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第7章 流浪人とエルフの子
第113話 ライザの昔話
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◆ ◆ ◆
あれは、『ザラクの森』を抜けて数年が経った時のことだった。
数年といえども、里はまだ開拓までは至っていなかった。人が踏み入れることのなかった何もない場所で、しかも自給自足で暮らそうとしていたのだ。各々張りぼての家を作って、女は畑を耕し、男は食料を得るために猟に出る。
そんな原始時代に戻ったような暮らしをしていた。
とにかく人手が足りなかったから、子供たちも働かざるを得なかった。俺も例外ではなく、あの頃は毎日のように里の近くの河原で釣りをし、少しでも食料の足しにしていた。
釣りといっても、しょぼいものだった。動物の骨から作った釣り針をテキトウな紐と枝に括りつける。そんなもので釣りをしていたから、一日で数匹程度しか釣れない日もあった。
あの日も俺は一人河原に釣り糸を垂らしていた。
釣れない釣りは本当に苦行だった。ただひたすら水面を見つめ、釣り糸の動きに変化がないか観察する。かといって少しでも目を離したらその隙に魚が逃げてしまうかもしれない。いかに集中できるか、自分との戦いでもあった。
そんな時、向こう岸の奥に見える森から、ガサッと物音がした。方向は『ザラクの森』だ。ひょっとすると、動物か魔物が森を抜けてここまでやってきたのかもしれない。
ガサゴソと揺れ動く長い草に警戒する。子供一人で魔物を相手にできるのかと思われそうだが、舞台は河原。俺は水を飛沫にして飛ばすことができるから、たとえ俺一人でもある程度は戦えることができた。大人たちも、それを見越して俺を釣り担当にしていた。
呑気な俺は「食える生き物かな」としか思っておらず、釣竿を下ろし、物陰が出てくるのを待った。
しかし、現れたのは俺の想像を絶する者だった。なんせ出てきたのは、全身金属の鎧を装備した人間だったからだ。しかも、頭部も鉄仮面で守っており、顔もろくに見えなかった。
いったい何者か。そもそも男なのか女なのかもわからない来訪者に俺は緊張ですっかり固まってしまった。それでもその来訪者は無言でずかずかと河原のほうへ歩いて行った。
間に河原があるのにどうするのかと思いきや、そいつは問答無用で河原に突っ込んでいった。
しかし、奴が水面に一歩足を踏み入れると、まるで浮いているようにそのまま水の上を歩いた。あんな重装備の鎧や鉄仮面をかぶっているのだから、軽くないはずないのに。
唖然としながら近づくそいつを見ていると、奴は俺の前に立ち止まり、俺と視線を合わせるように軽くかがんだ。
「君……釣りをしていたの?」
度肝を抜いた。鉄仮面の奥から聞こえたのは若い女の声だった。
突然話しかけられ混乱した俺は、正直に首を縦に振った。すると、そいつは「そっか」と軽く笑って、徐に河原のほうを振り向いた。
「そんな釣竿なら全然釣れないでしょ。私に任せて」
そう言ってそいつは、付けていた小手を外し、パチンと指を鳴らした。
その途端、いきなり河原に小さな竜巻が現れた。その竜巻の中には巻き込まれた魚がビチビチと足掻くように跳ねている。だが、その竜巻がなくなると立ち上った勢いで魚は宙を舞い、そのまま岸に落っこちた。
異様な光景だった。何時間釣り糸を垂らしても一匹たりとも釣れなかったのに、一瞬にして岸に何匹も魚が打ち上げられているのだ。この急展開に俺は呆然と立ち尽くすことができず、口をあんぐりとさせながらも、現れたその女を見つめることしかできなかった。
女はというと、「ふぅ」と息をついたあと、付けていた鉄仮面を外した。
露わになった彼女の長い緑色の髪が頭を振るうことで靡かれる。声は女だったとはいえ、実際に顔を見るまで性別は半信半疑だった。しかもこんな重装備をしているとは思えないほど華奢で、色白な女だった。
長い髪。宝石のような緑色の目。そして整った顔立ち。純粋に、綺麗な女だと思った。そして何より、亡くなった母親と同年代に見えたものだから、つい彼女に母親の面影を見てしまった。
そのような俺の心情も知らずに、彼女は屈託のない笑顔を浮かべながらシャキッと敬礼した。
「初めましてエルフ君。私はオリビア。さすらいの【創作者】です」
そんな明るい口調な彼女に、俺はたじたじになりながらも咄嗟に名乗った。
「ラ、ライザ……です」
それが、俺とオリビアの出会いだった。
あれは、『ザラクの森』を抜けて数年が経った時のことだった。
数年といえども、里はまだ開拓までは至っていなかった。人が踏み入れることのなかった何もない場所で、しかも自給自足で暮らそうとしていたのだ。各々張りぼての家を作って、女は畑を耕し、男は食料を得るために猟に出る。
そんな原始時代に戻ったような暮らしをしていた。
とにかく人手が足りなかったから、子供たちも働かざるを得なかった。俺も例外ではなく、あの頃は毎日のように里の近くの河原で釣りをし、少しでも食料の足しにしていた。
釣りといっても、しょぼいものだった。動物の骨から作った釣り針をテキトウな紐と枝に括りつける。そんなもので釣りをしていたから、一日で数匹程度しか釣れない日もあった。
あの日も俺は一人河原に釣り糸を垂らしていた。
釣れない釣りは本当に苦行だった。ただひたすら水面を見つめ、釣り糸の動きに変化がないか観察する。かといって少しでも目を離したらその隙に魚が逃げてしまうかもしれない。いかに集中できるか、自分との戦いでもあった。
そんな時、向こう岸の奥に見える森から、ガサッと物音がした。方向は『ザラクの森』だ。ひょっとすると、動物か魔物が森を抜けてここまでやってきたのかもしれない。
ガサゴソと揺れ動く長い草に警戒する。子供一人で魔物を相手にできるのかと思われそうだが、舞台は河原。俺は水を飛沫にして飛ばすことができるから、たとえ俺一人でもある程度は戦えることができた。大人たちも、それを見越して俺を釣り担当にしていた。
呑気な俺は「食える生き物かな」としか思っておらず、釣竿を下ろし、物陰が出てくるのを待った。
しかし、現れたのは俺の想像を絶する者だった。なんせ出てきたのは、全身金属の鎧を装備した人間だったからだ。しかも、頭部も鉄仮面で守っており、顔もろくに見えなかった。
いったい何者か。そもそも男なのか女なのかもわからない来訪者に俺は緊張ですっかり固まってしまった。それでもその来訪者は無言でずかずかと河原のほうへ歩いて行った。
間に河原があるのにどうするのかと思いきや、そいつは問答無用で河原に突っ込んでいった。
しかし、奴が水面に一歩足を踏み入れると、まるで浮いているようにそのまま水の上を歩いた。あんな重装備の鎧や鉄仮面をかぶっているのだから、軽くないはずないのに。
唖然としながら近づくそいつを見ていると、奴は俺の前に立ち止まり、俺と視線を合わせるように軽くかがんだ。
「君……釣りをしていたの?」
度肝を抜いた。鉄仮面の奥から聞こえたのは若い女の声だった。
突然話しかけられ混乱した俺は、正直に首を縦に振った。すると、そいつは「そっか」と軽く笑って、徐に河原のほうを振り向いた。
「そんな釣竿なら全然釣れないでしょ。私に任せて」
そう言ってそいつは、付けていた小手を外し、パチンと指を鳴らした。
その途端、いきなり河原に小さな竜巻が現れた。その竜巻の中には巻き込まれた魚がビチビチと足掻くように跳ねている。だが、その竜巻がなくなると立ち上った勢いで魚は宙を舞い、そのまま岸に落っこちた。
異様な光景だった。何時間釣り糸を垂らしても一匹たりとも釣れなかったのに、一瞬にして岸に何匹も魚が打ち上げられているのだ。この急展開に俺は呆然と立ち尽くすことができず、口をあんぐりとさせながらも、現れたその女を見つめることしかできなかった。
女はというと、「ふぅ」と息をついたあと、付けていた鉄仮面を外した。
露わになった彼女の長い緑色の髪が頭を振るうことで靡かれる。声は女だったとはいえ、実際に顔を見るまで性別は半信半疑だった。しかもこんな重装備をしているとは思えないほど華奢で、色白な女だった。
長い髪。宝石のような緑色の目。そして整った顔立ち。純粋に、綺麗な女だと思った。そして何より、亡くなった母親と同年代に見えたものだから、つい彼女に母親の面影を見てしまった。
そのような俺の心情も知らずに、彼女は屈託のない笑顔を浮かべながらシャキッと敬礼した。
「初めましてエルフ君。私はオリビア。さすらいの【創作者】です」
そんな明るい口調な彼女に、俺はたじたじになりながらも咄嗟に名乗った。
「ラ、ライザ……です」
それが、俺とオリビアの出会いだった。
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