転生するのにベビー・サタンの能力をもらったが、案の定魔力がたりない~最弱勇者の俺が最強魔王を倒すまで~

葛来奈都

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第2章 創造者《クリエイター》の冒険者ギルド

第34話 到着、クーラの泉

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「……ようやく着いたわ」

 腰に手を当てたアンジェは、ホッと一息ついて先に進む。

 そして奥の空間でも明かりが灯された時、俺は思わず息を止めた。

 奥の空間は泉になっていた。その水を手で掬ってみると、光が届かない場所のはずなのに水がオーロラのように光って見えた。水の感覚も違う。ひんやりとした冷たさの中に、優しい温もりを感じる。この温もりはミドリーさんに治療魔法をしてもらった時の感覚に近い。

 何も知らなくても一目見てわかった。これが、クーラの水だ。

「神秘的でしょ? 息を呑むほどの美しさよね」

 アンジェは俺の隣に並び、光り輝く泉を一望した。

 言うならば「クーラの泉」彼の言う通り、この空間に目を奪われるほど圧巻される光景だ。

「君に見せてあげたかったの」

 アンジェが澄ました顔で小さく口角を上げる。その優しさに少しばかり照れてしまう。

 確かにこの景色は現実世界にはない。夢のように美しい光景だ。二人ともすっかりこの水の美しさに魅了されていたが、やがてアンジェが思い出したように手を叩いた。

「そうそう、クエストもやらないと」

「ああ、そうだった」

 すっかり泉に気を取られていたが、目的はこの水だ。

 クエストの内容はクーラの水をウォーター・コア・ボトル二個。さっそくウエストバッグからボトルを取り出す。

「そういえば、まだウォーター・コアの使い方を教えてなかったわね」

 ボトルの蓋を開けたアンジェは泉の前にしゃがみ、ウォーター・コアをボトルに入れたまま水に浸からせた。

 やり方はそれだけ。それでも俺は度肝を抜いた。ウォーター・コアがまるでブラックホールのようにどんどん水を吸いこんでいるのだ。

 いったい何リットル吸収しているのだろうか。吸う勢いで小さな渦潮ができている。だが、やがてウォーター・コアは青い光をぼんやりと浮かべた後、水を吸わなくなった。

 満水になったのを確認すると、アンジェは泉からボトルを取り出した。けれども、ボトルに入った水をわざと流し出して蓋をした。ボトルの中には敢えてウォーター・コアしか入れないようにするらしい。

「このウォーター・コアにはご覧の通りクーラの水が吸収されているわ。これを、こうすると……」

 そう言って、アンジェはボトルを振った。

 ウォーター・コアはカラカラと音を鳴らしながらボトルの中で転がる。すると、ウォーター・コアからどんどん水が出てきた。おそらく、今しがた吸い込んだクーラの水だろう。

 ボトルを振れば振るほどクーラの水が溢れ出てくる。その異様な光景に俺の目は点になった。

 唖然としている俺を見て、アンジェはクスッと笑う。

「凄いでしょう? ウォーター・コアだけでボトル五本分は水を吸い込んでくれるんだから。しかもたとえ満杯に水を吸い込んだとしても質量は変わらない。持ち運びにも便利なのよ」

「何そのハイテク機能! 凄すぎね!?」

 つまり水筒にもなるし、回復薬のタンクにもなる。高性能過ぎて感動してしまう。

 さっそく俺もボトルを泉に突っ込む。すると、凄い勢いでウォーター・コアは水を吸い込んでいった。これ、なかなか楽しいぞ。

「これだけいっぱいクーラの水を汲めるなら、教会も二本とは言わず、もっと本数増やしてもよかったんじゃないの?」

 ふと沸いた疑問をぶつけると、アンジェは複雑そうな表情を浮かべながら「うーん」と唸った。

「なかなか難しいわよね。まず、ウォーター・コアが魔物からしか取れないから貴重品でしょ? それにここまで距離もあるし魔物の数もなかなか……でも、教会側もそこまで高い報酬を出せないから、ギルド員の中には『割りに合わない』っていう人もいるのよ」

「なるほど……ギルド員も生活かかってるもんな」

 アンジェの言葉から察すると、このクエストは相当人気がなさそうだ。

 それは、モネさんもあそこまで喜ぶはずだ。

 といっても、冒険者やギルド員もまったくここに立ち寄らない訳ではないらしい。

 長旅をする時や【治療師ヒーラー】がいない時に緊急用の回復薬として重宝しているのだ。ただし、これはアンジェのように普通のボトルに補充する。みんな自分のことで精一杯なのだ。

 生きるのは大変だ。どの世界でも。

 そんなことを話しているうちに、ウォーター・コアが満水になった。あとはこれをギルドの集会所まで持って帰ればいいのだが……それはそれで大変だ。なんせ、来た道を戻らなければならないのだから。

「なかなか遠いよな……」

 この億劫さに思わずぼやいてしまう。

 すると、嘆息をつく俺を見てアンジェが笑った。

「大丈夫よ。とっておきの近道があるから」

 そう言ったアンジェは得意げな表情を浮かべながら自分の鞄を漁る。

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