転生するのにベビー・サタンの能力をもらったが、案の定魔力がたりない~最弱勇者の俺が最強魔王を倒すまで~

葛来奈都

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第6章 森の奥の隠れ里

第102話 その風は誰のもの

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 一方、俺たちのやり取りを眺めていたアルジャーは頭の後ろで腕を組みながら退屈そうにしていた。

「ねー。まだっすかー。俺は別に誰とでもいいんすけどー」

 ゆらゆらと体を揺らしながら、俺たちの戦闘準備が整うのを待っている。その隣で、リッチーヌは身をかがめながら俺たちをじっと見つめていた。両者共戦いたくてうずうずしているようだ。

「……待たせたな」

 アルジャーたちに向けて笑みを浮かべながら、ライザは銃を持った手でトントンと自分の肩を叩く。俺のバトルフォークの柄を握り直せば、いつでも戦える。

「待ってました」

 緊張感が流れる中、アルジャーは無邪気な顔で自分の両腕に鉄の爪を付けた。これが、彼の武器のようだ。

「そっちは頼んだよ! リッチーヌ!」

 アルジャーが声を高らかにあげると、それと調和するようにリッチーヌが吠えた。

 身をかがめたアルジャーが力強く地面を蹴る。その瞬間、数メートル先にいたはずのアルジャーが一気に俺の懐に入ってきた。

「速っ!」

 反射的にバトルフォークを構えて振るってきたアルジャーの爪を押さえ込む。

 この速さはまるで獣。まったくもって目で追えなかった。

「あれあれ~? いいの? 終わっちゃうよ」

 そう言ってアルジャーはにんまりと笑う。これまで通り軽めの明るい口調であるが、目はもう笑っていない。こいつもる気満々である。

「汚物、そのまま押さえとけ!」

 俺の後ろでライザが銃を構える。アルジャーの間に俺がいるとはいえ、射程距離はごくわずかだ。この距離で撃たれたらひとたまりもない――はずなのに。

「おおっ! こわっ!」

 驚いたような声をあげながらも、アルジャーはトリガーを引いたタイミングを見切ってこの距離で水の銃弾を避けた。

「マジかよ!」

 目の前で尋常じゃない動きを見せつけられ、思わず驚愕する。この瞬発力。反応速度。人間とはかけ離れている。

「じゃ、次は俺の番だ」

 八重歯を見せながら笑うアルジャーだったが、その口の中から火の外炎がいえんが見えた。
 もしやこれは――火の息か?

 嫌な予感したので、俺は力いっぱい振り払ってアルジャーを押し込んだ。

 しかし、アルジャーは器用にバッグステップで俺の押し込みをかわした。力を受け流したおかげで、奴はバランスを崩すことなく、すぐに体勢を戻せた。

 至近距離を保ったまま、アルジャーは両腕を広げて大きく息を吸う。膨れ上がった頬はゆで蛸のように赤くなり、口の中から外炎が溢れていた。 

 こんなほぼゼロ距離なところで息なんて吐かれていたら、どう足掻いても直撃だ。このままでは、丸焦げになってしまう。

「やっべ!」

 一歩大きく後ろに下がったが、俺は十分奴の射程距離に入っていた。

 焦る俺を見てアルジャーがほくそ笑む。どれもこれも悪足掻きだと言っているのだろう。

 ぷくっと頬を膨らませ曇り空を仰ぐ。このままアルジャーは、俺に向かって息を吐くのだ。

 燃やされる――そう思ったその時だ。

 彼が息を吐き出そうとする直前に、突然俺たちの前に竜巻のようなつむじ風が現れた。

 風は竜巻の形を保ったままアルジャーのほうに流れる。アルジャーがその風に触れると、風の刃が彼の体を傷つけた。これには彼もたまらず腕でガードし、口の中にため込んでいた火炎も一気に呑み込んだ。

「なになに!?」

 突然の出来事にギョッとしながら、アルジャーはバク転して風から逃げる。すると、風はまるで自分の役目を終えたかのように一瞬で消え去った。

 何事もなかったかのように無風になる辺りに、俺もアルジャーも混乱のあまり動きが止まる。

 アルジャーはさぞ驚いただろうが、俺も何が起こったかわからなかった。ただ、死を覚悟したせいで心臓だけがバクバクと高鳴っている。

 そんな中、リオンだけが真剣な表情で俺のことを見つめていた。しかも、アルジャーに向かって腕を突き出して。

「……だいじょぶ?」

 拙い口調でリオンが心配そうに小首を傾げる。その後ろでは愕然としたアンジェが言葉を失っていた。彼は、今の流れの一部始終を見ていたのだ。

 つまり、あの風は――

 そう思った時、今度はリッチーヌがアンジェたちに牙を向けた。
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