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第6章 森の奥の隠れ里
第93話 半分同じで、半分違う
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「――リオン?」
子供たちが石を投げていた先にはリオンがいた。しかも額や腕が流血している。
唖然とリオンを見ていると、彼はそっと腕の傷口に手をかざした。やがて彼の手が優しく白色に光ると、傷はその光に吸い込まれるように綺麗に治った。
「……治癒魔法?」
リオンの魔法にアンジェは目を見開く。
かく言う俺も驚いた。俺たちの傷も治してくれたと本人から聞いていたのにもかかわらず、これまでピンと来ていなかったのだ。
そうして固まっている間にも彼は額の傷もあっという間に治した。ただ、完全に傷が癒えても、彼の表情は今にも泣き出しそうだった。
「リオちゃん……」
アンジェが名前を呟くと、リオンはゆっくりと顔を上げた。
「アンジェ君……ムギト君……」
リオンの大きな目が涙で潤んでいる。すぐにサイズの合っていないぶかぶかの袖で涙を拭っても、彼の目は悲しそうにしぼんでいた。
今にも泣き出しそうなリオンにアンジェがたまらず近づいて彼の前にひざまずく。
「何があったか、聞いてもいい?」
眉尻をたらしながら優しい声で尋ねると、リオンはうなだれたままコクリと頷いた。
「最初はみんな、この広場で遊んでたんだ……だから、僕も一緒に遊んでほしくて声をかけたんだけど……やっぱりだめだった」
リオンの色白な小さい手にぐっと力が籠る。込み上がる悲しい気持ちを彼なりに押さえ込んでいるのだろう。こんな幼い子供が、こんな小さな体で。
「僕は……僕の血は穢れているから……みんな、僕のこと嫌いなんだって……だから、だから……」
リオンの声はどんどん震え、ついには言葉を詰まらせた。
けれども、彼が子供たちに声をかけた後の結末は俺たちが見た通りなのだろう。
拒絶され、石を投げられ、そして逃げられる。
ひょっとして子供たちが逃げたのは俺たちが人間だからというよりは、リオンに石を投げつけているところを他人に見られたからなのかもしれない。
「昨日も、一昨日もだめだった……でも、今日は大丈夫かもしれないって思ったの……けど、けど……」
涙声になるリオンの言葉を遮るように、アンジェは静かに抱きしめた。
いきなり抱きしめられたリオンは驚いて目を見開くが、アンジェはリオンに構わず彼の後頭部にそっと自分の手を添えた。
「……頑張ったわね」
アンジェの囁きに、リオンの表情が一瞬固まった。
だが、やがてくしゃっと顔を歪め、しがみつくようにアンジェの背中に腕を回した。
おそらく、毎日子供たちに声をかけていたのだろう。「今日はきっと大丈夫」と、自分に言い聞かせて。だが、現実は非情で、子供たちはただ残酷だった。
「うぅ……」
リオンの目から大粒の涙が伝う。
この感じだと、子供も大人も彼を拒絶しているのだと思う。
みんなが協力しあって生活している中、彼は独りだった。この丈にあっていない古い服も、ライザ以外誰も彼に与えてくれないからなのだろう。
――リオンはハーフエルフだ。それは、特別に説明がなくてもわかっていた。彼の耳はエルフのようにあんなに尖っていない。人間の俺たちよりはほんの少し耳が長いかもしれないが、その見た目は明らかにエルフとかけ離れていた。
けれどもライザとはどことなく顔が似ていたから、彼と兄弟であることは確かなのだろう。ただ、半分違う血が混ざっているというだけで。
「僕ね……本当はここにいちゃいけないんだって……大人は兄ちゃんがいるから何もできないけど……本当は……死んじゃえって……思ってるって……」
むせび泣きながら告げるリオンに俺たちは何も言えなかった。
この里の闇をひしひしと感じる。そして、必死に弟を守るライザの人知れぬ苦悩と努力にも密かに脱帽した。
ただ、いくらライザが頑張っても手の届かないところはどうしても出てくる。ライザがどんな手を使って大人たちに容認させているのかはわからないが、子供たちはそうは行かない。
それと、どんな傷をつけられても、リオン自身で治せてしまうのがまた酷だ。子供たちもそこに漬け込んでいる可能性だってある。体の傷は治せても、心の傷は魔法では治せないのに。
子供たちが石を投げていた先にはリオンがいた。しかも額や腕が流血している。
唖然とリオンを見ていると、彼はそっと腕の傷口に手をかざした。やがて彼の手が優しく白色に光ると、傷はその光に吸い込まれるように綺麗に治った。
「……治癒魔法?」
リオンの魔法にアンジェは目を見開く。
かく言う俺も驚いた。俺たちの傷も治してくれたと本人から聞いていたのにもかかわらず、これまでピンと来ていなかったのだ。
そうして固まっている間にも彼は額の傷もあっという間に治した。ただ、完全に傷が癒えても、彼の表情は今にも泣き出しそうだった。
「リオちゃん……」
アンジェが名前を呟くと、リオンはゆっくりと顔を上げた。
「アンジェ君……ムギト君……」
リオンの大きな目が涙で潤んでいる。すぐにサイズの合っていないぶかぶかの袖で涙を拭っても、彼の目は悲しそうにしぼんでいた。
今にも泣き出しそうなリオンにアンジェがたまらず近づいて彼の前にひざまずく。
「何があったか、聞いてもいい?」
眉尻をたらしながら優しい声で尋ねると、リオンはうなだれたままコクリと頷いた。
「最初はみんな、この広場で遊んでたんだ……だから、僕も一緒に遊んでほしくて声をかけたんだけど……やっぱりだめだった」
リオンの色白な小さい手にぐっと力が籠る。込み上がる悲しい気持ちを彼なりに押さえ込んでいるのだろう。こんな幼い子供が、こんな小さな体で。
「僕は……僕の血は穢れているから……みんな、僕のこと嫌いなんだって……だから、だから……」
リオンの声はどんどん震え、ついには言葉を詰まらせた。
けれども、彼が子供たちに声をかけた後の結末は俺たちが見た通りなのだろう。
拒絶され、石を投げられ、そして逃げられる。
ひょっとして子供たちが逃げたのは俺たちが人間だからというよりは、リオンに石を投げつけているところを他人に見られたからなのかもしれない。
「昨日も、一昨日もだめだった……でも、今日は大丈夫かもしれないって思ったの……けど、けど……」
涙声になるリオンの言葉を遮るように、アンジェは静かに抱きしめた。
いきなり抱きしめられたリオンは驚いて目を見開くが、アンジェはリオンに構わず彼の後頭部にそっと自分の手を添えた。
「……頑張ったわね」
アンジェの囁きに、リオンの表情が一瞬固まった。
だが、やがてくしゃっと顔を歪め、しがみつくようにアンジェの背中に腕を回した。
おそらく、毎日子供たちに声をかけていたのだろう。「今日はきっと大丈夫」と、自分に言い聞かせて。だが、現実は非情で、子供たちはただ残酷だった。
「うぅ……」
リオンの目から大粒の涙が伝う。
この感じだと、子供も大人も彼を拒絶しているのだと思う。
みんなが協力しあって生活している中、彼は独りだった。この丈にあっていない古い服も、ライザ以外誰も彼に与えてくれないからなのだろう。
――リオンはハーフエルフだ。それは、特別に説明がなくてもわかっていた。彼の耳はエルフのようにあんなに尖っていない。人間の俺たちよりはほんの少し耳が長いかもしれないが、その見た目は明らかにエルフとかけ離れていた。
けれどもライザとはどことなく顔が似ていたから、彼と兄弟であることは確かなのだろう。ただ、半分違う血が混ざっているというだけで。
「僕ね……本当はここにいちゃいけないんだって……大人は兄ちゃんがいるから何もできないけど……本当は……死んじゃえって……思ってるって……」
むせび泣きながら告げるリオンに俺たちは何も言えなかった。
この里の闇をひしひしと感じる。そして、必死に弟を守るライザの人知れぬ苦悩と努力にも密かに脱帽した。
ただ、いくらライザが頑張っても手の届かないところはどうしても出てくる。ライザがどんな手を使って大人たちに容認させているのかはわからないが、子供たちはそうは行かない。
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