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波紋7
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清掃を終えた体育館は既に鍵を閉められていて最短距離を突っ切ることが出来なくなっていた。杏奈は仕方なく友人と共に小走りで建物を迂回したのだが、建物の角に身を隠すようにして表側の様子を窺う不審人物を発見する。
「待っていてくれよ、沙耶ちゃん。あと10数えたら助けに行くぞ……」
スーツ姿の中肉中背の男が何やら小声でブツブツ言いながらタイミングを計っている。杏奈はその見覚えのある姿に近寄ると、いかにも怪しい行動をしている相手の肩を思い切り掴んだ。
「何しているんですか、明人さん」
「!」
睨むようにして立っている杏奈達4人の姿に明人は狼狽える。
「君には関係ないだろう」
「まだ沙耶さんを付け回しているの?」
「……っ。関係ないだろう!」
義総から明人が人を雇って沙耶の動向を調べているのを知らされており、杏奈は半ばあきれて相手を見上げる。彼は目を逸らすと、それ以上は何も言わずにその場を立ち去ろうとする。
「ちょっと、待ちなさいよ!」
「邪魔だ、どけろ!」
杏奈は行かせまいと明人の前に立ちはだかるが、彼は彼女を突き飛ばして体育館の表側へ歩いていく。
「ちょっと……痛っ……」
倒れ込んだ杏奈は立ち上がろうとするが、運悪く治りかけていた足の怪我を悪化させてしまった様だ。蹲った彼女に友人3人が駆け寄り、明人を睨みつける。
「杏奈、大丈夫?」
「ちょっと、あなた何するの!」
「うるさい!」
明人は叫ぶと絡まれている沙耶の元へ駆け出す。
「私は良いから、沙耶の所へ行って! あの人沙耶のストーカーよ」
「分かったわ」
3人は杏奈を気にしながらも慌てて明人の後を追う。杏奈もどうにか立ち上がって後を追おうとするが、痛めた足に力が入らず倒れそうになったところを誰かに受け止められる。
「足、痛めたのか?」
「……直哉……さん?」
彼女を抱きとめてくれたのは眼鏡をかけた線の細い若者だった。杏奈が最後に会ったのは彼が留学する前だから4年程前になるが、その面影は変わっておらず、すぐに相手が直哉だと気付いた。
「ああ、無理するな。あちらは幸嗣が行ったから心配ない」
少しぶっきらぼうに答えると、意外と力があるのか彼女をお姫様抱っこして歩き始めた。
「お……降ろして……」
「俺はそんなに力が無いから暴れるなよ。落とすぞ」
「だって、歩ける……」
「痛むんだろう? 君に無理させたら後であの人に何されるか……」
あの人とは美弥子の事である。この後、沙耶に処方している薬について詳しい打ち合わせをする事になっている。もちろんそれだけで終わりそうになく、このまま彼女に無理させてしまえばそれを口実に更に何をされるか考えただけでも恐ろしい。
「……ママの事、苦手だったわね」
「……ちょっとね」
正直に答える彼の顔は少しひきつっていた。昔と変わらない幼馴染に杏奈はようやく体の力を抜いて相手に身を任せる。
「医務室行こう」
「でも、沙耶は……」
「幸嗣がいれば大丈夫だ」
「でも……」
「警備員も来るし、あれだけの女の子の前ではひどい暴力は振るわないさ」
「……」
直哉は既に医務室に向かって歩き出していた。杏奈は後ろ髪引かれる思いはしたが、ナイトのお出ましなら彼に任せておくのが一番いいのだろう。一つ溜息をつくと、もう諦めた彼女は黙って彼に従った。
別に起こった騒ぎに気を取られ、男の手が緩んだ隙に沙耶はその手を振り払ってその場から離れた。
「あっ、待て!」
男は慌てて手を伸ばすが、それを何とか沙耶は避けてジェシカとその場から走って逃げる。だが、その行く手にスーツ姿の男が現れ、沙耶は固まってしまう。
「ああ、沙耶ちゃん、助けに来たよ」
明人は笑顔で近寄ってくる。だが沙耶にはその笑顔がとても恐ろしく感じる。
「怖い思いをしたね。僕が慰めてあげるよ」
後ろから先ほどの男達も追いついて来た。ジェシカは震える沙耶を庇い、男達と明人を交互に見据える。
「何故、あなたがここにいるのですか?」
「君に用は無い。沙耶をこちらへ」
明人が迫って来る。そこへチアの友人が駆けつける。
「その人、あの建物の陰で様子を窺っていたのよ」
「杏奈を突き飛ばして怪我させたわ」
3人も沙耶を庇う様にして立つ。
「うるさいな。おい、お前達、報酬弾むからこの小娘達を黙らせろ。沙耶ちゃん以外は好きにして良いぞ」
明人は5人に顎で命じる。5人は驚いたようだが、それでも報酬を聞くと目の色を変える。
「最低……」
「もしかして計画的犯行ってやつ?」
「それにしてはお粗末よねぇ」
女子高生達は内心の恐怖をごまかす様にわざと明人の不首尾を指摘する。一方の彼はこめかみに青筋を浮かべ、握り込んだ拳がわなわなと震えている。
「黙れ! 黙れ! 黙れ!」
ついにキレた明人は目を血走らせて少女達に殴りかかろうとする。
「止めて下さい!」
その前に立ちはだかったのはなんと先程まで庇われていた沙耶だった。どうしようもなく体は震えるが、それでも友達が殴られるのを黙って見ていられなかった。
「なんでそんな事をなさるのですか? お誘いの件は正式にお断りしたはずです」
震えながらも真っ直ぐに相手を見返すが、明人は彼女の言葉を聞いてはいなかった。
「あの2人に監禁されて可哀想に……。僕が助け出してあげるよ」
明人は笑みを浮かべて沙耶の腕を掴もうとするが、その腕を何者かががっしりと掴んで捩じ上げる。
「汚い手で彼女に触るな」
そこにいたのは怒りを顕にした幸嗣だった。
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
コイツ、キモい
自分で書いてて本気でそう思った作者だった……。
「待っていてくれよ、沙耶ちゃん。あと10数えたら助けに行くぞ……」
スーツ姿の中肉中背の男が何やら小声でブツブツ言いながらタイミングを計っている。杏奈はその見覚えのある姿に近寄ると、いかにも怪しい行動をしている相手の肩を思い切り掴んだ。
「何しているんですか、明人さん」
「!」
睨むようにして立っている杏奈達4人の姿に明人は狼狽える。
「君には関係ないだろう」
「まだ沙耶さんを付け回しているの?」
「……っ。関係ないだろう!」
義総から明人が人を雇って沙耶の動向を調べているのを知らされており、杏奈は半ばあきれて相手を見上げる。彼は目を逸らすと、それ以上は何も言わずにその場を立ち去ろうとする。
「ちょっと、待ちなさいよ!」
「邪魔だ、どけろ!」
杏奈は行かせまいと明人の前に立ちはだかるが、彼は彼女を突き飛ばして体育館の表側へ歩いていく。
「ちょっと……痛っ……」
倒れ込んだ杏奈は立ち上がろうとするが、運悪く治りかけていた足の怪我を悪化させてしまった様だ。蹲った彼女に友人3人が駆け寄り、明人を睨みつける。
「杏奈、大丈夫?」
「ちょっと、あなた何するの!」
「うるさい!」
明人は叫ぶと絡まれている沙耶の元へ駆け出す。
「私は良いから、沙耶の所へ行って! あの人沙耶のストーカーよ」
「分かったわ」
3人は杏奈を気にしながらも慌てて明人の後を追う。杏奈もどうにか立ち上がって後を追おうとするが、痛めた足に力が入らず倒れそうになったところを誰かに受け止められる。
「足、痛めたのか?」
「……直哉……さん?」
彼女を抱きとめてくれたのは眼鏡をかけた線の細い若者だった。杏奈が最後に会ったのは彼が留学する前だから4年程前になるが、その面影は変わっておらず、すぐに相手が直哉だと気付いた。
「ああ、無理するな。あちらは幸嗣が行ったから心配ない」
少しぶっきらぼうに答えると、意外と力があるのか彼女をお姫様抱っこして歩き始めた。
「お……降ろして……」
「俺はそんなに力が無いから暴れるなよ。落とすぞ」
「だって、歩ける……」
「痛むんだろう? 君に無理させたら後であの人に何されるか……」
あの人とは美弥子の事である。この後、沙耶に処方している薬について詳しい打ち合わせをする事になっている。もちろんそれだけで終わりそうになく、このまま彼女に無理させてしまえばそれを口実に更に何をされるか考えただけでも恐ろしい。
「……ママの事、苦手だったわね」
「……ちょっとね」
正直に答える彼の顔は少しひきつっていた。昔と変わらない幼馴染に杏奈はようやく体の力を抜いて相手に身を任せる。
「医務室行こう」
「でも、沙耶は……」
「幸嗣がいれば大丈夫だ」
「でも……」
「警備員も来るし、あれだけの女の子の前ではひどい暴力は振るわないさ」
「……」
直哉は既に医務室に向かって歩き出していた。杏奈は後ろ髪引かれる思いはしたが、ナイトのお出ましなら彼に任せておくのが一番いいのだろう。一つ溜息をつくと、もう諦めた彼女は黙って彼に従った。
別に起こった騒ぎに気を取られ、男の手が緩んだ隙に沙耶はその手を振り払ってその場から離れた。
「あっ、待て!」
男は慌てて手を伸ばすが、それを何とか沙耶は避けてジェシカとその場から走って逃げる。だが、その行く手にスーツ姿の男が現れ、沙耶は固まってしまう。
「ああ、沙耶ちゃん、助けに来たよ」
明人は笑顔で近寄ってくる。だが沙耶にはその笑顔がとても恐ろしく感じる。
「怖い思いをしたね。僕が慰めてあげるよ」
後ろから先ほどの男達も追いついて来た。ジェシカは震える沙耶を庇い、男達と明人を交互に見据える。
「何故、あなたがここにいるのですか?」
「君に用は無い。沙耶をこちらへ」
明人が迫って来る。そこへチアの友人が駆けつける。
「その人、あの建物の陰で様子を窺っていたのよ」
「杏奈を突き飛ばして怪我させたわ」
3人も沙耶を庇う様にして立つ。
「うるさいな。おい、お前達、報酬弾むからこの小娘達を黙らせろ。沙耶ちゃん以外は好きにして良いぞ」
明人は5人に顎で命じる。5人は驚いたようだが、それでも報酬を聞くと目の色を変える。
「最低……」
「もしかして計画的犯行ってやつ?」
「それにしてはお粗末よねぇ」
女子高生達は内心の恐怖をごまかす様にわざと明人の不首尾を指摘する。一方の彼はこめかみに青筋を浮かべ、握り込んだ拳がわなわなと震えている。
「黙れ! 黙れ! 黙れ!」
ついにキレた明人は目を血走らせて少女達に殴りかかろうとする。
「止めて下さい!」
その前に立ちはだかったのはなんと先程まで庇われていた沙耶だった。どうしようもなく体は震えるが、それでも友達が殴られるのを黙って見ていられなかった。
「なんでそんな事をなさるのですか? お誘いの件は正式にお断りしたはずです」
震えながらも真っ直ぐに相手を見返すが、明人は彼女の言葉を聞いてはいなかった。
「あの2人に監禁されて可哀想に……。僕が助け出してあげるよ」
明人は笑みを浮かべて沙耶の腕を掴もうとするが、その腕を何者かががっしりと掴んで捩じ上げる。
「汚い手で彼女に触るな」
そこにいたのは怒りを顕にした幸嗣だった。
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自分で書いてて本気でそう思った作者だった……。
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