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第3章 青年剣士の過日
第53話 答え合わせをしよう
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「それで、彼女と少しは遊べたの? まさか、修行で終わった訳ではないでしょう?」
アンジェがからかうようにニッと口角を上げる。俺が彼女にデートの一つやふたつしたことを期待しているのだろう。しかし、残念ながらアンジェの期待に沿うことはできていない。行ったといっても――……。
そう思ったところで、脳裏にあの日の光景が甦った。
咲き乱れる花々と、墓石の前で静かに祈るセリナ。そして、その墓石に刻まれた名前……。
ああ、そうだ。俺、アンジェに聞かなければいけないことがあったんだっけ。
「……ムギちゃん?」
いきなり黙りこくる俺を、アンジェが心配そうに見つめてくる。一方、隣で寝転がっていたノアも何か察したようで、口を噤んだまま俺のことを見上げていた。
「……行ったよ。墓参りだけど」
その言葉で、アンジェの手がピタリと止まった。
「それは……誰の?」
そっと草原に竪琴を置いたアンジェが、静かに俺に問いただす。
そんな彼に向け、俺は意を決して答えを告げた。
「イルマ――踊り子の、イルマ」
『名高き踊り子 イルマ ここに眠る』
あの墓には、そんな名前が刻まれていたのだ。
だが、その名前を言ってもアンジェは「そう……」と呟くだけで、顔色一つ変えずに続けて問うた。
「ムギちゃんはそのイルマって子のこと知っているの?」
「この街にいた若干二十歳の凄腕【踊り子】……って、ミドリーさんから聞いた」
「あら、意外な名前が出てきたわね。聞いた情報はそれだけ?」
「ミドリーさんからはそれだけ。あと、セリナからは自分の幼馴染だってこと……だな」
正直に答えると、アンジェは「なるほどね」と太ももに肘を突いて息を吐く。
確かに二人から聞いたのはそこまでだ。
ここからは、俺の憶測の話になる。
「イルマって……アンジェの妹だろ?」
単刀直入にぶつけると、アンジェの目が大きく開いた。
「……どうしてそう思ったの?」
冷静を取り繕っているつもりだろうが、アンジェが動揺しているのは見て取れた。
だが、憶測なりに根拠もあった。
「アンジェって……確か二十五歳だよな?」
「そうだけど、あたし、あなたに年齢なんて言ったかしら?」
「いや、言ってない。でも、アンジェのギルドカードに書いてたから」
「そう――そういえば、あの時カードを見せてたっけ」
アンジェの言う『あの時』とは、俺がギルドに登録する時のことだ。登録項目に住所があったから、その時に彼の住所を書き写させてもらっていた。
ギルドカードには他にも基本情報が記入されている。勿論、年齢もだ。ただ、あの時は第一印象通り俺より少し年上だったから気にも止めていなかった。
イルマがアンジェの妹だと気づいたのは、イルマとセリナが友達ということを知ってからだった。
アンジェの妹は五つ下。つまりイルマと同じ二十歳だ。
そしてその幼馴染であるセリナもおそらく彼女と同年代。
アンジェの妹がセリナの友達ならセリナの友達であるイルマがアンジェの妹の可能性も十分高い。
それに、俺がイルマのことを聞いた時、ミドリーさんもセリナも驚いていた。あれは、俺の無知さではなくアンジェが俺に何も話していないことに驚いていたのだ。
それでも二人が必要最低限のことしか俺に情報を与えなかったのは、彼らなりにアンジェの気持ちを尊重していたからなのだろう。
……ここまではまだ俺の憶測だ。
これからが根拠の話になる。
「ノアがリビングで言ってたんだ――アンジェの家、血か御霊か……その両方のにおいがするって。そしてイルマの墓参りをした時、『同じにおいだった』とも言っていた」
そう言うと、アンジェは愕然としたように息を詰まらせた。そして、徐に俺の隣にいるノアを見る。だが、ノアは何も言わず、ただ澄ました顔でアンジェを見つめ返すだけだ。
やがて、アンジェは観念したように小さく笑う。
「……根拠にノアちゃんを使うのはちょっとずるいわね」
「自分でもそう思うよ。でも、アンジェの家族があの家にいないことはもっと早く気づいてたんだ」
いや、それくらいは考えなくてもわかるはずだった。
なんせ、存在だけ出てきた妹と親父さんがこの家に一向に現れない。親父さんに至っては部屋や服を借りれている。
不在時に部屋や服を借りることは百歩譲って肯定しよう。だが、財布まで本人の物を借りれるのはどうだろうか。それはつまり、使う者がもういないと言っても過言ではない。
「イルマの隣で眠っているのが親父さん……なんだよな?」
改めて尋ねると、アンジェは力なく首を縦に振った。
どうやら俺の推理は憶測含めて正解だったようだ。
アンジェがからかうようにニッと口角を上げる。俺が彼女にデートの一つやふたつしたことを期待しているのだろう。しかし、残念ながらアンジェの期待に沿うことはできていない。行ったといっても――……。
そう思ったところで、脳裏にあの日の光景が甦った。
咲き乱れる花々と、墓石の前で静かに祈るセリナ。そして、その墓石に刻まれた名前……。
ああ、そうだ。俺、アンジェに聞かなければいけないことがあったんだっけ。
「……ムギちゃん?」
いきなり黙りこくる俺を、アンジェが心配そうに見つめてくる。一方、隣で寝転がっていたノアも何か察したようで、口を噤んだまま俺のことを見上げていた。
「……行ったよ。墓参りだけど」
その言葉で、アンジェの手がピタリと止まった。
「それは……誰の?」
そっと草原に竪琴を置いたアンジェが、静かに俺に問いただす。
そんな彼に向け、俺は意を決して答えを告げた。
「イルマ――踊り子の、イルマ」
『名高き踊り子 イルマ ここに眠る』
あの墓には、そんな名前が刻まれていたのだ。
だが、その名前を言ってもアンジェは「そう……」と呟くだけで、顔色一つ変えずに続けて問うた。
「ムギちゃんはそのイルマって子のこと知っているの?」
「この街にいた若干二十歳の凄腕【踊り子】……って、ミドリーさんから聞いた」
「あら、意外な名前が出てきたわね。聞いた情報はそれだけ?」
「ミドリーさんからはそれだけ。あと、セリナからは自分の幼馴染だってこと……だな」
正直に答えると、アンジェは「なるほどね」と太ももに肘を突いて息を吐く。
確かに二人から聞いたのはそこまでだ。
ここからは、俺の憶測の話になる。
「イルマって……アンジェの妹だろ?」
単刀直入にぶつけると、アンジェの目が大きく開いた。
「……どうしてそう思ったの?」
冷静を取り繕っているつもりだろうが、アンジェが動揺しているのは見て取れた。
だが、憶測なりに根拠もあった。
「アンジェって……確か二十五歳だよな?」
「そうだけど、あたし、あなたに年齢なんて言ったかしら?」
「いや、言ってない。でも、アンジェのギルドカードに書いてたから」
「そう――そういえば、あの時カードを見せてたっけ」
アンジェの言う『あの時』とは、俺がギルドに登録する時のことだ。登録項目に住所があったから、その時に彼の住所を書き写させてもらっていた。
ギルドカードには他にも基本情報が記入されている。勿論、年齢もだ。ただ、あの時は第一印象通り俺より少し年上だったから気にも止めていなかった。
イルマがアンジェの妹だと気づいたのは、イルマとセリナが友達ということを知ってからだった。
アンジェの妹は五つ下。つまりイルマと同じ二十歳だ。
そしてその幼馴染であるセリナもおそらく彼女と同年代。
アンジェの妹がセリナの友達ならセリナの友達であるイルマがアンジェの妹の可能性も十分高い。
それに、俺がイルマのことを聞いた時、ミドリーさんもセリナも驚いていた。あれは、俺の無知さではなくアンジェが俺に何も話していないことに驚いていたのだ。
それでも二人が必要最低限のことしか俺に情報を与えなかったのは、彼らなりにアンジェの気持ちを尊重していたからなのだろう。
……ここまではまだ俺の憶測だ。
これからが根拠の話になる。
「ノアがリビングで言ってたんだ――アンジェの家、血か御霊か……その両方のにおいがするって。そしてイルマの墓参りをした時、『同じにおいだった』とも言っていた」
そう言うと、アンジェは愕然としたように息を詰まらせた。そして、徐に俺の隣にいるノアを見る。だが、ノアは何も言わず、ただ澄ました顔でアンジェを見つめ返すだけだ。
やがて、アンジェは観念したように小さく笑う。
「……根拠にノアちゃんを使うのはちょっとずるいわね」
「自分でもそう思うよ。でも、アンジェの家族があの家にいないことはもっと早く気づいてたんだ」
いや、それくらいは考えなくてもわかるはずだった。
なんせ、存在だけ出てきた妹と親父さんがこの家に一向に現れない。親父さんに至っては部屋や服を借りれている。
不在時に部屋や服を借りることは百歩譲って肯定しよう。だが、財布まで本人の物を借りれるのはどうだろうか。それはつまり、使う者がもういないと言っても過言ではない。
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どうやら俺の推理は憶測含めて正解だったようだ。
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追記:2025/09/20
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