転生するのにベビー・サタンの能力をもらったが、案の定魔力がたりない~最弱勇者の俺が最強魔王を倒すまで~

葛来奈都

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第5章 『死の森』へ

第73話 邪魔者はいつも空気を読まない

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「あらあら、大丈夫?」

 アンジェが優しく背中をさすってくれるが、彼だって俺と同じダメージを受けているはずだ。それなのに顔色一つ変えず、涼しい表情をしている。

「ごめんねえ。フーリってば運転荒いのよ」

「荒いってどころじゃねえよ……てか、なんでそんなに余裕なんすかアンジェさん……」

「あたしは慣れてるから」

 フフッとアンジェが笑う。あの運転に慣れているとか、流石アンジェだ。あんなのに慣れるまで乗りたくないけど。

「ところでさっきなんでセントリーヌの足が光ってたんだ? あれも魔法?」

 だらんと荷台の背に持たれながら尋ねると、フーリが運転しながら答えてくれた。

「セントリーヌの蹄鉄にウィンド・コアがついてるんだ。それで、俺の魔法でスピードをあげてやった訳」

「あー、さっきの黄緑色の光ってそれか」

 確かフーリの属性魔法は「風」と言っていた。風属性の魔法はウィンド・コア・ピンでしか見たことがなかったので、新鮮に感じた。

「ああやってセントリーヌのスピードを上げて目的地までちゃっちゃといけば、帰りは移動魔法を使って馬車ごと戻ってくる。資材調達には打ってつけな魔法なんだよな」

 そう聞くとフーリが俺たちを森まで送り届けると言えた理由も、ミドリーさんが彼にその役目を託した理由もよくわかる。移動に特化した便利な属性だ。

「風属性ってことは、攻撃魔法は竜巻系か?」

 興味本位で訊いてみると、フーリは笑いながら「無理無理」と手を横に振る。

「そんな魔力の消費が多いのなんて使えねえよ。俺が使えるのは移動魔法とさっきみたいな素早さ向上魔法……あとはちょっとした風の盾くらいさ。完全に補助型なんだよ」

 だから、戦闘には向いていない。

 最後にそう付け足して、彼は視線を落とした。地図で道を確認しているらしい。

「森にはどれくらいで着きそう?」

「そうだな……このペースで行っても二時間かからないだろ。それまで休んでな」

 アンジェの問いにフーリがそう返したので、俺は遠慮なくだらけさせてもらった。

 ぼんやりと空を見上げる。雲一つないいい天気だ。感じる風も気持ちがいいし、乗り心地にも慣れてきた。

 束の間の休息と言ったところか。今は英気を養っておこう。

 ――そう思っていたのに、神はどこまでも俺たちに意地悪だった。

「ねえ、見て」

 突然アンジェが声をかけてきたので、俺はだらけていた姿勢を正した。

「あれ……何かしら」

 そう言ってアンジェは後方を目を凝らしながら見つめる。

 俺も彼と同じ方向に目をやってみると、確かに何かがこちらまで近づいていた。

「……なんだあれ?」

 眉をひそめて凝視しているうちに、どんどん接近するそいつらの姿を捉えることができた。人だ。馬に乗った二人組が物凄いスピードでこちらに近づいてくる。しかもあの覆面とバンダナ男は二十万ヴァル……じゃなかった、荒くれのドクとチャックだ。

「やべえフーリ! なんか来た!!」

「ああ? なんだよなんかって……うお!」

 振り向いたフーリがワンテンポ遅れて声をあげる。その頃には馬の速力で舞う砂埃までしっかりと見える程近づいていた。どうやら、フーリのように風の魔法を使って走力を上げているようだ。

「へへ、借りを返しに来たぜ」

 そう言ってバンダナ頭……チャックのほうがニタニタと笑いながら弓矢を構え始めた。狙いは、どう見ても俺たちである。

「なんだお前ら! ここまでついてきたっていうのか!?」

「当たり前だろ!」

「やられっぱなしは趣味じゃねえんだよ! ぶっ飛ばしてやるから覚悟しろ!」

 憤った荒くれ共が怒声をあげる。これにはアンジェも頭を抱えていた。恨みを買ってしまったのは自業自得とはいえ、何も今じゃなくていいだろうに。

 しかし、この中でとばっちりを受けているのは間違いなくフーリだ。

「なんだよあいつら! お前ら、なんかしたのか!?」

「えっと……あいつらは指名手配犯で……昨日アンジェとちょっとボコった」

「本当に何してるんだよ!! とにかくスピード上げるぞ!」

 フーリの一声でセントリーヌが「ヒヒン!」と力強く鳴いた。それを合図に馬車の速度は一気に上がり、荷台がその勢いで跳ね上がった。

 だが、チャックは弓を下げようとしない。このまま俺たちに向けて矢を放つつもりのようだ。
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