掌中の珠のように2

花影

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波紋4

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「……で、俺達に何の用?」
 清尚学園の理事長室。美弥子に拉致されてきた幸嗣と直哉は仏頂面でソファに並んで座っていた。そんな2人に苦笑しながらジェシカの母親エレンは2人に良く冷えたアイスコーヒーを差し出す。
「お、いましたぞ」
 向かいのソファに座った部屋の主は美弥子と一緒に熱心に学園内を映したモニターを見ていたが、目当てを見つけたのか、2人で画面を食い入るように見ている。
「あの子達、沙耶ちゃん連れてチアを見に行くって言ってたのよ。一緒に行ってもいいんだけど、君達も来ると混乱を招きそうだったから隔離したの」
 美弥子は実に楽しそうに画面を見入っている。そこには飲み物を飲んで一息ついている沙耶と、彼女を気遣う同級生達の姿が映っていた。
「そんな理由でここへ連れてきたわけ? ひどいなぁ」
「沙耶ちゃんに普通の学園生活を送ってもらいたいんでしょ?」
「確かにそうだけど……」
 幸嗣はまだ納得がいかないようだが、彼に無理に付き合わされた直哉はもっと納得がいかなかった。
 夏休み前から父親に帰国命令が出されていたのだが、研究を優先していた直哉はそれを無視していた。口うるさく催促する父親を、手掛けていた研究が一段落するまで帰国を見合わせる様に説得してくれたのは近くの大学に留学してきた幸嗣だった。その幸嗣も急遽帰国する事になり、直哉の方もようやく研究成果にめどがついたところで今日一緒に帰国したのだ。
 満足いくまで研究する時間を稼いでくれた幸嗣には感謝していたので、母校の学園祭に用があると言う彼に付き合ったが、ここで何もしないで時間をつぶすよりは実家にある研究室に籠った方が彼にとっては有意義だった。
「帰らせてもらいます」
「まだ駄目よ」
「何故?」
 美弥子は立ち上がりかけた直哉の腕をつかんで元の場所に座らせ、妖艶な笑みを浮かべながら彼の顔を指で触れる。
「お話があるの」
 美弥子は直哉の隣に座ると、その豊満な体を擦り付けるようにして寄せてくる。開いた胸元に直哉はつい釘付けになってしまう。
「あ……あの……」
 未経験ではないが、幸嗣に比べると女性経験が少ない直哉は思わずゴクリと唾を飲みこむ。
「かわいいわぁ。本当に初心なんだから……」
 直哉はヒィッと息を飲んで後ろへ逃れようとするが、隣にいたはずの幸嗣は巻き添えを避ける様にいつの間にか席を外しており、直哉は枝垂れかかってきた美弥子にソファへ押し倒される。
「今夜はうちへいらっしゃい。たっぷりとかわいがってあげるわ」
 ふふふ……と楽しそうに笑いながら、美弥子は直哉の体のラインを指で確かめる様にツツツーと撫でていく。その怪しい指使いに背筋にゾクリとした快感が走り、下半身に熱が集中してくるのを感じるが、どうにも止められない。
「ふふっ、体は正直ね」
「いやっ、あのっ、これは……」
 しっかりと反応してしまっているのを指摘され、直哉は大いに狼狽える。幸嗣に救いを求めようとするが、彼は素知らぬ顔で理事長とモニターを覗き込んでいる。
「美弥子さん、ここで始めるのはご遠慮願いたいのですが……」
「……仕方ないわねぇ。今は止めておきましょうか」
 エレンがやんわりとたしなめる様に声をかけると、美弥子はようやく体を起こした。それでも名残惜しいのか、直哉の太腿を指でたどり、熱を持ったままの彼自身をさわりと撫でる。
「……っ」
「続きは今夜ね」
 拒否権の無い彼は、悪寒がするのかブルリと体を震わせた。



「……沙耶さんの様子が変ですね」
「発作だ。行かなきゃ」
 モニターを覗き込んでいた理事長の言葉に幸嗣はすぐに飛び出していこうとする。
「待って」
 そんな彼を止めたのは先程まで直哉を玩具にしようとしていた美弥子だった。妖艶な笑みは消え、彼女も真剣な表情でモニターを覗く。
「美弥子さん!」
「もうちょっと様子を見ましょう」
 すぐにでも駆けつけて発作に苦しむ彼女を抱きしめてやりたい幸嗣は、止める美弥子に恨みがましい目を向ける。
「ジェシカちゃんと杏奈が気付いたわ。薬を飲んだみたいだし、どうやら今回の発作は軽かったみたいね」
「……」
 沙耶の手を握っていた2人が安堵の表情を浮かべるのを見て、幸嗣もようやく安堵する。ソファに1人取り残された直哉はその様子を眺めていたのだが、珍しい物を見るかのように軽く目を見張る。
「珍しいな、お前が女性に対してそこまで真剣になるなんて」
 子供の頃からの付き合いである。フェミニストの幸嗣は女性に対して優しいのだが、彼に交際を申し込んで来る女性の大半は背後に見える大倉家しか見ていない事が多く、上辺だけの付き合いで済ませる事を直哉は良く知っていた。
 その彼がモニターに映る少女の姿に目を和ませ、真剣にその身を案じている姿が実に新鮮だった。興味をひかれた直哉はソファから立ち上がって一同が見入っているモニターを一緒になって覗き込んでみる。
「大人しそうな子だな」
 直哉は率直な感想を漏らす。確かに今まで幸嗣の周囲に居なかったタイプで、それで惹かれているのかと一瞬は思った。だが、ただそれだけでここまであからさまに態度を変える様な男ではないとすぐに思い直す。
「付き合っているのか?」
「婚約者だ」
「え?」
 幸嗣の端的な答えに何も知らない直哉は驚愕する。
「そんなこと言ってると、アイツに怒られるわよ」
 全てを承知している美弥子は面白そうに横から口を挟む。
「兄さんがいくら俺を脅しても選ぶのは沙耶だ」
 ムッとして幸嗣が言い返す。
「彼がジェシカと同じ年の子に心を奪われるなんて今でも信じられないよ」
「ええ、あの献身ぶりはこちらが胸やけを起こしそうだわ」
「果たしてあの間に入り込む余地は有るかしら?」
 周囲が彼を揶揄する会話だけで直哉は大倉兄弟が一人の女性を巡って争っているのをようやく理解したが、以前の彼等しか知らない直哉はすぐに信じられなかった。
「お前達が?」
「ああ」
「フフッ。可哀そうに沙耶ちゃんは、ケダモノ2人に結婚を迫られているのよ」
 美弥子が意味深な笑みを浮かべて口を挟む。しかし、「そう言うあなたが一番ケダモノですよ」とその場にいる全員が思ったが、賢明な彼等はそのケダモノの餌食を避けるために、あえて誰もそれを指摘しなかった。


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ジェシカの両親初登場w
性に対して寛容ではあるけれど、娘には厳しいのです。
実は……母親のエレンが清尚学園に留学した折、当時教壇に立っていたジェシカパパが見初め、猛烈に口説いたのだとか……。
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