている。和敬は自分の失態に気付き、内心の動揺をおくびにも出さないようにしながら手を差し出して彼女を立たせた。
「済まない。大丈夫か?」
「あ、はい」
裾がめくれているのに気付いた彼女は慌てて直し、ためらいながらも和敬が差し出した手を取って立ち上がった。
「こちらこそ、すみません。急にお声をかけてしまって……。今月から沙耶様付きのメイドとして勤めております、乃木琴音と申します」
彼女はそう自己紹介をして頭を下げる。顔合わせはまだだったが、そういえば沙耶付きのメイドを雇ったとは聞いていた。何しろ忙しい最中でも義総や幸嗣が沙耶との時間を確保していた。そのしわ寄せが和敬に来たので、先月から屋敷に帰って来る暇がなかったのだ。
「義総様の秘書をしている、青柳和敬だ。本当に失礼した」
「いえ、あの、お気になさらないでください。私こそ急にお声をかけて驚かせてしまって……。」
自己紹介と共に改めて非礼を詫びると、琴音は慌ててそれを制した。このままでは堂々めぐりとなるので、互いに謝罪し合うのはこれまでにした。お仕着せを着ている所からしても、彼女はまだ仕事中だろう。これ以上引き留めるのは得策ではなかった。
「沙耶様の元へ戻らなくていいのか?」
気を使ってそう声をかけてみると、彼女は静かに首を振った。
「先程、義総様からもう下がっていいとお言葉をいただいたところです。御用が出来た場合は綾乃さんが受けて下さるので、本を少し読んでから休もうと思って……」
顔が少しだけ赤いのはもしかしたら主達の閨事を垣間見てしまったのを思い出してしまったからかもしれない。確かにこの屋敷の主2人は加減を知らない。沙耶が恥ずかしがるのを面白がって、琴音の前でも執拗に愛でていたのかもしれない。
そんな彼女が気持ちを落ち着けようと書庫へ来たら和敬が転寝をしていたので思わず声をかけたらしい。親切心で声をかけてくれたのにとんだ早とちりだったと彼は深く反省した。また謝ると堂々巡りになると分かっていたので、そこは自制した。
「難しそうな本を読んでおられるのですね。何かを勉強されているのですか?」
琴音ははずみで落としてしまった本を拾い上げ、目を丸くする。NASAの宇宙開発に関する論文を原文のまま集めたものだ。彼女には何か書いてあるのかさっぱりわからなかった。
「いや、これは趣味の一環だ。興味深い論文が発表されたから取り寄せたんだ」
「すごい……」
彼女からしてみれば、こんな難しそうな本を読めるだけで称賛に値する。普段の和敬であれば、相手が若い女性でもこのように称賛されても一ミリも心が動く事は無い。だが、初対面だが同僚と言う事と、彼女からは一切の下心を感じなかった事から彼は非常に珍しいことに照れていた。そんな自分に頭の片隅で何やっているんだと叱咤しつつ、こんな風に本音で話が出来るのは楽でいい……そう思ったのだった。
その後は2人でソファに座り込み、夜が更けるまで随分と長い時間話し込んでいた。
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
次話は未定。書きあがり次第、近況でお知らせの上更新します。
遠慮がちにかけられた声で和敬は目を覚ました。目を開けると見覚えのない若い女性が顔を覗き込んでいる。以前の教訓からこの場所に部外者が無断で入り込むことはもうできないのは分かっているのだが、それでも身に着いてしまっている習性からか、飛び起きた和敬は反射的に身構えていた。
「きゃっ」
女性は驚いてその場で尻餅をついた。大倉家お仕着せのワンピースの裾がめくれ、彼女のほっそりとした足が丸見えになってしまっている。和敬は自分の失態に気付き、内心の動揺をおくびにも出さないようにしながら手を差し出して彼女を立たせた。
「済まない。大丈夫か?」
「あ、はい」
裾がめくれているのに気付いた彼女は慌てて直し、ためらいながらも和敬が差し出した手を取って立ち上がった。
「こちらこそ、すみません。急にお声をかけてしまって……。今月から沙耶様付きのメイドとして勤めております、乃木琴音と申します」
彼女はそう自己紹介をして頭を下げる。顔合わせはまだだったが、そういえば沙耶付きのメイドを雇ったとは聞いていた。何しろ忙しい最中でも義総や幸嗣が沙耶との時間を確保していた。そのしわ寄せが和敬に来たので、先月から屋敷に帰って来る暇がなかったのだ。
「義総様の秘書をしている、青柳和敬だ。本当に失礼した」
「いえ、あの、お気になさらないでください。私こそ急にお声をかけて驚かせてしまって……。」
自己紹介と共に改めて非礼を詫びると、琴音は慌ててそれを制した。このままでは堂々めぐりとなるので、互いに謝罪し合うのはこれまでにした。お仕着せを着ている所からしても、彼女はまだ仕事中だろう。これ以上引き留めるのは得策ではなかった。
「沙耶様の元へ戻らなくていいのか?」
気を使ってそう声をかけてみると、彼女は静かに首を振った。
「先程、義総様からもう下がっていいとお言葉をいただいたところです。御用が出来た場合は綾乃さんが受けて下さるので、本を少し読んでから休もうと思って……」
顔が少しだけ赤いのはもしかしたら主達の閨事を垣間見てしまったのを思い出してしまったからかもしれない。確かにこの屋敷の主2人は加減を知らない。沙耶が恥ずかしがるのを面白がって、琴音の前でも執拗に愛でていたのかもしれない。
そんな彼女が気持ちを落ち着けようと書庫へ来たら和敬が転寝をしていたので思わず声をかけたらしい。親切心で声をかけてくれたのにとんだ早とちりだったと彼は深く反省した。また謝ると堂々巡りになると分かっていたので、そこは自制した。
「難しそうな本を読んでおられるのですね。何かを勉強されているのですか?」
琴音ははずみで落としてしまった本を拾い上げ、目を丸くする。NASAの宇宙開発に関する論文を原文のまま集めたものだ。彼女には何か書いてあるのかさっぱりわからなかった。
「いや、これは趣味の一環だ。興味深い論文が発表されたから取り寄せたんだ」
「すごい……」
彼女からしてみれば、こんな難しそうな本を読めるだけで称賛に値する。普段の和敬であれば、相手が若い女性でもこのように称賛されても一ミリも心が動く事は無い。だが、初対面だが同僚と言う事と、彼女からは一切の下心を感じなかった事から彼は非常に珍しいことに照れていた。そんな自分に頭の片隅で何やっているんだと叱咤しつつ、こんな風に本音で話が出来るのは楽でいい……そう思ったのだった。
その後は2人でソファに座り込み、夜が更けるまで随分と長い時間話し込んでいた。
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次話は未定。書きあがり次第、近況でお知らせの上更新します。
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