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波紋6
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チアの演技が終わり、他に用事のあったクラスメイトは早々に席を立ったが、沙耶と杏奈とジェシカの3人は出口の混雑を避ける為にしばらくその場に留まっていた。そしてようやく人もまばらになったので、席を立ちかけた所へ杏奈の携帯が着信を知らせる。
「ごめん、チアのみんなが呼んでいるからちょっと行って来るね」
携帯で会話を済ませた杏奈は、沙耶達に一言断ると先に席を立つ。
「分かったわ。体育館出た所で待ってるね」
このまま、ここで待っていたかったが、チアの演技で体育館の使用は最後になる為、もう後片付けが始めっている。清掃が終われば体育館も閉められてしまうので、待ち合わせは外にしておいた方が安全だろう。
「うん、すぐ戻れると思う」
杏奈は2人に手を振ると、反対方向へ走っていく。足を痛めた当初は歩くのも辛そうだったが、もうずいぶんと良くなったようだ。そんな彼女に2人は小さく手を振って見送った。
「やあ、また会ったね」
「こんなとこ抜け出してもっと楽しい所に行こうよ」
沙耶とジェシカが体育館の外にあるベンチで休んでいると、不意に声をかけられる。顔を上げると、ここへ来る前にしつこく声をかけてきた他校の生徒らしい5人の男子学生のグループが立っていた。
「学園祭は授業の一環として行われています。勝手に校外へ出る事は出来ません」
ジェシカが冷静に対処するが、彼等は訊く耳を持たない。
「そんな堅苦しい事言わないで、一緒に遊ぼうぜ」
「良い所連れてってやるからさぁ」
にやにやと薄ら笑いを浮かべながら、5人は沙耶達が座っているベンチを取り囲む。
「私達は行かないと申し上げております。お引き取り下さい」
やんわりと断るだけでは聞かないだろうと判断し、ジェシカは比較的きっぱりと彼等の申し出を断る。ここは清尚学園の敷地内で、学園祭と言う事もあって常より多くの警備員が詰めている。更には至る所に防犯カメラが設置されていて、この光景をきっと父親である理事長が見ているはずだった。彼女は冷静に判断してきっぱりとした態度を貫いた。
「君、可愛いね。俺の好みだよ」
しかし、彼等も余程沙耶の事が気に入ったのか、ここを動こうとはしない。中の1人が沙耶の隣に腰かけ、馴れ馴れしく肩を抱こうとする。
「やめて……下さい」
沙耶はその腕を避けて立ち上がり、精一杯拒絶するが、逆に彼等を刺激してしまった様だ。
「来いよ。楽しいことしようぜ」
「遊ぼうぜ、沙耶ちゃん」
名前を呼ばれた沙耶だけでなくジェシカも驚く。先に絡まれた時も誰も沙耶の名前を呼ぶようなまねはしていない。自分達をつけてその後の会話をずっと聞いていたのだろうか?
「どう……して……」
薬を飲んだばかりなのに沙耶の背筋に再び悪寒が走り、手が震えてくる。
「かわいいなぁ」
「行こうぜ」
完全に固まってしまった沙耶の腕を、先ほど肩を抱こうとした男が掴んで引き寄せる。
「いやっ!」
「彼女を離して!」
「ちょっと、待ちなさいよ!」
「邪魔だ、どけろ!」
沙耶が悲鳴を上げ、ジェシカが声を荒げたその時に少し離れた建物の陰で別の言い争う声が飛び交っていた。
杏奈が体育館の裏手でチアの仲間や後輩と話をしていると、携帯の着信を知らせる音楽が鳴る。流れる音楽から相手が美弥子とわかったので、開口一番に文句を言ってやろうとすぐに携帯を手に取った。
「ママ? 幸嗣さん達を……」
「杏奈、沙耶ちゃん達が絡まれているの。幸嗣君が飛び出していったけど、あなたの方が近いからすぐに向かってちょうだい」
杏奈に話させる間も無く美弥子が一気に用件を伝える。あくまでマイペースな母に振り回されっぱなしの娘は、文句を言いたかったが、看過できないその内容に自分の不満はどこかに飛んでいた。
「え?」
「彼一人じゃ危険だから直哉君も向かわせたけど、とにかく幸嗣君が怒りで暴走しないように抑えてちょうだい。警備室には連絡してあるから、警備員もすぐに駆けつける筈よ」
「分かったわ」
背は高いものの、モデル体型で柔和な雰囲気を持つ幸嗣は一見して強くは見えない。しかし、子供の頃から家庭教師を務めていた青柳に鍛えられていて、護身の為に武道を身に着けている。
近隣の体の大きなガラの悪いお兄さん達が彼の姿を見るとコソコソと身を隠すようにしてその場から逃げる事から、その強さは並大抵ではないらしい。その彼が、怒りに任せてその学生達の相手をすれば、彼等は全員怪我だけでは済まなくなる恐れもあった。
悪いのは向こうとは言え、学園の敷地内……しかも学園祭の日にこういった暴力沙汰は極力避けたいところでもある。理事長直々の要請でもあったので、杏奈は通話を切るとすぐに行動に移した。
「友達がなんか絡まれているみたいなの。ちょっと助けに行ってくるわ」
杏奈が勤めて明るく宣言すると、その場にいた全員が協力を申し出る。
「もしかして沙耶さん? 私も手伝うわ」
「先輩、お手伝いできることありますか?」
今日の演技に一時復帰して参加していた同級生は皆、沙耶とも顔見知りである。杏奈と一緒に先ほどの演技を見に来ていたのを知っているので、自分達が杏奈を呼び出したばかりにトラブルに巻き込まれてしまったのだと責任を感じたのだ。
後輩達は後輩達で、今回の演技に足を痛めても助力してくれた大好きな彼女の役に立ちたいと我も我もと手を上げる。
「ありがとう。でも、危ないからあなた達はここの片づけをしていてください」
落胆する後輩達に謝罪し、杏奈はその場にいた同級生3人と一緒に彼女達がいる筈の体育館前のベンチに向かった。
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
中学の頃から目立つ外見の為、ガラの悪いお兄さん達によく因縁をつけられていた幸嗣。
例え相手が複数だろうと尽く返り討ちにしてきたという武勇伝の数々がそういったお兄さんたちの間に語り継がれているとかいないとか……。
次話、残念なお坊ちゃん再び登場w
「ごめん、チアのみんなが呼んでいるからちょっと行って来るね」
携帯で会話を済ませた杏奈は、沙耶達に一言断ると先に席を立つ。
「分かったわ。体育館出た所で待ってるね」
このまま、ここで待っていたかったが、チアの演技で体育館の使用は最後になる為、もう後片付けが始めっている。清掃が終われば体育館も閉められてしまうので、待ち合わせは外にしておいた方が安全だろう。
「うん、すぐ戻れると思う」
杏奈は2人に手を振ると、反対方向へ走っていく。足を痛めた当初は歩くのも辛そうだったが、もうずいぶんと良くなったようだ。そんな彼女に2人は小さく手を振って見送った。
「やあ、また会ったね」
「こんなとこ抜け出してもっと楽しい所に行こうよ」
沙耶とジェシカが体育館の外にあるベンチで休んでいると、不意に声をかけられる。顔を上げると、ここへ来る前にしつこく声をかけてきた他校の生徒らしい5人の男子学生のグループが立っていた。
「学園祭は授業の一環として行われています。勝手に校外へ出る事は出来ません」
ジェシカが冷静に対処するが、彼等は訊く耳を持たない。
「そんな堅苦しい事言わないで、一緒に遊ぼうぜ」
「良い所連れてってやるからさぁ」
にやにやと薄ら笑いを浮かべながら、5人は沙耶達が座っているベンチを取り囲む。
「私達は行かないと申し上げております。お引き取り下さい」
やんわりと断るだけでは聞かないだろうと判断し、ジェシカは比較的きっぱりと彼等の申し出を断る。ここは清尚学園の敷地内で、学園祭と言う事もあって常より多くの警備員が詰めている。更には至る所に防犯カメラが設置されていて、この光景をきっと父親である理事長が見ているはずだった。彼女は冷静に判断してきっぱりとした態度を貫いた。
「君、可愛いね。俺の好みだよ」
しかし、彼等も余程沙耶の事が気に入ったのか、ここを動こうとはしない。中の1人が沙耶の隣に腰かけ、馴れ馴れしく肩を抱こうとする。
「やめて……下さい」
沙耶はその腕を避けて立ち上がり、精一杯拒絶するが、逆に彼等を刺激してしまった様だ。
「来いよ。楽しいことしようぜ」
「遊ぼうぜ、沙耶ちゃん」
名前を呼ばれた沙耶だけでなくジェシカも驚く。先に絡まれた時も誰も沙耶の名前を呼ぶようなまねはしていない。自分達をつけてその後の会話をずっと聞いていたのだろうか?
「どう……して……」
薬を飲んだばかりなのに沙耶の背筋に再び悪寒が走り、手が震えてくる。
「かわいいなぁ」
「行こうぜ」
完全に固まってしまった沙耶の腕を、先ほど肩を抱こうとした男が掴んで引き寄せる。
「いやっ!」
「彼女を離して!」
「ちょっと、待ちなさいよ!」
「邪魔だ、どけろ!」
沙耶が悲鳴を上げ、ジェシカが声を荒げたその時に少し離れた建物の陰で別の言い争う声が飛び交っていた。
杏奈が体育館の裏手でチアの仲間や後輩と話をしていると、携帯の着信を知らせる音楽が鳴る。流れる音楽から相手が美弥子とわかったので、開口一番に文句を言ってやろうとすぐに携帯を手に取った。
「ママ? 幸嗣さん達を……」
「杏奈、沙耶ちゃん達が絡まれているの。幸嗣君が飛び出していったけど、あなたの方が近いからすぐに向かってちょうだい」
杏奈に話させる間も無く美弥子が一気に用件を伝える。あくまでマイペースな母に振り回されっぱなしの娘は、文句を言いたかったが、看過できないその内容に自分の不満はどこかに飛んでいた。
「え?」
「彼一人じゃ危険だから直哉君も向かわせたけど、とにかく幸嗣君が怒りで暴走しないように抑えてちょうだい。警備室には連絡してあるから、警備員もすぐに駆けつける筈よ」
「分かったわ」
背は高いものの、モデル体型で柔和な雰囲気を持つ幸嗣は一見して強くは見えない。しかし、子供の頃から家庭教師を務めていた青柳に鍛えられていて、護身の為に武道を身に着けている。
近隣の体の大きなガラの悪いお兄さん達が彼の姿を見るとコソコソと身を隠すようにしてその場から逃げる事から、その強さは並大抵ではないらしい。その彼が、怒りに任せてその学生達の相手をすれば、彼等は全員怪我だけでは済まなくなる恐れもあった。
悪いのは向こうとは言え、学園の敷地内……しかも学園祭の日にこういった暴力沙汰は極力避けたいところでもある。理事長直々の要請でもあったので、杏奈は通話を切るとすぐに行動に移した。
「友達がなんか絡まれているみたいなの。ちょっと助けに行ってくるわ」
杏奈が勤めて明るく宣言すると、その場にいた全員が協力を申し出る。
「もしかして沙耶さん? 私も手伝うわ」
「先輩、お手伝いできることありますか?」
今日の演技に一時復帰して参加していた同級生は皆、沙耶とも顔見知りである。杏奈と一緒に先ほどの演技を見に来ていたのを知っているので、自分達が杏奈を呼び出したばかりにトラブルに巻き込まれてしまったのだと責任を感じたのだ。
後輩達は後輩達で、今回の演技に足を痛めても助力してくれた大好きな彼女の役に立ちたいと我も我もと手を上げる。
「ありがとう。でも、危ないからあなた達はここの片づけをしていてください」
落胆する後輩達に謝罪し、杏奈はその場にいた同級生3人と一緒に彼女達がいる筈の体育館前のベンチに向かった。
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
中学の頃から目立つ外見の為、ガラの悪いお兄さん達によく因縁をつけられていた幸嗣。
例え相手が複数だろうと尽く返り討ちにしてきたという武勇伝の数々がそういったお兄さんたちの間に語り継がれているとかいないとか……。
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