転生するのにベビー・サタンの能力をもらったが、案の定魔力がたりない~最弱勇者の俺が最強魔王を倒すまで~

葛来奈都

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第11章 ダンジョン名『旧灯台』

第161話 それでは、また後で

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「そうか……君たち、やはり『オルヴィルカ』の者か」

 俺たちを見てオズモンドさんは嘆かわしそうに深く息を吐く。そして頭を振るい、冷静な口調ではっきりと俺たちにこう告げた。

「……連れて行かれたよ。その、パルスという青年にね」

 思わず眉をひそめてしまったが、驚きはしなかった。

「あー……やっぱり?」

 本音を漏らしながらがしがしと頭を掻く。

 想像通りだ。「神官を救ってゲームクリア」だなんてパルスの奴がぬるいことをするはずがない。ただ、予想が的中しても最悪の想定だ。気分はよくない。

「どうするよ」と話を振るように仲間を見てみると、最初にアンジェの怒りを感じ取れた。ハットで目元を隠してこちらに悟られないようにしているが、憤怒のオーラは隠しきれていない。それは新参者のリオンにも十分伝わっており、天真爛漫な彼の表情がいつもより硬くなっていた。

 張りつめた空気間に誰もが神妙な顔つきになる。

 だが、この緊張感の中で口を開いたのは他でもなくアンジェだった。

「とにかく、みなさまはここから避難を」

 そう言ってアンジェは鞄から出したウィンド・コア・ピンを壁の端目がけて投げた。

 部屋の端で小さな風が渦巻く。あの風の中に入れば彼らはここから脱出できる。

「『オルヴィルカ』に繋がっております。ギルドにいるセリナという【創設者《クリエイター》】を尋ねればきっと保護してくれるかと」

「し、しかし、ミドリーは……」

「ミドリー神官は我々が必ずお助けしますのでご安心を」

 きっぱりとアンジェは言い放ったが、それでも神官たちはおどおどしていた。遠回しに「頼りない」と言われているのだろう。だが、そんなこと構うものか。

 おどおどしながら神官たちは俺たちに言ってくる。

「こっちは名指しで喧嘩売られてるんすよ。行くっきゃねえじゃないっすか」

 ぐっと握った拳でパンッ!と反対側の手のひらを当てる。

「安心してください。あんたらも分もあいつのこと殴っておくんで」

 眉間にしわを寄せて神官に言うと誰も彼もが唖然とした様子で俺たちのことを視ていた。だが、オズモンドさんだけは真摯な眼差しを向けており、何か決したようにコクリを深く頷いた。

「……お前たち、先に行っていなさい」

「ですが、神官長は――」

「私は彼らを回復させてから行く。すぐに追いつくさ」

 ニッと口角を上げるオズモンドさんに神官たちは深々と頭を下げた。

 お辞儀をする者、礼を言う者、声援を送る者、いろんな神官に声をかけられる中一人、また一人と風の中へ消えていく。

 その中でオズモンドさんは静かに俺たち三人の前に立った。

「……君たちに神のご加護があらんことを」

 オズモンドさんの手が淡く黄緑色に光り、ふわっと俺たちの頭上で腕を振る。

 キラキラとした光の粒子が俺たちの頭上に降り注ぐ。たったそれだけのことなのに体がスッと軽くなった。あれだけたまっていた疲労感が一瞬にしてなくなったようだ。

「もしかして……マジックパワーも回復しているの?」

 アンジェは驚いたように自分の手を見つめて何度も瞬きをしている。

 ぽかんとしながらオズモンドさんを見ると、彼は口を噤んだまま頬を綻ばせた。完全回復。これが神官長の治癒魔法だというのか。

「……あとは頼んだぞ」

「――はい!」

 彼の鼓舞に俺たちは期待に応えるように口を揃える。その様子に肩に乗ったノアが満足そうに笑う。

 そうしているうちに部屋の隅にあったウィンド・コア・ピンの風が小さくなっていた。こちらのほうはそろそろ時間切れだ。

「では、後程」

 それだけ言ったオズモンドさんは軽く手を挙げて俺たちに別れを告げる。そして彼が風の中に入った途端、風は役目を終えたように消えていった。

 神官たちは見届けた。体力も回復をした。残った仕事はあと一つ。

 ――待ってろよ、化け猫眼鏡。

 脳裏に浮かんだパルスの笑みに闘志を燃やすように、俺はグッと拳に力を籠めた。
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