転生するのにベビー・サタンの能力をもらったが、案の定魔力がたりない~最弱勇者の俺が最強魔王を倒すまで~

葛来奈都

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第3章 青年剣士の過日

第52話 夜のとばりと吹弾

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「どうした?」

 俺も一緒になって窓の外を眺めてみる。そこでは黒い人影が動いていた。

 街灯もないし、暗くて顔がよく見えない。ただ、すらっとしたスタイルのいい体型と肩につきそうな程で毛先が緩やかに巻いてある髪のシルエットには見覚えがあった。

「……アンジェ?」

 先に寝ると言ったはずのアンジェが外にいる。しかも、手には何かを持っているようだ。

「あいつ、あんなところで何してるんだろうな」

「さあね……っと」

 そう返した矢先、ノアが跳躍して俺の肩に乗った。

 何も言わなくてもわかる。彼もアンジェの様子が気になるのだろう。

 それに、俺も彼に確かめたいこともある。

「……行くぞ」

 ノアに言われ、俺も頷く。そして、外にいるアンジェを見失う前に俺は早足で部屋を出た。


 ◆ ◆ ◆


 ノアと共に静かに外へ出ると、アンジェの姿はまだそこにあった。

 アンジェは無言で夜空を見上げていた。

 街灯も家の灯りもないと俺たちを照らすのは月の光と星の瞬きだけであった。

 煌々と光る星空は、俺も息を止めるくらい美しい光景だった。小さな星屑が黒い空一面に散りばめられているのだ。

 これまで生きてきてこんなにゆっくり夜空を見たことがあっただろうか。

 感動して言葉が出ないでいると、アンジェの体が動いた。手に持った何かを構え、夜空を仰いで深呼吸する。

 アンジェが手に持っているのは小型の竪琴だった。彼はそっと弦に手を触れると、指で弦をはじいた。

 綺麗な音色だった。この暗闇に溶けてしまいそうなほど穏やかな音色で、聴いているだけで心が和らいだ。

 静かに、そして華麗にアンジェは竪琴を奏でる。その姿に俺もノアもただ黙って耳を傾けていた。声をかけてはいけない。曲を止めてはいけない。二人共、考えていることは同じだった。

 だが、一曲引き終わると、アンジェは竪琴を下ろし、徐に夜空を仰いだ。

「……起こしちゃった?」

 優しく微笑みながらアンジェはこちらを振り向く。どうやら、彼もずっと俺たちがそばにいることを気づいていたようだ。

「いや――こっちこそ、邪魔してごめん」

 謝ると、アンジェも「ううん」と首を横に振った。

「竪琴、弾けるんだな。上手くてびっくりした」

「そんなことないわよ、あたしなんて全然……でも、たまにこうして弾きたくなるのよね」

「もう弾かないのか?」

「あら、あたしの演奏聴いてくれるの? ムギちゃんがそう言うなら、あたし頑張っちゃうわよ」

「フフッ」とアンジェが笑うので、俺も微笑み返した。

 彼の演奏会が始まる。なので、俺もアンジェもひとまずは草原の上に座った。

 アンジェの奏でる音色に俺もノアもうっとりとしながら聴いていた。夜空の下で聴く竪琴。こういうクラシックのような曲はまったく興味なかったが、アンジェの演奏は心地いい。

 それにしても、イケメンで、性格も良くて、強くて、料理が上手くて楽器も弾けるとは。「天は二物を与えず」と言うけれども、ここの神様は彼に何物与えているのだろう。羨ましい限りだ。けれども、一切妬まないのはやはり彼の人柄なのだろう。

 そんなことを考えていると、アンジェが竪琴を弾きながら俺に話しかけてきた。

「どう? 『オルヴィルカ』の生活が慣れた?」

「あ、うん……ミドリーさんもセリナも、凄く良くしてくれる」

「そう。それはよかったわ」

 話しながらもアンジェの演奏は止まっていない。指は滑らかな動きで弦を弾き、流れるように奏楽する。なんというテクニックだ。こんなこと真似できん。

 呼吸をするように竪琴を鳴らすアンジェに感心していると、再びアンジェが俺に声をかけてきた。

「セリちゃんったら、ムギちゃんのことを気にしてたわよ。罪な男ね」

「罪って……あ、そういえばアンジェからセリナに頼んでくれてたんだろ? ありがとな」

「お礼なんか言わないで。ああいうのはセリちゃんのほうが向いてるし、何より、セリちゃんとあなたもお友達になれると思ったからね。ちょっとお節介しただけ」

 アンジェいわく、セリナの周りには同年代の友達がいないのだという。

 二十歳過ぎると嫁ぐか、職に就くかでこの街を出るのが多いらしい。クラスに恵まれたセリナはギルトの【創造者クリエーター】として街に残ったが、彼女は職員の中でも年少のほうだし、何より忙しいから新たに友達を作る時間もないのだという。
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